【3306】 ◎ イリス・ボネット (池村千秋:訳) 『WORK DESIGN(ワークデザイン)―行動経済学でジェンダー格差を克服する』 (2018/07 光文社) ★★★★☆

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ジェンダー平等のための行動デザインのステップを解説。人事面的にも示唆に富む。

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WORK DESIGN(ワークデザイン):行動経済学でジェンダー格差を克服する』['18年]

 「慣行とプロセスを変える」「能力を築く」「リスクのある環境のバイアスを緩和する」...。本書は、ハーバードの女性行動経済学者が、男女平等を実現するためのステップを、科学的な知見に基づいて解説した本です。

 序章「行動デザインの力」では、人は誰でもジェンダーのバイアスと無縁ではなく、一方で、ジェンダーの平等はビジネスに好影響を及ぼすという結果があり、では、バイアスを克服するにはどうすればよいかというと、実証されている方法論として、行動デザインによって効果が得られることがわかっているとしています。そして、以下、各章において、ジェンダー平等のためのデザインのあり様を解説しています。

 第Ⅰ部「問題」では、第1章で、無意識のバイアスはいたるところに潜んでいることを事例で示し、第2章で、バイアスを変えるには、慣行とプロセスを変える必要があるとしています。それには4つのステップがあり、それは①バイアスに影響される可能性の認識、②バイアスがはたらく方向性についての理解、③バイアスに陥った場合の素早い指摘、④分析とコーチングを伴う研修の実施であると。ただし、ダイバーシティ研修などを受けさせると、完全に効果になる危険があり、理性的な判断を促すために「反対を考える」「自分の内部の集合知を活用する」といった訓練を積ませるべきだとしています。

 第3章では、主張する女性が直面するリスクについて取り上げ、交渉の機会を等しく確保して女性に発言や交渉を促すこと、何が交渉可能かについて透明性を高めること、女性が他人のために交渉するよう促すことが必要であるとしています。

 第4章では、女性に(男性にも)汎用型のリーダーシップ研修を受けさせるのはやめ、メンタリング、スポンサーによる支援、人的ネットワークづくりなど、成功するために必要な要素を提供し、リーダーシップの能力を育むとともに、計画立案、目標設定、フィードバックなどの行動デザインを駆使して、好ましい行動を継続するための支援をすべきであるとしています。

 第Ⅱ部「人事のデザイン」では、第5章で、人事上の決定にデータを活用すべきであるとし、データを収集・分析してパターンを見出すことで予測をどのように行い、数値計測によって問題点をあぶり出して、よりよい解決策を探し、どのような対策が有効か明らかにすべきであるとしています。

 第6章では、人材の評価においては、履歴書から人種や性別などの情報を取り除き、候補者の評価は、資質を測るためのテストや構造化面接で行い、自由面接やパネル面接は避けるべきだとしています。

 第7章では、適切な人材を採用するには、求人広告などからジェンダーのステレオタイプに沿った表現を取り除き、オフィスの滞在時間ではなく成果に基づいて給料を払うようにし、求人に対する応募プロセスを透明にせよとしています。

 第Ⅲ部「職場と学校のデザイン」では、第8章で、職場や学校の環境のバイアスを緩和することでリスクをの在り方を調整し、誰もが能力を発揮できる環境をつくることを提案し、第9章では、ジェンダー・バイアスが弊害を生まないよう、性別を問わず平等な条件で競い合えるようにするにはどうすればよいかを説いています。

 第Ⅳ部「ダイバーシティのデザイン」では、第10章で、女性のローモデルをつくることの重要性を説き、第11章では、集団的知性が花開く環境をつくるにはどうすればよいかを説いています。第12章では、「規範起業家」となって平等促進の成功例を目立たせたり、法律・ルール・倫理要綱などを通じて規範を表現せよとしています。第13章では、行動科学的に賢明な情報開示と説明責任の在り方を説いています。

 最後に、行動設計を成功させるための変革のデザイン(DESIGN)とは、
  D = データ(data)
  E = 実験(experiment)
  SIGN = 標識(signpost)であるとしています。

 序章に書かれている「カーテンの向こうのバイオリン」の事例が印象的で、それはオーケストラ演奏家の採用試験で審査員と演奏家をカーテンで隔てて、誰が演奏しているか審査員に見えないようにすることで、女性演奏家が最終的に採用される割合が5%から35%と飛躍的に増えたという事例です。このような発想の転換でジェンダー平等が実現できるのだなあと気づかされた思いです。

 ダイバーシティ研修は人々の考え方を変えられないばかりか、免罪符効果(人は好ましい行動を取ったあとに、悪い行動を取る傾向がある)によって、より差別的になる可能性がある、という指摘も刺激的でした。ジェンダー・バイアスを取り除くための行動デザインのヒントが詰まった、人事面的に見ても示唆に富む本です。


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