【3173】 ○ マイケル・シンプスン 「シャーロック・ホームズの冒険(第28話)/ソア橋のなぞ」 (91年/英) (1991/08 NHK) ★★★★

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TVシーリーズの中でベストエピソードとする人も多い作品。

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シャーロック・ホームズの冒険 完全版 Vol.16 [DVD]」「シャーロック・ホームズの冒険 レディー・フランシスの失踪/ソア橋のなぞ(英日対訳ブック 特典DVD付き)

「ソア橋のまぞ」8.jpg 金鉱王として有名な大富豪ギブソン(ダニエル・マッセイ)の妻マリア(セリア・グレゴリー)が射殺体となってソア橋の上で発見され、当家の家庭教師でグレース(キャサリン・ラッセル)という女性が逮捕される。夫人は頭を撃たれており、凶器と思われる銃がグレースの部屋から見つかったのだ。だがギブソンは彼女の無実を主張。証拠品やアリバイから、嫉妬を買ったダンバー嬢がマリアと揉み合っているうちの悲劇とも考えられたが、本人はそれをも否認。一方、ギブスンが潔白を主張する理由は、彼が好意を示した際に慈善に動くよう諭されたダンバー嬢の人柄だという。絞首刑の危機が迫るグレースを救うため、ホームズ(ジェレミー・ブレット)は捜査に乗り出す―。 

 英国グラナダTV(ITV)製作、ジェレミー・ブレット(Jeremy Brett、1933-1995)主演の「シャーロック・ホームズの冒険」(1984~1994、全41話)の第28話で、本国では1991年2月28日に放映、日本では第29話として1991年8月28日に放送されました。アーサー・コナン・ドイルの原作は、1922年に発表され、1927年発行の第5短編集『シャーロック・ホームズの事件簿』(The Case-Book of Sherlock Holmes) に収録されています(原題:he Problem of Thor Bridge)。

 ストーリーはおおよそ原作通りですが、ギブソンがベーカー街のアパートに戻ってしまい事件の事情を話さないことが大きな違いです(ギブスンは馬車ではなく運転手付きのT型フォードを移動手段として用いている)。結局、ギブソンがホームズに事情を話したのは自身の屋敷の敷地内「ソア橋のなぞ」あ.jpgで、なぜかアーチェリーをしながらでした。このアーチェリーの場面(ホームズも弓を引く)は原作にはありません。ただ、ギブスンがホームズに依頼しておきながら、捜査に非協力的なのは原作と同じです(家庭教師を愛してしまったことへの衒いがあるのか)。

 トリックは分かってみれば単純なのですが、マリアが自らの命を絶たってまでもダンバー嬢に報復しようしたのは、彼女もまた夫を愛していたからであり、これを行き過ぎた愛情と呼ぶべきか、それとも、夫の愛を失った女性の悲劇と見るべきか、何れにせよ彼女の激情的な気質が原因です(だからこそ夫の心が離れていったのだと思うが)。

 こうした哀しい人間ドラマがバックボーンにあり、トリックも単純とは言えまさか自殺とは考えつかないため、TVシーリーズの中でベストエピソードとする人も多い作品です(野外ロケが多く、イギリスの田舎の美しさを満喫できるのもいい)。一応、ギブスンは嫌疑の晴れたグレースと結ばれることになる結末ですが、手放しでハッピーエンドと喜んでもおられないのでは。

 因みに、ここからはネタばれになりますが、凶器のピストルに紐で重りを結びつけ、その重りでピストルを引っ張ることで現場から凶器を移動させ隠すことにより、自殺を他殺に見せかけるというこの短編のトリックには、モデルとなった実際の事件があり、それは、「ヨーロッパにおける犯罪学の創始者」といわれるハンス・グロスの著書に記されている事件だそうです。

 この実際の事件は、ある早朝にドイツ人の穀物商が、橋の上で頭をピストルで撃たれ死亡しているのが発見されたことに始まり、凶器のピストルは現場に見当たらず、当初は強盗による殺人事件と考えられ、付近にいた浮浪者が一人、容疑者として拘束されました。しかし、予審判事が死体の側の欄干に新しい不審な傷があるのを発見したことから、橋の下の水中を浚ってみることになり、その結果、水中から紐で結ばれたピストルと石が引き上げられました。鑑定の結果、穀物商の頭部に残されていた弾丸はこのピストルで撃ったものだと確認され、最終的には、困窮していた穀物商が高額の保険金を目当てに自殺したのだと結論づけられたとのことです。

 多分、コナン・ドイルはこの事件を参考したのだと思いますが、自殺では家族へ保険金が支払われないため、強盗に襲われたように偽装したと考えられる実際の事件を、愛憎の縺れに起因する事件に置き換えたところに巧さを感じます。

「ソア橋のなぞ」s.jpg「シャーロック・ホームズの冒険(第28話)/ソア橋のなぞ」●原題:THE ADVENTURE OF SHERLOCK HOLMES: THE PROBLEM OF THOR BRIDGE●制作年:1991年●制作国:イギリス●本国放映:1991/02/28●監督:マイケル・シンプスン●脚色:ジェレミー・ポール●原作:アーサー・コナン・ドイル●時間:48分●出演:ジェレミー・ブレット/エドワード・ハードウィック/ダニエル・マッセイ/キャサリン・ラッセル/セリア・グレゴリー●日本放映:1991/08/28 (NHK)(評価:★★★★)
 

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