【3148】 ○ 山田 洋次 (原作:藤沢周平) 「武士の一分 (2006/12 松竹) ★★★★

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木村拓哉は軽い感じだったが、原作の良さ、周囲の演技陣に助けられていた。

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木村拓哉/壇れい
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「武士の一分」01.jpg 幕末時代の海坂藩。優れた剣技を生かされることなく毒見役の職を務める小侍の三村新之丞(木村拓哉)は、毒味の仕事の最中倒れ、城内は藩主の暗殺未遂の疑いで騒然となるが、原因はつぶ貝の貝毒と判明。城内は落ち着きを取り戻したものの「武士の一分」02.jpg、御広敷番頭の樋口作之助(小林稔侍)は責任を取らされ切腹の運びとなる。三日後に意識を取り戻した新之丞は、自分の「武士の一分」03.jpg目が見えなくなっていることに気がつく。妻・加世(檀れい)は医師の玄斎(大地康雄)を頼るが、彼は「新之丞の目はもう治らない」と告げる。視力を失ったかわりに、他の感覚に鋭さが増し、加世の化粧の臭い等から男の影を感じ取る。最初に加世に関する話を持ってきたのは「武士の一分」04.jpg従妹の波多野以寧(桃井かおり)だった。ある場所、加世を見たという噂を持ち込んだのだ。その場所が武家の妻女が夜分出入りすべき町ではなかった。視力を失って以来、久方ぶりに新之丞は剣の稽古をした。だが、以「武士の一分」木村.jpgで前と勝手が違う。最初は戸惑いを覚えることが多かった。ある時、新之丞は徳蔵(笹野高史)に加世の尾行を命じた。その結果、噂は本当だったのが判明した。相手は新之丞の上司・島村藤弥(坂東三津五郎)。新之丞はそうなった経緯を加世に問いただし、離縁を申し伝えた。その後、新之丞は同僚の加賀山(近藤公園)からあることを聞かされる―。

「武士の一分 ベルリン国際映画祭.jpg 山田洋次の監督の「たそがれ清兵衛」('02年)、「隠し剣 鬼の爪」('04年)と並ぶ「時代劇三部作」の'06年公開の完結作で、興行収入は41.1億円で、松竹配給映画としての歴代最高記録(当時)を樹立したとのことです。ただし、それでも'06年公開作の興行収入ランキングは11位で、トップ10から漏れています(1位は「パイレーツ・オブ・カリビアン/デッドマンズ・チェスト」で100.2億円)。日本上映に先駆けて、第57回ベルリン国際映画祭のパノラマ部門オープニング作品として上映されています。

檀れい・桃井かおりin 第57回ベルリン国際映画祭(2007年2月9日)

「武士の一分」07.jpg 原作は「たそがれ清兵衛」、「隠し剣 鬼の爪」と同じく藤沢周平の短編であり。短編集『隠し剣 秋風抄』('81年/文藝春秋)の中の一編である「盲目剣谺返し」(昭和55年発表)です(「隠し剣 鬼の爪」の原作と同じシリーズということになる)。文庫本で50ページ弱の話であるため、映画では少しだけ話を膨らませている部分があります。

 まず、原作は新之丞がすでに視力を失っているところから始まりますが、映画はそこに至る経緯を現在進行形で描いていきます。毒見役の仕事が(まるでEテレの番組内の解説映像のように)丁寧に描かれていますが、小林稔侍が演じる御広敷番頭の樋口作之助は原作に登場しないので、責任を取らされ切腹させられるのも映画のオリジナル(こっちの方が主人公より気の毒?)。

 しかし、新之丞が失明してからラスト、かたき討ちを果たした後の後日譚までは、比較的原作に忠実に作られていたように思いました。ただし、新之丞が島村と斬り合って彼を斃した際に、原作ではすでに島村はそこで絶命しいているのに、映画では腕を切り落とされたものの生きていて、自ら切腹したことになっていて「彼にも武士の一分があった」と他人に言われていますが、これは映画のオリジナルです。個人的には、新之丞の言う「武士の一分」だけでよく、こっちは蛇足だったように思えました。

「武士の一分」4.jpg 木村拓哉は頑張っている印象でしたが、SMAP(スマップ)の先入観があるせいか、ちょっと軽い感じも。原作の良さ、山田洋次監督の演出力、そして何より徳蔵を演じた笹野高史、加世を演じた檀れい、剣の師匠・木部孫八郎を演じた緒形拳など周囲の多くの俳優陣(桃井かおりや小林稔侍もいる)に助けられていたように思います(笹野高史はこの演技で第30回日本アカデミー賞最優秀助演男優賞を受賞)。作品自体の個人的評価は、「たそがれ清兵衛」★★★☆、「隠し剣 鬼の爪」★★★★に対して、その間くらいでしょうか(一応、★★★★としたが、やや甘いか)。

桃井かおり/笹野高史
小林稔侍/坂東三津五郎

「武士の一分」6.jpg そう言えば、緒形拳は前作「隠し剣 鬼の爪」では、主人公(永瀬正敏)の親友の妻(高島礼子)を騙して寝とってしまう家老の役(敵役)で、つまりこの作品における坂東三津五郎が演じる島村と似たような、いわば悪役でしたが、今回は主人公の剣の師匠で、主人公の「武士の一分」の意を汲む人物の役でした。「隠し剣 鬼の爪」で主人公の剣の師匠役を演じた舞踏家の田中泯は、その前作「たそがれ清兵衛」では、上意討ちにより主人公に斃される役だったので、前作で敵役だと、次は主人公を助ける役とかが回ってくるのかも。坂東三津五郎も、山田洋次監督の次の作品「母べえ」('08年)では、一家の良き父親で反戦思想を抱く文学者を演じていたから、そうやってバランスをとっているのかな。

「武士の一分」p.jpg 「武士の一分」●制作年:2006年●監督:山田洋次●製作:久松猛朗●脚本:山田洋次/平松恵美子/山本一郎●撮影:長沼六男●音楽:冨田勲●原作:藤沢周平●時間:121分●出演:木村拓哉/檀れい/笹野高史/坂東三津五郎/小林稔侍/緒形拳/岡本信人/左時枝/綾田俊樹/桃井かおり/赤塚真人/近藤公園/歌澤寅右衛門/大地康雄●公開:2006/10●配給:松竹(評価:★★★★)
   

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