【737】 ○ 加藤 仁 『社長の椅子が泣いている (2006/06 講談社) ★★★★

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川上(ヤマハ)、中内(ダイエー)の世襲の壁にぶつかった「プロの専門経営者」。

社長の椅子が泣いている.jpg 『社長の椅子が泣いている』 河島博.jpg 河島 博 (1930‐2007/享年76)

 '07年4月に亡くなった元ダイエー副会長で元日本楽器製造(現ヤマハ)社長の河島博氏のビジネス人生を辿ったドキュメンタリーですが(本書刊行時、河島氏はまだ存命中)、ヤマハ、ダイエーというワンマンのトップが君臨する企業で、それぞれ社長、副社長を務め、ヤマハ(当時、日本楽器)では経営体質を刷新し業績回復を果たしながらも"源さま""天皇"と呼ばれた川上源一会長に疎まれて解任され、ダイエーでは"Ⅴ革"と言われたV字回復を実行しながらも社外(倒産したリッカー)へ管財人として出され、しかし、そこでもリッカーを再建して見せたことという、この人の敏腕経営者としての経歴はよく知られています。

経営者の条件.jpg リクルートで江副浩正氏を支えた大沢武志氏が『経営者の条件』('04年/岩波新書)の中で「オーナー経営者」と「サラリーマン経営者(専門経営者)」での求められるものの違いを書いていますが、この河島氏はまさに、「プロの専門経営者」と言えるかと思います(ダイエー時代は自らを「ビジネステクノラート」だと言っていたと本書にある)。

 彼が大事にしたのは、どんな逆境でも状況を冷静に客観的に分析する「合理性」と、その上で戦略を立て目標を社員と共有する「ビジョン」、そして遂行に関しては公平な基準をくずさない「人間性」であり、これらは米国法人の社長時代に培われた「現地主義」や「リーダーシップ」、自分で考え行動する「カワシマズ・ウェイ」が基礎となっていたことが、本書を読むとよくわかります。

 しかし、こうした有能人材に最後まで仕事を全うさせてやることができない経営者のエゴというのは困ったもので、結局これらの企業は、河島氏を放逐した後、せっかく回復した業績が、またどんどん駄目になっていきます。

 ヤマハの川上源一会長のワンマン経営ぶりは有名でしたが、この本で描かれているその内実、特に河島氏を解任するところは滅茶苦茶で、さらに、河島氏を招聘した中内氏も、ジュニアに対する盲目的な思い入れから道を誤った点では川上氏と同じであり、ワンマンの危険もさることながら、「世襲経営」というものがそれに重なった時、後継者が無能だと経営は一気に傾くことがあり得るのだなあと。

 ヤマハって、オーナー企業でもないのに世襲になってしまうところが、日本のサラリーマンの「組織の中で出世したいならボスに楯突くな」という体質と関係あるのかと考えさせられもし、河島氏はまさにその「世襲の壁」にぶつかってその結果不完全燃焼に終わらざるを得なかったわけで、川上父子と北朝鮮の金日成・金正日父子がそれぞれ同じ年生まれだというのが、なんだかブラック・ジョークぽく感じられました。

《読書MEMO》
●「中期三ヵ年計画」の作成にあたった高木哲也や佐藤陳夫にたいして、河島はこう厳命した。
「書店に並んでいるようなビジネス書を参考にして、月並みな経営計画をたてるな。あくまでも自分で考えてくれ」
他社を真似たり、横並びの発想をしたりの、企業から独自性を失わせるマネージメントを、河島はもっとも嫌っていた。(269p)

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