【3600】 ○ 諸星 大二郎 『暗黒神話 (1977/02 集英社・ジャンプスーパーコミックス) 《(1988/06 集英社・ジャンプスーパーコミックス)》 ★★★★

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かなりぶっ飛んだ内容だが、ちゃんと神話や遺跡などをベースにしているようだ。

『暗黒神話』4.jpg
暗黒神話 (1977年) (ジャンプスーパー・コミックス)』『暗黒神話 (ジャンプスーパーコミックス)』['88年]『暗黒神話 (集英社文庫(コミック版)) 』['96年]『暗黒神話 (愛蔵版コミックス) 』['17年]

『暗黒神話』ジャンプ.jpg 中学生の少年・武はある日、父の友人を名乗る男・小泉から「君のお父さんは実は殺された」と告げられる。確かに武には、幼い頃に倒れた父親の傍で泣いている記憶があった。小泉に連れられ父が死んだ場所へ来た武は、おぼろげな記憶を頼りに父の目的地と思しき洞窟を発見。洞窟の奥で武は思いもかけないモノと遭遇しする―。

 諸星大二郎による「週刊少年ジャンプ」1976(昭和51)年20号から 25号に連載された漫画です。少年が辿る数奇な運命を、ヤマトタケル伝説を軸に、古代日本の各神話や遺跡、仏教、果ては呪術やSF要素までを取り込んで描いた、ある意味かなりぶっ飛んだ内容の話です(特に、最後に明かされる"武の正体"には驚いた)。

『暗黒神話』別冊太陽.jpg『暗黒神話』1.jpg それでも初読の時は面白ければいいという感じだったのですが、「別冊太陽」の「太陽の地図帖」シリーズに「諸星大二郎 『暗黒神話』と古代史の旅」('14年/平凡社)というのがあり、それを読んで、一つ一つのモチーフが神話やそれにまつわる実在の遺跡などをベースにしていることが分かり、その博覧強記と取材力、構想力に改めて感じ入った次第です(あまり表に出て来ない作者のインタビューなどもあって貴重)。

『暗黒神話』2.jpg ただし、本作の序盤において、当時類例のなさから重要文化財指定とされていた深鉢形土器をモチーフとした蛇紋縄文土器を登場させていますが、この土器は後に、(土器自体は縄文時代のものだったが)蛇形装飾の把手が推定復元であることが判明し、指定解除となっているそうです。この土器をモチーフに話が進んでいくので困ったものですが、古代史研究の場合、まあ、こういうことも起き得るのでしょう(笑)。
 
徐福2.jpg 1988年版には、「週刊少年ジャンプ増刊」1979(昭和54)年1月号掲載された「徐福伝説」が併収されています。中国の秦の時代、始皇帝に命じられて不老不死の秘薬を得るために東方に渡った徐福の一行が嵐のため日本に流され、中国の文明人が未開の日本を訪れることになるという伝説の図式を背景に、男女の悲恋物語を描いています(こちらも、土器が出てくる一方で、徐福が染色体数と同じ47組の男女を連れ行くというSF的要素もあったりする)。

徐福.jpg ただし、ここで描かれる徐福は、日本で一般に伝わる、呪術や祈祷・薬剤の調合に長け、医薬・天文・占術等にも通じたインテリで、その像などからも窺える温厚な人柄の人物というイメージと違って、どちらかと言うと始皇帝のイメージに近い、暴君的な強面のキャラクターになっています。この点については、作者独自の人物造型なのでしょうか、実際そういうキャラだったという言い伝えもあるのでしょうか。その辺りはよく分からなかったです。

徐福像(和歌山県新宮市)

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