【3377】 ○ 柴田 彰/加藤 守和 『ジョブ型人事制度の教科書―日本企業のための制度構築とその運用法』 (2021/02 日本能率協会マネジメントセンター) ★★★☆

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「教科書」であると同時に、コンサルティング会社の「販促本」でもある?

ジョブ型人事制度の教科書1.jpg 『ジョブ型人事制度の教科書 日本企業のための制度構築とその運用法』['21年]

 ヘイグループを一部前身とするコンサルティングファーム「コーン・フェリー」に属する著者らによる本書は、「ジョブ型」人事制度について書かれた初めての専門書であるとのことです。本書で言うジョブ型人事制度とは、人事制度を構成する等級制度・評価制度・報酬制度が「ジョブサイズ(職務価値)」を核として構成される仕組みで、ヘイグループが開発したものです。

 第1章では、ジョブ型人事制度はここ数年、第3次ブームを迎えているとしています(第1次ブームは2000年前後の「成果主義ブーム」、第2次ブームは2010年~2015年の「グローバル人事ブーム」)。いまジョブ型人事制度が求められる背景として、変化の激しい事業環境への対応、同一労働同一賃金の要請、高齢化社会の到来などを挙げています。

 第2章では、日本企業でもジョブ型制度の普及が進んでいて、その狙いは、年功序列の打破、適所適材の実現、スペシャリスト人材の活用にあるとしています。また、非管理職にも広がりつつあるとしながらも、新卒一括採用・ゼネラリスト育成はジョブ型に馴染まないとしています。さらに、日本企業が簡単にジョブ型制度へ移行することができない理由として、企業文化の問題、異動の柔軟性の阻害、運用負荷の増大の3つを挙げています。

 第3章では、日本企業の労働慣行とジョブ型制度のギャップを分析しています。ジョブ型制度において異動は類似した職種になるのが原則であるとし、新卒一括採用・ゼネラリスト育成との兼ね合いについて考察、日本企業に合ったジョブ型制度として、職能型からスタートしてジョブ型にシフトしていくハイブリッド型の制度を提案しています。

 第4章では、ジョブ型制度における等級制度について解説しています。その根幹は職務等級であり、職務評価の仕方やそれを踏まえた等級体系の構築、職務記述書の作成方法などについて解説しています。

 以下、第5章と第6章で、ジョブ型制度における評価制度と報酬制度について、第7章と第8章で導入コミュニケーションと運用体制・プロセスについてそれぞれ解説し、第9章でジョブ型制度の導入事例を紹介しています。最終章の第10章では、ジョブ型制度の導入における課題として、メンバーシップ型雇用の発想を転換する必要があるとしています。

 以上の通り、ジョブ型制度とは、職務等級制度を基本人事制度とする制度であり、本書は、職務等級制度の「教科書」とも言えるものでした。その意味ではオーソドックスな内容ですが、特に目新しいものではないように思いました。

 2000年前後に多くの企業が職能資格制度から職務等級制度への移行を図り、必ずしもうまくいかなかった結果として、両方を中和したような役割等級制度が主流になっていたという経緯があるかと思います。中には、役割給が総合決定給化して、賃金制度が年功的な運用になっていることが問題化しているケースもあるかと思われます。そうした状況を打開するうえで本書は参考になるかもしれません。ただし、「メンバーシップ型雇用の発想を転換する」ということにまでなると、制度だけ入れれば済むというものではなく、まだまだ多くの議論の余地があるようにも思います。

 「ジョブ型」の意味ですが、「日本企業でもジョブ型制度の普及が進んでいる」という言い方をする際には「役割・職務給」という捉え方をし、そのほかのところでは、職務等級制度という意味で使っているのが気になりました。

 「教科書」であると同時に、コンサルティング会社の「販促本」でもあるように思われました。職務主義のベクトルを全否定はしませんが、自社に企業風土改革の素地が無いのに安易に飛びつくと上手くいかないこともあるだろうし、自分のところだけでは出来ないということでコンサルティング会社の協力を仰ぐと、費用ばかり高くついて自社に合わないものが出来上がってしまう可能性もあると思います。

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