【3500】 ○ 五所 平之助 「マダムと女房 (1931/08 松竹キネマ) ★★★☆

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日本初の本格的トーキー映画。「音」をモチーフにしている点が工夫されていた。

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あの頃映画 マダムと女房/春琴抄 お琴と佐助 [DVD]
「マダムと女房」1931.jpg「マダムと女房」11.jpg 劇作家の芝野新作(渡辺篤)は、「上演料500円」の大仕事を受け、静かな環境で集中して台本を書くため、郊外の住宅地で借家を探し歩いていた。そのうち路上で写生をしていた画家(横尾泥海男)と言い争いになり、それを銭湯帰りの隣の「マダム」こと山川滝子(伊達里子)が仲裁する。妻・絹代(田中絹代)や2人の子供とともに新居に越してきた新作だったが、仕事に取りかかろうとするたびに、野良猫の鳴き声や、薬売りなどに邪魔をされ、何日も仕事がはかどらない。ある日、隣家でパーティーが開かれ、ジャズの演奏が始まった。新作はたまらず隣家に乗り込むが、応対したのはかつての「マダム」だった。マダムは自身がジャズ・バンドの歌手であることを明かし、音楽家仲間を紹介した。新作は言われるままに隣家に上がり、酒をすすめられ、とも「マダムと女房」3.jpgに歌った。その頃、絹代は窓越しに隣家の様子を見ていた。「ブロードウェイ・メロディー」を口ずさみながら上機嫌で帰宅した新作を絹代は叱りつけ、嫉妬心からミシンの音を立て始め、果てには「洋服を買ってちょうだい」とねだる。新作はそんな絹代に取り合おうとせず、「上演料500円。不言実行」と告げて机に向かう。数日後。芝野家は、百貨店から自宅へ戻る道を歩いていた。住宅の新築工事や、空を飛ぶ飛行機をながめながら談笑し、一家はささやかな幸福を噛みしめる。そのうち「マダム」宅から「私の青空」のメロディが流れ、一家は口ずさみながら家路につく―。

「マダムと女房」2.jpg 1931(昭和6)年公開の五所平之助監督作で、松竹キネマ製作(松竹キネマ蒲田撮影所撮影)の日本初の本格的トーキー映画。全編同時録音で撮影され、カットの変わり目で音が途切れぬよう、3台のカメラを同時に回して撮影されており、1931年度の「キネマ旬報ベストテン」で第1位作品です。

 脚本の北村小松は、同年の小津映画監督「淑女と髯」「東京の合唱(コーラス)」の脚本家(原作者)でもあります(「東京の合唱」は同年「キネマ旬報ベストテン」第3位にランクインしている)。

 ストーリーだけ見れば何てことはない話ですが、トーキーということを意識して「音」というのを1つの重要なモチーフにしている点が工夫されているように思いました。ラストでそれまで和装だった一家が洋装になっていて、空飛ぶ飛行機を見上げながら自分たちもいつかそれに乗ろうという話をしているのも、新しい時代を感じさせ、トーキー第1作に相応しいと言えるかも(ただし、映画公開の翌月1931年9月に満州事変が勃発しているのだが)。

「マダムと女房」6.jpg 小津安二郎監督の 「大学は出たけれど」('29年)で当時19歳で主人公の許嫁を演じて初々しかった田中絹代は、この作品当時は当時21歳。役柄上、手のかかる子どもが二人いて、しかも旦那の稼ぎが安定しないために、少しやつれた感じになっています(21歳で夫とは倦怠期で、二人の子どもを抱え、生活に追われているのかあ。昔は今より早婚だったから現実にこうしたことがあったかもしれない)。

 結局ハッピーエンドだったのですが、ラストシーンで彼女も夫に倣ってばっちり洋装で決めたかと思ったら、仕立ての良さそうな和服で、髪だけがやや洋髪の和洋折衷(?)でした。う~ん、'29年に世界恐慌があり、「大学は出たけれど」('29年)や「東京の合唱(コーラス)」('31年)にはバックグラウンドとしてその影響が観られますが、この映画を観ていると(飛行機で旅行したいという夢の行き先がハワイと大阪の違いはあるが)昭和の高度経済成長期の初期と重なるイメージがあって、不思議な印象も。

 冒頭に出てくる新作と喧嘩する画家に横尾泥海男(でかお、身長が185㎝あり、黒澤明監督の「虎の尾を踏む男達」('52年(製作は'45年)に常陸坊の役で出演している)、その喧嘩で倒れたイーゼルのために自分が運転するトラックが通行できなくなり、「このガラクタを轢いちまうぞ」と叫ぶ運転手に、「出来ごころ」('34年)、「浮草物語」('34年)、「東京の宿」('35年)などの主演で小津映画の常連の坂本武(カメオ出演)、新作の家に薬の訪問販売に来る怪しげな(最初の内は不気味ですらある)男に、「一人息子」('36年)など小津映画で気のいい人物を演じることが多い日守新一(清水宏監督の「按摩と女」('34年)や「簪(かんざし)」('41年)にも出演)などが出ていました(日守新一らしく、結局、単にい調子のいい押し売りだった)。

「マダムと女房」1p2.jpg「マダムと女房」1p.jpg「マダムと女房」●制作年:1931年●監督:五所平之助●脚本:北村小松●撮影:水谷至宏/星野斉/山田吉男●時間:56分●出演:渡辺篤/田中絹代/市村美津子/伊達里子/横尾泥海男/吉谷久雄/月田一郎/日守新一/小林十九二/関時男/坂本武/井上雪子●公開:1931/08●配給:松竹キネマ●最初に観た場所:神保町シアター(24-02-27)(評価:★★★☆)

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This page contains a single entry by wada published on 2006年7月 1日 00:10.

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