【2803】 ◎ ジェイ・ウォーリー・ヒギンズ 『秘蔵カラー写真で味わう60年前の東京・日本 (2018/10 光文社社新書) ★★★★☆

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単なる鉄オタの趣味の域を超え、日本の文化・風俗への愛着の想いが伝わってくる。

秘蔵カラー写真で味わう60年前の東京・日本.jpg秘蔵カラー写真で味わう60年前の東京 日本64.jpg   ジェイ・ウォーリー・ヒギンズ2.jpg   続・秘蔵カラー写真で味わう60年前の東京・日本.jpg
秘蔵カラー写真で味わう60年前の東京・日本 (光文社新書)』['18年] J.Wally.Higgins氏 続・秘蔵カラー写真で味わう60年前の東京・日本 (光文社新書)』['19年]
2019.2.21朝日新聞(夕刊)
秘蔵カラー写真で味わう60年前の東京・日本3図1.jpg 昭和30年代にアメリカ軍の軍属として来日し、更に国鉄の顧問に就任して、趣味の鉄道写真を撮り続けたジェイ・ウォーリー・ヒギンズ氏(1927年生まれ、本書刊行時点で91歳)による、当時の写真を集めた写真集。プロの写真家ではないのに、これだけ東京および全国各地の鉄道写真を撮りためていたというのはスゴイなあと思いました。

 タイトル通り、大きく分けて東京編とローカル編といった感じの分け方になっていて、東京・ローカルとも、とりわけ路面電車に重点が置かれていますが、それら路面電車は今日、車両はもちろん、路線そのものが殆どすべて無くなっているので、大変貴重な写真の数々と言えます。

秘蔵カラー写真で味わう60年前の東京 日本621.jpg 東京で路面電車となると、やはり都電がメインになります。今は都電荒川線しかないけれど(「東京さくらトラム」という愛称のようだ)、昭和30年代には都内のあちこちに都電が見られたことが分かります。ローカル編では、個人的には昭和39年に福井市に居たため、その頃街中を走っていた路面電車の写真が懐かしかったです。

福井駅前(1964年)

 また、路面電車というのは街中を走るため、車両だけではなく、当時の町や人々の様子、文化や風俗まで一緒に映し込んでいて、その点でも非常に興味深く味わえる写真が多かったです。電車を撮らずに、都会や地方の人々の暮らしぶりだけを撮った写真も多くあり、自らを「乗り鉄で撮り鉄」と"鉄オタ"風に称しているものの、単なる趣味の域を超えて、日本の文化・風俗への愛着と(因みに奥さんは日本人)、これを海外に伝えたいというその想いが伝わってきます。

 さらに、昭和30年代に一般の日本人が撮る写真といえば殆どモノクロであったわけで、それがカラーで残っているというのも貴重です。しかも、米軍に属していた関係で、当時としては日本のフィルムメーカーのものより色が劣化しにくかったコダックのカラーフィルムを使えたというのも大きいし(結局、60年の年月を経ても混色することが無かった)、スライド形式で、NPO法人名古屋レール・アーカイブスによって大量6000枚保管されていたというのも驚きです。

昭和30年代乗物のある風景 西日本編.jpg発掘カラー写真 昭和30年代鉄道原風景 路面電車編.jpg 本書の写真はその中から400枚近くを抜粋したものですが、もっと見たければ、JTBパブリッシングから「発掘カラー写真」シリーズとして『昭和30年代鉄道原風景(路面電車編・東日本私鉄編・西日本私鉄編・国鉄編)』、『昭和30年代乗物のある風景(東日本編・西日本編)』、『昭和40年代鉄道風景(東日本編・西日本編)』などの大判写真集が刊行されています。
発掘カラー写真 昭和30年代鉄道原風景 路面電車編 (単行本)

 個人の地道な継続と、いくつかの幸運の積み重ねで、こうした写真集が出来上がったと思われ、鉄道ファンの間では神様のような人だというのがわかる気がするし、鉄道ファンだけでなく広く人々の目に触れるよう新書化した企画意図も、編集にあたったスタッフの努力も評価したい一冊です。
発掘カラー写真 昭和30年代乗物のある風景 西日本編

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