【3007】 ○ 樋口 一葉 「十三夜」―『大つごもり・十三夜 他五篇』 (1979/02 岩波文庫) ★★★☆

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〈予定調和〉と言うより〈予定不調和〉的とも言える作品。

大つごもり・十三夜 (岩波文庫.jpgにごりえ・たけくらべ (新潮文庫).jpg樋口一葉 十三夜 eiga.jpg 十三夜 Kindle版.jpg
大つごもり・十三夜 (岩波文庫 緑 25-2)』/『にごりえ・たけくらべ (新潮文庫)』(にごりえ・十三夜・たけくらべ・大つごもり・ゆく雲・うつせみ・われから・わかれ道)/映画「にごりえ」('53年/松竹)第1話「十三夜」/[Kindle版] 現代語訳『十三夜
にごりえ 1.jpg 貧しい士族・斉藤主計の娘・お関は、官吏・原田勇に望まれて七年前に結婚したが、勇は冷酷無情なのに耐えかねてある夜、無心に眠る幼い太郎に切ない別れを告げて、これを最後と無断で実家に帰る。折しも十三夜、いそいそと迎える両親を見て言い出しかねていたが、怪しむ父に促されて経緯を話し、離縁をと哀願する。母は娘への仕打ちにいきり立ち、父はそれをたしなめ、お関に因果を含め、ねんごろに説き諭す。お関もついにはすべて運命と諦め、力なく夫の家に帰る。その途中乗った車屋はなんと幼馴染みの高坂録之助だった―。

 樋口一葉が、1895(明治28) 年12月、雑誌「文芸倶楽部」閨秀小説号に発表した作品で、劇作家・久保田万太郎が1947(昭和22)年に劇化脚色を行い、舞台で上演されているほか、今井正監督によりオムニバス映画「にごりえ」('53年/松竹)の第1話として映像化されています。

511にごりえ.jpg お関が夫との離縁を両親に哀願するも(DV夫か?)、父親に「子どもと別れて実家で泣き暮らすなら、夫のもとで泣き暮らすのも同じと諦めろ」と言われて(酷いこと言う父親だなあ)本当に諦めるという悲惨な話ですが、背景には嫁ぎ先と実家の経済格差があり、嫁ぎ先は裕福で、別れれば子どもの親権は経済力のある向こう側に行くし、父親からすれば息子の就職まで世話してもらっているので、こちらから離縁を申し出るなんて到底不可能だという状況のようです。左翼系映画人である今井正監督が映像化したことからも窺えるように、経済格差がモチーフの1つにあるかと思います。

 お関は、車夫が幼馴染みの高坂録之助だとわかって、歩きながら話を聞けば、自分のために自暴自棄になり(かつて二人は相思相愛だったということか)、妻子を捨てて落ちぶれた暮らしをしているとのことで(映画では芥川比呂志が演じて、相当やつれた感じを出している)、その彼の零落を今まさに目の前にして切々たる思いが胸に迫り、大いなる悲しみを抱いたまま彼とも別れ帰って行きます。

 このラストの落ちぶれた幼馴染みとの邂逅とそれがお関に与えた心理的影響をどうとるか、個人的には微妙な気がします。と言うのは、お関が「辛い思いをしているのは自分だけではない」と思ったとして、それはそれでいいのですが、そのことによって自分の置かれている状況を合理化すれば、彼女は気持ち的には少し楽になのるもしれませんが、結果的には父親の〈経済優先原理〉的な考えに服従することになるかと思われます。

 その意味では、〈予定調和〉と言うより〈予定不調和〉的とも言える作品ですが、おそらく作者はそのことも含んでこうした、言わば解決策を示さない終わらせ方をしているのではないかと思います。

 この作品は、『10分間で読める 泣ける名作集』('18年/GOMA BOOKS新書)という本に収められてはいますが、確かに樋口一葉は日本初の女性流行作家と言われてはいるものの(生前の世間での評価は「文学作家」より「流行作家」というイメージが強かったようだ)、単にお涙頂戴的な話をテクニックのみで書くに過ぎない作家ではなかったことははっきりしていると思います。

13爺.jpg「にごりえ」●制作年:1953年●監督:今井正●製作:伊藤武郎●脚本:水木洋子/井手俊郎●撮影:中尾駿一郎●音楽:團伊玖磨●原作:樋口一葉『十三夜』『大つごもり』『にごりえ』●時間:130分●出演:《十三夜》田村秋子/丹阿弥谷津子/三津田健/芥川比呂志/久門祐夫(ノンクレジット)《大つごもり》久我美子/中村伸郎/竜岡晋/長岡輝子/荒木道子/仲谷昇(山村石之助(ノンクレジット))/岸田今日子(山村家次女(ノンクレジット))/北村和夫(車夫(ノンクレジット))/河原崎次郎(従弟・三之助(ノンクレジット))《にごりえ》淡島千景/杉村春子/賀原夏子/南美江/北城真記子/文野朋子/山村聰/宮口精二/十朱久雄/加藤武(ヤクザ(ノンクレジット))/加藤治子/松山省二/小池朝雄(女郎に絡む男(ノンクレジット))/神山繁 (ガラの悪い酔客(ノンクレジット))●公開:1953/11●配給:松竹(評価:★★★★)

【1949年文庫化・2003年改版[新潮文庫(『にごりえ・たけくらべ』)]/1979年再文庫化[岩波文庫(『大つごもり・十三夜』)]/1992年再文庫化・2008年改版[ちくま文庫(『ちくま日本文学013 樋口一葉』)]】

      

 [Kindle版]



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和田泰明

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