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戦中の玉の井界隈の活気や人情味、猥雑なパワーや哀しさが滲む自伝的作品。

滝田 ゆう 『寺島町奇譚』_l.jpg寺島町奇譚.jpg 滝田ゆう.jpg 『寺島町奇譚』.jpg
寺島町奇譚』ちくま文庫 〔'88年〕滝田ゆう(1932-1990/享年58)
『寺島町奇譚―青林傑作シリーズ3』1976年4月青林堂
『寺島町奇譚 ぬけられます―現代漫画家自選シリーズ5』1971年青林堂
ぬけられます 全1巻.jpg寺島町奇譚 ぬけられます.jpg '68(昭和43)年の「月刊ガロ」12月号より連載された滝田ゆう(1932-1990)の「寺島町奇譚」シリーズは、『寺島町奇譚』、『ぬけられます』(共に'70年/青林堂)として単行本刊行され、復刻版なども出ていますが、本書はそれらを合本化した文庫で、作者の真骨頂である戦前・戦中の玉の井遊郭界隈の郷愁溢れる世界を20篇、600ページ余にわたって堪能できます。

 主人公は色街・玉の井に両親、祖母、姉、そして猫のタマと暮らしている息子キヨシで、家族は母と姉を中心に階下に営業するスタンドバー「ドン」で働いていていますが、キヨシも、粗野でちょっと恐い(でも時に優しい)母に言われて、小学生ながらに掃除をしたりして店を手伝っている―、そうした戦前から戦中にかけての下町の家族の様子が、作者の自伝的要素を入れ、生き生きと描かれています。

 場所が場所だけに、いろいろな人物が店にやってきて、また行き交い、そうした人々の生活や人生の断片を、「よくわからない」なりの子供の目線で描いていて、そこに滲む活気や人情味、猥雑なパワーや哀しさなどが、しっとりした下町の情景と相俟って伝わってきます。

吉行 淳之介.jpg原色の街2.jpg 文庫解説の吉行淳之介は、「滝田ゆう」と「つげ義春」の作品が好きだそうですが、この2人の作品は、劇画とは異なる独立したジャンルで、しいて言えば「文学的雰囲気を持った連続画」とでも言うべきものだとしています。

 寺島町は今の東向島付近で、吉行淳之介は、玉の井が戦後、現在の「鳩の街商店街」(東向島1丁目)まで拡がってきたあたりを舞台に『原色の街』を書いていますが、戦中の玉の井の中心部の様子を、自らの記憶だけを頼りにここまで描いたということに、作者・滝田ゆうのこの街の記憶に対する並々ならない愛着が感じられます。

玉の井.jpg 街の入り口の「ぬけられます」という看板とは裏腹に複雑に入り組んだ路地に、銘酒屋(私娼旅館)の娼婦たちの世界とベーゴマに熱狂する子供たちの世界が同居しているこの不思議な空間も、物語の最後で米軍の攻撃(東京大空襲)を受けて火の海と化すことになります。

 キヨシが疎開先へ向かう汽車の窓から愛惜の念をもって眺める、焼け野原になってしまった住みなれた街の瓦礫の中に、行方不明になったキヨシの愛猫タマを探す立て札が立つラストは、胸に迫るものがあります(因みに、神代辰巳が「赤線玉の井 ぬけられます」('74年)で作品の舞台とした「玉の井」は、昭和33年の売春防止法が施行される直前、つまり戦後のそれである)。

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正統派ラインアップ。漫画で(起承転結ではなく)「オチ」が愉しめる。

滝田ゆう落語劇場.jpg
滝田ゆう落語劇場 〔第1輯〕 (文春文庫 (302‐1))』『滝田ゆう落語劇場 第2輯 (文春文庫 302-2)』['83年]/『滝田ゆう落語劇場 全 (ちくま文庫 た 11-2)』['88年]/『落語劇場 1巻 (双葉漫画名作館) 』『落語劇場 2巻 (双葉漫画名作館) 』['91年]
滝田ゆう落語劇場 1巻』『滝田ゆう落語劇場 2巻』[Kindle版]
滝田ゆう落語劇場Kindle版.jpg 作家の名作22篇をコマ漫画に仕立てあげた『滝田ゆう名作劇場』('78年/文藝春秋、'83年/文春文庫、'02年/講談社漫画文庫)、野坂昭如の作品を描いた『怨歌劇場』('80年/講談社、'83年/講談社文庫)に続く「劇場シリーズ」第3弾は、落語をコマ漫画にしたものです。

 第1輯は「王子の狐」「素人鰻」「蕎麦の羽織」「夢の酒」「猫の災難」「味噌倉」「死神」など20話、第2輯では「青菜」「狸賽」「二階ぞめき」「包丁」「ぬけ雀」「茶の湯」「あくび指南」「千両みかん」など18話、合計で38編を所収。個人的には内容を知らないものもありますが、落語に詳しい人からすれば、正統派ラインアップではないでしょうか。

滝田ゆう落語劇場3.jpg 読んでいて、これまでのシリーズと違うのは、(「落語劇場」と謳っているので当然だが)元が小説ではなく落語であるということです。そのため、無意識的に起承転結の「結」を求めて読んでいたら(小説を読むという行為はだいたいそうしたものだ)最後に「オチ」が来て「落とされる」というところでしょうか。そうした面白さ、愉快さが、ああ、やっぱり落語だなあと。

東海林さだお.jpg 漫画家でこの手のオチを描く人っていないかなあと思ったら、東海林さだおがいた! あの人はエッセイも、昭和軽薄体と呼ばれる独特なリズム感のある文体だなあ。本書を読んで落語を聴きたくなったというのはフツーでしょうが、東海林さだおのエッセイを読みたくなった、というのはちょっと変わっているかも。

 本書は、'83年にいきなり文庫で、講談社文庫で第1輯、第2輯として出版され(「輯(しゅう)」というのは「集」みたいな意味か)、その後'88年にちくま文庫の全1巻として刊行されていますが、さらに'91年に「双葉漫画名作館」として第1巻・第2巻が刊行されています。

 落語なのでセリフが大事です。読み易さからすると、「双葉漫画名作館」版が単行本サイズであるためお薦め。作者独特の小さな吹き出し(その中になぜか無意味な絵が描かれている)のようなものもあることですし(ただし、絶版のため入手しにくいと思ったら、シリーズでこの「落語劇場」のみKindle版がリリースされた。端末で画面拡大ができるので便利かも)。

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