【2658】 ○ 﨑山 みゆき (監修:長田久雄) 『シニア人材マネジメントの教科書―老年学による新アプローチ』 (2015/05 日本経済新聞出版社) ★★★★

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老年学の観点からシニア人材マネジメントに言及した初の本。

シニア人材マネジメントの教科書.jpgシニア人材マネジメントの教科書 ―老年学による新アプローチ』(2015/05 日本経済新聞出版社)

 本書では、これまで企業で行われてきたシニア人材に向けた施策だけでは、シニア人材を活かし組織パフォーマンスを上げることは難しいとしています。なぜならば、そこにはシニア人材そのものを理解するという根本的な部分、すなわち「世代」という観点が抜け落ちているからであるとのことです。

 シニアには心理、身体、キャリアスタイルなど、若年層とは全く異なる特徴があり、OJTのやり方一つにしても若年層とはやり方を変える必要があるが、そうした「世代によって、学習方法、学習の成果の活かし方は違う」といった観点が、企業研修に携わる人の間ですら抜け落ちていたりするとのことです。

 そこで本書では、「老年学」(ジェンロントロジー)における近年の成果が、シニア人材を理解する上で有益であるとしています。老年学とは、人は加齢とともにどのように変化するかを、心理、教育、経済、労働、医学など各分野から学際的に研究する学問であり、本書は、老年学の観点からシニア人材マネジメントに言及した初の本であるとのことです。

 第1章、第2章で、シニア社員はなぜお荷物扱いされるのかを考察するとともに、シニア社員は若い社員とどう違うのかを解説しています。第3章、第4章では、ジェロントロジーの観点からシニアという存在を改めて捉え直すとともに、「シニア社員に対するジェロントロジー的対応術」を解説しています。第5章では、シニアマネジメントで成功している会社を事例で紹介し、最終第6章では、シニア人材を活かすためには管理者に対するジェロントロジー教育が必要であると訴えています。

 特に第4章の「シニア社員に対するジェロントロジー的対応術」は、シニアに対してはOff-JTよりOJTの方が効果的であるとか、「分かり合おう」という気持ちは持たない方が逆にうまくいくとか、相手のことをじっくり傾聴してしまうと自分がすり切れてしまう恐れがあるとか、これまで良かれと思ってやっていたことが、意外とそうではなかったりする場合もあることを教えてくれます。

 また、10.5ポイントの活字で作成された資料はシニアには読みたくない気持ちを抱かせるとか、研修中のトイレ休憩は長めにとるとか、シニアに集中して話を聞いてもらえるようにするために、すぐにでも使えるようなテクニックも紹介されています。聴力の関係から、若い女性の高い声がシニアにはウケないというのは、今まで全く気がつきませでした。

 終章にあるように、シニア人材を活用するためには、ミドル層向けの教育・研修が必要であり、そのことからすると、本書のメインターゲットはミドル層かもしれません。しかしながら、著者も述べているように、シニア層も、老年学の当事者として、その伝道師になっていただくために、本書を読まれるとよいかと思います。やや、身につまされる思いをする箇所もあるかもしれませんが...。

《読書MEMO》
●目次
〈目次〉
第1章 シニア社員はなぜ、お荷物扱いされるのか?
 部下を失った途端に、やる気がなくなるというのは本当か?
 「成功体験が自分を育てる」は嘘 ほか
第2章 60歳新入社員と新卒新入社員はこう違う
 60歳新入社員の3タイプ(転職組・再雇用組・雇用延長組) ほか
第3章 ジェロントロジーでシニアを理解する
 衰える能力と伸びる能力
 若年層よりも、ストレスに弱いシニア世代 ほか
第4章 シニア社員に対するジェロントロジー的対応術
 シニアに向いている仕事、向かない仕事
 「分かり合おう」という気持ちは、今すぐ捨てる
 「じっくり傾聴」は自分がすり切れる
 タブレットが反応しない! 操作下手はエイジングの証拠
 「聞いていない」は大きな誤解。原因は加齢性難聴
 労災防止と持病の関係
 「座っているから疲れない」は若年世代の思い込み
 この運搬姿勢が労災を招く ほか
第5章 ケースで見る シニアマネジメントで成功する会社
 1. 株式会社ゆうちょ銀行
 2. 株式会社ハードオフコーポレーション
 3. マンション管理・清掃業務企業
 4. 株式会社モスフードサービス
第6章 シニア人材を活かす管理者の養成
 「老化」が引き起こすリスクを先読みする
 管理職世代に対するジェロントロジー教育 ほか

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