【3343】 ○ 小野 隆/福村 直哉/岡田 幸士 『最強組織をつくる人事変革の教科書 (2019/12 日本能率協会マネジメントセンター) ★★★★

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人事変革の手法と言うより、その前提となるフレームの認識の在り方を説いた本。

最強組織をつくる人事変革の教科書.jpg 『最強組織をつくる人事変革の教科書』['19年]

 デトロイトトーマツのコンサルタントらによる本書は、人事は今大きな転換期を迎えており、「人事のあり方」を刷新しようとする動きが本格的に加速し始めているとした上で、人、組織、企業そして社会を変えていく人事とは何かを、人事のトレンドから実際の人事変革アプローチまで要素分析し、体系的に整理したものです。

 第1章では、人事が影響を与える3つの領域として「従業員一人ひとりの世界」「経営の世界」「社会」を挙げ、それぞれどのような影響を与えるのかを説明しています。「従業員個人」に与える影響に関しては、これまでの"会社・組織目線"での従業員エンゲージメントから、"従業員主導"の経験・価値の実現に対して人事が関わることの重要性を提唱しています。また、「経営」に対する影響としては、人事の成熟度が高まれば高まるほど、企業のパフォーマンスが高まるとし、「社会」に対する影響としては、SDGs(持続可能な開発目標)に基づき課題を整理し、人事との関連が深い目標にどのように人事が関わるべきかを示しています。

 第2章では、人事の実態をデータや事例から検証し、業務量を集計してみると、業務量の80%程度がオペレーション業務に費やされていることが分かったとし、戦略・企画業務により力を入れなければならないと人事自身も認識しているはずだが、過去から積み重なった様々な慣習が、人事を機能不全にし、知らぬ間に人事の変革を鈍らせているとしています。その上で、機能不全をその人事の特徴になぞらえて、「独りよがり」「成り行き」「管理者」「アナログ」の4つに類型化し、その原因を踏まえてそれぞれ解説しています。

 第3章では、これからの世界で勝つ"最強の人事"とは何かを、デロイトグローバル共通の方法論である「Future of HR」という人事変革コンセプトを活用して明らかにしています。「Future of HR」は、「これからの人事が真に価値を発揮し、新しい未来に踏み込みこんでいくための観点はどのようなものか」という問いに答える考え方で、「マインドセット」「フォーカス」「レンズ」「イネーブラー」という4つから構成されるとしています。

 第4章では、最強の人事に変革するための"6つのステップ"を紹介し、その大きな流れは、Step1:現状分析、Step2:設計方針策定、Step3:概要設計、Step4:詳細設計、Step5:実行計画策定、Step6:実行であるとしています。各社の置かれている外部環境や自社の人事課題、これまでの人事変革の達成状況によって、アプローチややり方が異なるため、全てを本書に記載することは困難であると断りながらも、実際のプロジェクトの中で共通的に実施し、特に重要だと考える、人事変革の具体的な流れと外してはいけないポイントは記載したつもりとのことです。

 第5章では、最強人事を担う"人事プロフェッショナル"について定義し、育成の考え方を提示しています。これまでの人事の担い手を、その求められてきた要件から「人事オペレーション人材」と呼ぶ一方で、最強の人事の担い手を「人事プロフェッショナル」と呼ぶことにしたと。人事変革に終わりはなく、絶えず変化する外部環境・内部環境に人事も合わせて変化し続ければならない―その変化に対応できるのはプロフェッショナルたる真の人事人材であるとし、人事ぷろっフェッショナルを育成する要件を示しています。

 最後に、人事は構造的な課題を抱えているとした上で、人事変革で成功するために絶対に外してはいけないことちして、1.人事変革コンセプトを言語化すること、2.人事担当役員またはそれに相当する方がプロジェクトをリードし、意思決定をタイムリーに行うこと、3.施策の実行者自身が実行プランを考えること、4.施策の実行者には専任メンバーを充てること、5.抵抗勢力は想像している以上に多いと思うこと、の5つを掲げていますが、何れもなるほどと思わされるものでした。

 人事を取り巻く環境変化、人事が機能不全に陥っている状況、人事に求められる役割、人事人材の育成も含めた人事変革の進め方についt、まさに「教科書」的に網羅されており、人事は、従業員個人、経営、社会に対して影響を及ぼす存在としてその価値が高まっていくとしており、これからの人事の仕事は非常にタフになるが、挑戦的で面白くもなるとの結語は、人事パーソンの胸に響くのではないでしょうか。

 良書だと思いますが、ややコンサルファームっぽさが匂う印象も(「具体策はご相談ください」的な)。個人的には、人事変革の具体的手法と言うより、その前提となるフレームの認識の在り方に重きを置いて説いた本のように思いました。

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