「●人事マネジメント全般」の インデックッスへ Prev|NEXT ⇒ 【3309】黒田 兼一 『戦後日本の人事労務管理』
従業員を大人として扱い、「自由と責任の文化を築く」ことこそが重要と説く。
『NETFLIXの最強人事戦略 自由と責任の文化を築く』
Patty Mccord
本書(原題:Powerful: Building a Culture of Freedom and Responsibility,2018)は、世界最大級の動画ストリーミング配信事業会社ネットフリックスにおける先進的な人事戦略について、同社で長年CHO(最高人事責任者)を務めた著者がまとめた一冊で、シリコンバレーで話題になったスライド資料で、著者自身も作成に関わった「ネットフリックスカルチャーデッキ」を書籍化したものとも言える本です。
本書で紹介されているネットフリックスが開発した新しい人材管理手法が前提としているのは、従業員の忠誠心を高め、会社につなぎ止め、やる気と満足度を上げるための制度を導入することが人材管理であるという一般的な考え方のものではなく、ビジネスリーダーの役割は、すばらしい仕事を期限内にやり遂げる、優れたチームをつくることであり、そのために、まず従業員に一貫してとってほしい行動をはっきり打ち出し、それを実行するための規律を定着させる「自由と責任の文化を築く」ことこそが経営陣のやるべきことであるとの考えです。
第1章では、チームが最高の成果を挙げられるのは、メンバー全員が最終目標を理解し、その目標に達するために思うまま創造性を発揮して問題解決に取り組めるようにしなければならず、チームのやる気を最大に高めるのは、ともに切磋琢磨できる優れたチームメンバーが揃っていることであるとしてしています。
第2章では、従業員一人ひとりが、自分とチームの任務だけでなく、事業全体の仕組みや会社が抱える課題を大局的に理解することが大切で、そのためには、経営陣と従業員の双方向のコミュニケーションが常に必要であるとしています。
第3章では、従業員は事業や自分の業績について、ありのままの真実を聞く必要があり、またそれを願っていて、正直に、適切なタイミングで、面と向かって気になる点を伝えることに勝る問題解決はないとしています。
第4章では、意見を育み、事実に基づいて議論を行うことの重要性を説き、経営判断をめぐる白熱したオープンな議論に参加するのは、チームにとってスリリングな体験であり、チームは分析力を最大限に発揮してこれに応えるだろうとしています。
第5章では、徹底して未来に目を向け、未来の理想の会社を今からつくり始めるべきであって、俊敏さを保ち、変化に素早く対応するために、将来必要となる人材を今から雇うべきであるとしています。
第6章では、採用担当者の最も重要な仕事は、ハイパフォーマーを採用することであり、人材定着率はチームづくりの成功を測る指標にはならず、最もよい指標は、すべての職務に優れた人材を配置できているかどうかであるとしています。
第7章では、その人材が会社にもたらす価値をもとに報酬を決めるべきであって、会社の成長のカギを握る職務に携わる人材には、その分野のトップレベルの給与を支払うことを検討すべきであるとしています。
第8章では、「積極的に解雇する」というのはネットフリックス文化の中でもマネジャーにとって慣れるのが難しい部分ではあるが、必要な人材変更は迅速に行うことは重要であり、「過去に多大な貢献」をした人でも、「もっているスキルが会社に必要なくなれば」解雇せねばならず、また、円満な解雇のためには、その会社で働いていたことを誇れるような組織にすることが大事であるとしています。
高給を用意するが、自分のキャリは自分でコントロールすることを求め、会社として従業員のキャリア開発をすることはせず(むしろ定期的に他社の面接を受けることを奨励している)、人事考課も経費規定もなく、休暇も自由裁量―ネットフリックスのこうした進歩的な人事管理手法は、米国企業の間でも自社では導入できないといった声が少なからずあったとのことですが、「従業員を大人として扱う」という考え方は、これまでの日本的経営における会社と従業員の関係の在り方が「働き方改革」等の流れの中で見直しを迫られている中で、我々に何らかの啓発的なヒントを与えてくれるようにも思いました。
《読書MEMO》
●章立て
序章 新しい働き方―自由と責任の文化を育む
第1章 成功に貢献することが最大のモチベーション
第2章 従業員一人ひとりが事業を理解する
第3章 人はうそやごまかしを嫌う
第4章 議論を活発にする
第5章 未来の理想の会社を今からつくり始める
第6章 どの仕事にも優秀な人材を配置する
第7章 会社にもたらす価値をもとに報酬を決める
第8章 円満な解雇の方法
結論