【740】 △ 門倉 貴史 『派遣のリアル―300万人の悲鳴が聞こえる』 (2007/08 宝島社新書) ★★★

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派遣社員の置かれている状況を知る上では手頃な1冊。会社側も取材して欲しかった。

派遣のリアル.jpg  『派遣のリアル-300万人の悲鳴が聞こえる (宝島社新書)』 〔'07年〕 門倉貴史.jpg 門倉貴史 氏(略歴下記)

ワーキングプア.jpg 民間エコノミストである著者の、『ワーキングプア―いくら働いても報われない時代が来る』('06年/宝島新書)に続く同新書2冊目の本で、今回は「派遣社員」の実態をつぶさにレポートしています。

 前半3分の2は、派遣の仕組みや派遣産業の歴史、女性派遣社員が抱える問題などを取り上げ、後半で、ネットカフェ難民化するスポット派遣労働者(ワンコール・ワーカー)について、さらに、派遣社員の今後を労働法改正との関連において考察しています。

 統計や図表をコンパクトに纏めて解説しつつ、各章の終わりに派遣社員に対するインタビューを載せていて、こうした構成は前著と同じですが、派遣社員の置かれている状況を知る上では手頃な1冊と言えます。

 "労働ダンピング"に苦しむ派遣社員の"悲鳴"を伝えるだけでなく、派遣期間に制限(正社員雇用の申し入れ義務)を設けた労働者派遣法の網目をかいくぐって、部署名を変えるだけで派遣期間を"半永久的"なものとする企業のやり口や、改正「パート労働法」で、正社員と差別することが禁じられる条件に該当するパート・アルバイトが、全体の数パーセントに過ぎないことなど、法律の粗さも指摘していています。
 また、企業を定年退職した団塊世代が派遣に回り、こうした"団塊派遣"の増加により、若年非正社員の賃金に下落圧力がかかるだろうという予測は、興味深いものでした。

 ただし、インタビューにおいて企業名が実名で出てこないためインパクトが欠けるのと、派遣社員ばかりではなく、それを使っている企業側や派遣している派遣会社の方も取材して欲しかったという点で、個人的にはやや不満が残ったように思います。

 派遣社員として本当に優秀な人も多くいるかと思いますが、そうした人材は企業側が労働条件を引き上げることにより抱え込んでいるのではないかと思われます(そうした人は、本書のインタビューにも登場しない)。
 一方で、「紹介予定派遣」という形で短い審査期間を経て正社員となりながら、派遣会社が当初示していたスペック(あまり良い言い方ではないかも知れないが)を満たしておらず、結局この仕組みが、新規学卒より簡単に正社員になれる抜け道として、労働者側で利用されているような印象もあります。
 企業側に見抜く力が無かったと言えばそれまでですが、派遣会社には紹介斡旋料が入るため損はしないようになっていて、大手企業の有能な派遣人材の抱え込みも含め、こうしたことに派遣会社も一枚噛んでいるように思えてなりません。
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門倉貴史 (かどくら・たかし)
1971年、神奈川県横須賀市生まれ。95年、慶應義塾大学経済学部卒業後、(株)浜銀総合研究所入社。99年、(杜)日本経済研究センターへ出向、シンガポールの東南アジア経済研究所(ISEAS)へ出向。2002年4月から05年6月まで(株)第一生命経済研究所経済調査部主任エコノミスト。05年7月からは、BRICs経済研究所のエコノミスト作家として講演・執筆活動に専念。専門は、日米経済、アジア経済、BRICs経済、地下経済と多岐にわたる。
著書は、『ワーキングプア〜いくら働いても報われない時代が来る』(宝島新書)『統計数字を疑う〜なぜ実感とズレるのか?』(光文社新書)『 BRICs富裕層』(東洋経済新報社)など。

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