【3353】 ○ 野村 浩子 『女性リーダーが生まれるとき―「一皮むけた経験」に学ぶキャリア形成』 (2020/03 光文社新書) ★★★★

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女性幹部育成にポジティブアクションは必須。やらない企業は時代に遅れていく。

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女性リーダーが生まれるとき 「一皮むけた経験」に学ぶキャリア形成 (光文社新書)』['20年]

 本書によれば、日本では、政治の世界も経済の世界も、意思決定層は「日本人、男性、シニア」と極めて均質であり、2019年12月、世界経済フォーラムから発表されたジェンダー・ギャップ指数で、日本は調査対象の153カ国中121位、過去最低の順位であり、女性リーダーの少なさが、下位低迷の大きな要因とのことです。海外各国では働く女性の現況に危機感を抱き、変化を加速させていて、意思決定層に女性を増やさないと日本は変わらない、それどころか、このまま沈んでしまうと―。

 本書は、四半世紀にわたって女性リーダーの取材を続けてきた著者が、国内外の女性役員にインタビューしたもので、それら「生の声」に、これからの時代を生き抜くヒントが眠っているとしています。

 第1章、第2章で、企業の役員となった女性たち10人のその道のりを紹介しています。第1章では、均等法世代の総合職一期生、二期生としての道を歩んで役員となった女性を5人、第2章では、役員に就いた年代が30代から50代までの様々なキャリアの女性を、短大卒一般職、地域限定職などから役員になった人も含め5人紹介しています。この10人のキャリアの紹介が本書の半分強を占めます。

 第3章では、こうした女性役員の歩んだキャリアを分析し、その中で「一皮むけた経験」とは何だったのかを見ていくと、男性役員と大差なく、
1.キャリアの初期で、仕事を任せて鍛えてくれる上司と出会っている
 2.転勤も海外赴任もいとわずにキャリアを築いてきた
 3.仕事で修羅場(過酷な経験、失敗体験)を経験した
4.「目をかけ引き上げてくれる人」に早い時期に巡り合っている
5.「ガラスの天井」も「ガラスの壁」もなかった
といったものになるとしています。その上で、女性幹部の育成を加速させるにはいわゆる「ポジティブアクション」が必要であるとして、そのポイントを整理しています。

 第4章、第5章では海外に目を転じています。第4章では監査役会を対象に「女性を3割以上にすべし」というクオータ制を導入したドイツにおいて、それでも残るさまざまな女性に特有の壁を克服して、企業の取締役や監査役になった女性たちに、自らの成長体験は何だったのかを訊き、第5章では、米国シリコンバレーで、その地においてさえまだ根強いジェンダー・バイアスと闘って、CEOなどエグゼクティブの地位に就いた女性たちに、今までのどのような経験が役に立ち、何をモットーに仕事に向き合ってきたのかを訊いています。

 第6章では、女性のキャリア形成が世代によりどう違うのかを考えるとともに、まだ残る女性管理職ならではの壁についても証言から明らかにし、女性課長のキャリア形成の3つのポイントを挙げるとともに、女性課長を悩ませる5つの壁を整理し、第7章では、女性幹部育成にまつわる5つの誤解と題して、根強い根強いジェンダー・バイアスと女性幹部育成の関係を、アンケート調査から探っています。

 やはり、第1章、第2章の女性役員たちのキャリアの紹介がインパクトがありました。部下全員が年上の男性だったり、部長職を解任されたり、リストラの矢面に立たされたりと、各章末に図解で可視化されたキャリアの軌跡は"山あり谷あり"で多様でありながらも、"谷"の部分、乃至はコンフォートゾーン(居心地のいいポジション)を抜け出す契機となったものは何だったのかという点について共通項が見られるようにも思いました。

 それが、第3章にある「一皮むけた経験」であると思いますが、それを見ると、確かに本人の頑張りや有能さもあるとは思われ、実際に第1章、第2章などは"列伝"風に読めてしまう側面もある(そのため抵抗を感じる読者もいるのではないか)、その一方で、見方によっては、会社や上司がその女性を育てる環境を用意したからこそ、彼女たちのキャリアがあったともとれます。だからこそ、著者が、女性役員を増やすためには、トップ主導での「ポジティブアクション」が必要であると説くのは、よく分かるように思いました。

 サブタイトルからも窺えるように、神戸大学・金井壽宏教授の『仕事で「一皮むける」―関経連「一皮むけた経験」に学ぶ』('02年/光文社新書)にインスパイアされてその女性版を指向したものですが、よく纏まっていて("本家"以上(?))、ジェンダー・バイアスの解消がこれからの社会には必要であり、いま会社の経営方針としてそれを進めることが求められており、施策を講じない企業はどんどん時代の流れに遅れていくと改めて思わせられる本でした。

《読書MEMO》
●女性幹部育成のポイント(第3章)
 ➀トップダウンで、必要性を繰り返し説く
 ②経営戦略に組み込み、目標を定める
 ③管理職の育成責任を明確にする
 ④女性社員のキャリア意識を高める
 ⑤アンコンシャス・バイアスの影響を取り除く
●女性課長のキャリア形成の3つのポイント(第6章)
 1.「武者修行」の機会を20代のうちから与える
2.子育てとの両立で、管理職のイメージを塗り替えていく
3.管理職へのルートが多様化している
●女性課長を悩ませる5つの壁(第7章)
 その1:「女性枠」と抜擢の度に言われる
 その2:成功しても失敗しても目立ってしまう
 その3:上の世代の女性管理職との「世代差」に悩む
 その4:男性とは違う「母親的」リーダー像を求められる
 その5:振り返ると、あとに続く後輩がいない
番外編:夫との家事育児分担・収入差という「家庭内の壁」
●女性課長を悩ませる5つの壁(第7章)
 その1)女性は管理職になりたがらない
  → 昇進意欲は男性の方が強いが、リーダー意欲に男女で大きな差はない
 その2)管理職にふさわしい女性がいない
  → 女性はリーダーに向かないというジェンダー・バイアスがある
その3)女性は「木を見て森を見ず」、大局観に欠ける
  → 男女のリーダーシップ・スタイルに差はない
その4)管理職のハードワークは、子育て中の女性には難しい
  →「女性はハードワークに耐えてはいけない」という刷り込みがある
 その5)女性管理職には、面倒見のいいお母さんタイプが多い
  → これからの時代、管理職には男女を問わず「個別配慮」が求められる

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