【3354】 ◎ 角 直紀 『ストーリーでわかる! 人材マネジメントの課題解決 (2020/04 中央経済社) ★★★★☆

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「自社最適」の制度・施策に至るまでの課題解決プロセスをケースで体系的に示す。

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ストーリーでわかる! 人材マネジメントの課題解決』['20年]

 自社の人事管理は、本当に上手く行っているのだろうか―組織人事コンサルタントによる本書では、人事施策の企画から実行までの最適解を導くための課題解決のプロセスを、「第Ⅰ部 人材フレーム」「第Ⅱ部 人材マネジメント」「第Ⅲ部 人事機能」の3つの領域における各3つ計9つの事例を通して、具体的なテーマを取り上げて解説しています。

 9つの事例(実際にあったものを複合して構成)の課題解決へのプロセスは、おおよそ、①事実の把握、②原因の掘り下げ、③課題の明確化、④打ち手の検討→実施という流れになっていて、各領域にまとめの章を設けてポイントを整理しています(したがって本書は全3部12章構成となっている)。

 例えば第Ⅰ部で取り上げられているのは、職能資格制度から仕事ベースの人事制度に移行する際に"ベストプラクティス"であると考えて導入した制度が実情に合わず、運用段階で骨抜きとなったため、自社にとって"ベストフィット"である制度に修正したA社のケース(第1章)、全国転勤のある総合職とは別に地域限定総合職制度を導入したもののローテーションに支障が生じ、総合職の在り方とその育成・選抜の在り方から見直すことでコース設定を見直したB社のケース(第2章)、ダイバーシティ推進計画を立てたものの、関係者の足並みが揃わず、「良い企業」を目指すののか「強い企業」目指すのか、組織のアイデンティをどこに置くかトップに確認した上で、改革シナリオを練り直したC社のケース(第3章)です。

 第Ⅰ部はいずれも「人材フレーム」の見直しを迫られたケースですが、第Ⅰ部のまとめの章(第4章)では、人材フレームは組織文化と密接にかかわっているとして、組織文化を捉える3段階モデルとして「制度・ルール」レベル、「方針・戦略」レベル、「価値観・行動様式」レベルを挙げ、A社のケースは制度レベル、B社のケースは方針レベル、C社のケースは価値観・行動様式レベルにそれぞれ問題があったとし、このように課題が3段階のどのレベルにあるかを見極めた上で、どのようにしたら課題が解決できるかを考えていくべきだとしています。

 第Ⅱ部では、いずれも「人事マネメント」の課題として、部下を叱れない上司のケース(第5章)、成果主義に賛成しつつも差をつけない評価者のケース(第6章)、次世代幹部育成が、名ばかり「タレントマネジメント」として華々しいが、実態が伴っていないケース(第7章)と、それらをどうやって克服したかというケースが紹介されており、ここでも、打ち手を講じる前に課題がどのレベルにあるのか見極めることを説いています(第8章)。

 さらに第Ⅲ部では、「人事機能」に関する課題として、研修制度において本来受けなければならない人が受けていないというケース(第9章)、内部通報制度が機能せず不祥事が発覚した際に、人事部はどう組織改革に取り組むべきかというケース(第10章)、働き方改革実現に向けて、第1フェーズは上手くいったものの第2フェーズにおいて社内の足並みが揃わなくなったケース(第11章)を取り上げ、その課題克服のプロセスを示すとともに、まとめの章(第12章)では、「人事機能」とは何かを、デイビッド・ウルリッチが『MBAの人材戦略』で示した人事の「4つの役割」を用いて解説、さらに、人事機能をめぐる日本企業の課題とこれから取り組むべきことを示しています。

 ケースがいずれも実際にありそうなものばかりで、社内政治を含めた現実的な課題解決のプロセスが体系的に整理されている点が良いと思いました。世間で「良い制度」と言われているものが必ずしも「自社最適」とは言えず、では、理想と現実の間の溝をどうやって埋めるかというのは、多くの人事パーソンが直面する問題かと思いますが、自社にとっての「良い制度」として定着させるにはどこから着手すればよいかを考える上でヒントを与えてくれる本でした。

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