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マスメディア企業への「生き残り戦略」についてのプレゼンのような中身。
『グーグルに勝つ広告モデル (光文社新書)』 ['08年]『天職は寝て待て 新しい転職・就活・キャリア論 (光文社新書)』['12年]
冒頭のヤフーとグーグルの違いで、ヤフーがアテンションを集めて卸売りしているのに対し、グーグルはインタレストを集めて売っているのだという指摘は明快で、アテンションの総量は増えないのにアテンションを奪い合う競合の数は増えているというゼロサムゲーム状態が今あると分析し、マスメディアが獲得できるアテンションの総量が減少しこそすれ、増加させるのは非常に困難な状態において、広告媒体としてのマスメディアが生き残るにはどうしたらよいかという問い掛けをし、それに答えるかたちの内容になっています(ということは、アテンションの世界の話だから、「ヤフーを超える」ならまだしも「グーグルを超える」というタイトルは少し内容と合わない気がするが)。
テレビ・ラジオ・新聞・雑誌のマス4媒体とインターネットの広告特性を対比し、インターネットに対してマス4媒体がどのようなポジションを取り得るかを概説すると共に、各4媒体の今後の生き残り策を提言していますが、つまりは、テレビ局や新聞社が広告メディアとして生き残るにはどうしたらよいかという、言わばマスメディア企業へのプレゼンテーションのような中身で、一般向け新書としてどうなのかなあという印象もありました。
(ミスリード気味のタイトルがアイキャッチとしての"作為"にも思え、ついつい見方がシビアになってしまう。)
著者は、国内大手広告代理店にてメディアマーケティング、ネット事業立ち上げを担当した後、大手外資系コンサルティングファームに参加し、主にメディア企業、エンターテインメント企業に対しての企業変革、ビジネスモデル改革に関する提言活動に従事した後、独立したという経歴の持ち主だそうですが(実在の人物なの?)、実在の人物かどうかは別として、本の内容はまさにこの経歴に沿ったものでした。
テレビに求められるオンデマンド性、ターゲットメディアとしてのラジオ、宅配ネットワークをどう生かすかが課題の新聞、ネットとの代替性が低い情報でネットとの差別化を図る雑誌、といった具合に、それぞれの提言は比較的絞り込まれたものになっていて分り易く、話は、プレーヤー(媒体情報を乗せる機器)の問題、マスメディアそのものの要不要論(ここがサブタイトルに呼応)、コンテンツの現状と課題にまで広がり、最後に、メディアやマーケッターに情報テクノラートとして特権を振りかざすだけではこれからはやっていけないよと言っているような感じ。
言い換えれば、プロダクトアウト(乃至メディアアウト)からマーケットインへと言っているに過ぎないともとれるのですが...(だから、マーケティング会社やコンサルティングファームにご相談くださいということか)。
(●その後、著者が「山口周」のペンネームのもと著した『天職は寝て待て―新しい転職・就活・キャリア論』('12年/光文社新書)を読み、なかなか示唆的で興味深かった。タイトルから窺えるように、クランボルツのキャリア論「計画された偶発性」などをベースとしているが、キャリア行動に関する多くの理論を紹介しつつ著者自身の経験も織り込み、さらに、人文科学系の知見を豊富に織り交ぜながら自分なりの論を進めるので、読んでいて知的好奇心が刺激される本だった。
著者は1970年生まれ。30歳のときに電通を辞め、ボストン・コンサルティング・グループ、A.T.カーニーにて、主に消費財企業、メディア企業のコンサルティングに従事し、「40代ではテーマ領域を絞る」という従来からの計画を実現するため、組織開発を専門とするヘイグループ(現コーン・フェリー・ヘイグループ)に参画したとのこと(『天職は寝て待て』当時の経歴紹介。本書は40代前半の著書となる。
さらにその後、『世界のエリートはなぜ「美意識」を鍛えるのか?― 経営における「アート」と「サイエンス」』('17年/光文社新書)でブレイクし、『劣化するオッサン社会の処方箋―なぜ一流は三流に牛耳られるのか』('18年/光文社新書)などの著書もあった(共にミンツバーグのマネジャー論などをベースにしながらも、自身の論を幅広く展開している)。さらには『ニュータイプの時代―新時代を生き抜く24の思考・行動様式』('19年/ダイヤモンド社)などを著し、学部と大学院で哲学・美術史を学んだという経歴を活かし「人文科学と経営科学の交差点」をテーマに活動を行っている。)
『世界のエリートはなぜ「美意識」を鍛えるのか? 経営における「アート」と「サイエンス」 (光文社新書)』['17年]
『劣化するオッサン社会の処方箋 なぜ一流は三流に牛耳られるのか (光文社新書)』['18年]