【3376】 ○ 白河 桃子 『働かないおじさんが御社をダメにする―ミドル人材活躍のための処方箋』 (2021/02 PHP新書) ★★★★

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「働かないおじさん」を変える、ミドル人材が活性化される仕組み例を多く紹介。

働かないおじさんが御社をダメにする.jpg働かないおじさんが御社をダメにする ミドル人材活躍のための処方箋 (PHP新書)』['21年]

 本書によれば、長年、企業を悩ませているのが「働かないおじさん=成果を出せないミドル社員」問題であり、テレワークが進んだ昨今は、成果を出せる社員とそうでない社員に二極化し、企業側も、年功序列でパフォーマンス以上に高い給与をもらっている彼らにどう対応すべきか、判断を迫られているとのこと。しかし、政府の働き方改革実現会議で有識者議員を務めた著者は、働かないおじさんの本質は「"変化に対応できないこと"にある」と言い、そのため、企業が変化に強い社員・風土を育てられなければ、今いる働かないおじさんをリストラしても、第二第三の「働かないおじさん」が生まれ続けるだけだと。そこで本書では、ミドルシニア層を活用しながら、働き方改革や業務改善に成功している各種企業の事例を解説することで、「ミドル活躍で伸びるすごい会社」の共通点を探ろうとしています。

 因みに、本書で取り上げられている「おじさん」とは、実際的にはミドル世代を指しますが、必ずしも性別や年齢で特定はしないようです。簡単に言うと、アップデートしない人、変化に抵抗する人が該当します。そして、「おじさん=変化を拒む人」を活性化することで、企業力は確実にアップするとしています。

 本書は以下の6章から構成されています。
  第1章:働き方のパラダイムシフトが起きた!
  第2章:「働かないおじさん」はこう変える!ミドル活用の「新常識」
  第3章:ミドル人材が活性化される仕組み 「ミドル人材活躍推進」の先進事例
  第4章:「ミドル人材活用」の担当者たちが本音を語る
  第5章:「新しい人材」としてのミドル
  第6章:変わるマネジメント こらからの時代に求められる「ミドル人材」とは

 第1章「働き方のパラダイムシフトが起きた!」では、コロナ禍で起きた「働き方」のパラダイムシフトについて説明、経営者や管理職、一般社員までもがテレワークを利用したことで、仕事における時間と場所の意識にパラダイムシフトが起きたとしています。

 第2章「「働かないおじさん」はこう変える!ミドル活用の「新常識」」では、そんな中でミドルの意識改革をどう進めるべきかを考察、働き方改革を拒むのは「おじさん」たちだが、抵抗勢力だからといって、彼らを取り残したまま働き方改革を進めても、生産性の高い組織にはならないとし、働かないおじさんの6つのリスクとして、
  組織のリスクその1:イノベーションの停滞
  組織のリスクその2:生産性の低下
  組織のリスクその3:不祥事の発生
  組織のリスクその4:優秀なイノベーション人材がトップになれない
  個人のリスクその1:若手のモチベーション低下
  個人のリスクその2:会社におじさんの居場所がなくなる
を挙げ、さらに、おじさん(ミドルシニア)が変わるための5つの提案として、
  提案1:旅に出よ、ワーケーションせよ
  提案2:自分をマネジメントするスキルを身につけよ
  提案3:自分のキャリアを取り戻せ
  提案4:有害なステレオタイプから自由になれ
  提案5:我に帰れ
を挙げています。

 第3章「ミドル人材が活性化される仕組み」では、「ミドル人材活躍推進」の先進事例として、
  大和証券:「ASP研修」&「ライセンス認定制度」(45歳以上の学びと成長の場)
  三菱地所:プロパティマネジメントの業務改善プロジェクト(残業3割削減・残業代は給与に還元)
  チェリオコーポレーション:残業25%削減、生産性2割増
  キリンホールディングス:「なりキリン」プロジェクト(おじさんたちが「働くママパパ」の日常を体験)
  ロート製薬:「ロートネーム」でおじさんと若手の壁をなくす
を紹介しています。これらを見ると、企業によってさまざまアプローチがみられることが窺えます。

 第4章「「ミドル人材活用」の担当者たちが本音を語る」では、企業で「おじさん改革」に取り組む担当者の座談会で、現場の実態と本音を知る上で参考になるかと思います。

 第5章「「新しい人材」としてのミドル」では、おじさんたちを新たな人材として採用し、ベテランならではの経験や能力を組織として積極的に活用している企業やプログラム例として、
  森下仁丹:「第四新卒」採用
 「キャリア・シフトチェンジ(C&C)」プログラム
を紹介しています。これらは、おじさんたちを新たな人材として採用し、ベテランならではの経験や能力を組織として積極的に活用している企業であったり、「第二の新人教育」として中高年が長く活躍するための研修に取り組んでいる事例になります。

 第6章「変わるマネジメント」では、こらからの時代に求められる「ミドル人材」像を探っています。また、、「マネジメントFができるミドル」を育成するための研修事例を紹介しています。紹介されている事例は、
  カゴメ:評価制度改革(役員でも減収あり。納得感のある「人事評価」)
  P&G:「アンコンシャスバイアス研修」でおじさんのマネジメント」を変える

 事例が豊富に紹介されており、また、その事例部分が本書の核となっているかと思います。これら先進事例における制度的なアプローチは多岐多様であり、その中で共通項を見出すと言うよりも、自社で制度設計する際のヒントになるものがあれば参考にするといった感じではないでしょうか。

 むしろ共通するのは、その根底にある、「働かないおじさんたち」を排除するのではなく、多様な人材が一体となって価値を生む「インクルージョン」を重視する考え方であり、こうした課題に組織的に取り組んでいる企業がすでにいくつもあるという点が、本書の最も啓発される要素であったように思います。

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