【3026】 ○ アキ・カウリスマキ 「希望のかなた」 (17年/フィンランド・独) (2017/12 ユーロスペース) ★★★★

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前作よりシビアな結末だが、「カーリドは死ななかった」とみる。

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『希望のかなた』1.jpg ヘルシンキ。トルコからやってきた貨物船に身を隠していたカーリド(シェルワン・ハジ)は、この街に降り立ち難民申請をする。彼はシリアの故郷アレッポで家族を失い、たったひとり生き残った妹ミリアム(ニロズ・ハジ)と生き別れになっていたのだ。彼女をフィンランドに呼び、慎ましいながら幸福な暮らしを送らせることがカーリドの願いだった。一方、この街でセールスマン稼業と酒浸りの妻に嫌気がさしていた男ヴィクストロム(サカリ・クオスマネン)は遂に家出し、全てを売り払った金をギャンブルにつぎ込んで運良く大金を手にした。彼はその金で一軒のレストランを買い、新しい人生の糧としようとする。店と一緒についてきた従業員たちは無愛想でやる気の『希望のかなた』2.jpgない連中だったが、ヴィクストロムにはそれなりにいい職場を築けるように思えた。その頃カーリドは、申請空しく入国管理局から強制送還されそうになり、逃走を目論んだあげく出くわしたネオナチの男たちに襲われるが、偶然ヴィクストロムに救われる。拳を交えながらも彼らは友情を育み、カーリドはレストランの従業員に雇われたばかりか、寝床や身分証までもヴィクストロムに与えられた。商売繁盛を狙って手を出した寿司屋事業には失敗するものの、いつしか先輩従業員たちまでもカーリドと深い絆で結ばれていく。そんなある日、カーリドは難民仲間からミリアムの居場所を知らされる。ヴィクストロムらの協力で彼は妹と再会、目的を果たすに至る。だが、安心しきった彼をいつかのネオナチの一員が襲う―。

『希望のかなた』3.jpg フィンランドのアキ・カウリスマキ監督・脚本による2017年の映画で、カンヌ国際映画祭でプレミア上映された前作の「ル・アーヴルの靴みがき」('11年)から続く難民問題3部作の第2弾。元々は「港町3部作」という構想だったのが、欧州で難民問題が深刻化する中、そちらに重きを置くように路線変更したようです(さらにカウリスマキ監督は、この作品を最後に映画監督業自体からの引退を仄めかしている)。

 この作品は、第67回ベルリン国際映画祭で「銀熊賞(監督賞)」を受賞しています。同監督作としては、カンヌ国際映画祭でグランプリを獲得した「過去のない男」('02年)以来、久しぶりの世界三大映画祭の主要部門の受賞であり、この監督、意外と賞の方は獲っていないのだなあと思いました。

 難民問題と格差社会を描き続けているベルギーのジャン=ピエール&リュック・ダルデンヌ監督は、カンヌ国際映画祭で5作品連続で主要賞を受賞していますが、ベルリン国際映画祭の"傾向と対策"も、難問問題や格差社会になりつつあるのでしょうか。近年、政策上難民を受け入れてきたドイツで難民受け入れ反対の声が上がるばかりでなく、デンマークをはじめ北欧内でも難民問題を巡って受け入れ反対運動を起きていて、我々が知る以上に、欧州では難民問題がクローズアップされているのかもしれません。

 映画は、「ル・アーヴルの靴みがき」と似た流れで、主人公が偶然出くわした一人の難民を庇護するというものです。レストラン経営のヴィクストロムは偶然にシリア難民の青年カーリドと出くわし、最初は互いに殴り合いの喧嘩をするものの、結局は彼を受け入れることで、彼を強制送還しようとする側、彼を暴力で排除しようとする側と対峙することになります。

 「ル・アーヴルの靴みがき」では、靴みがきの主人公がアフリカ難民の少年を北仏から母親がいるロンドンに密航させようと骨を折りますが、この「希望のかなた」では、このシリア難民のカーリドはシリア脱出の際にハンガリーで生き別れた妹を探しており、自身も難民申請するも不受理となり、強制送還前日に収容施設から逃亡します(結果的に妹とは会えて、彼女の難民申請も図ることに)。

「希望のかなた」4.jpg ネタバレになりますが、最後はヴィクストロムは妻とのよりを戻し(カーリドを庇護することが彼の人格に変化をもたらした?)、一方のカーリドは、ネオナチに刺されながらも、妹を難民センターに送り出した後、浜辺で朝日を受けて横たわり、寄り添ってきた犬に微かに微笑む(そう言えば「ル・アーヴルの靴みがき」でも犬は難民の少年の味方だった)―というエンディングでした。

 カーリドが刺されて(おそらく)血をどくどく流しながら横たわっているところで映画はぷつっと終わり、すべてがハッピーエンドだった「ル・アーヴルの靴みがき」とはこの点が大きな違いです。「ル・アーヴルの靴みがき」がある種"メルヘン"だとすれば、こちらは"現実"ということなのでしょうか。

 ただ、個人的には、「希望のかなた」というタイトルに影響されたのかもしれませんが、カーリドは死ななかったのではないかという気がします。

「希望のかなたIncP.jpg「希望のかなた」寿司.jpg この映画は随所にユーモアが見られます。例えば、ヴィクストロムがレストランを改装して日本風にした寿司屋は、欧米人にありがちな勘違い的日本趣味に溢れていて、法被を着た従業員たちもどこか変です。日本人がしばしば外国映画に見い出す"おかしな日本観"を、カウリスマキ監督は意図的に具象化してみせ、ユーモアを醸しているように思えます(日本人にはよくわかるユーモアだが、外国人にどこまでわかるか?)。

 そうしたユーモアと、バッドエンドの結末は相性が悪いように思えます。したがって、独断ですが(笑)「カーリドは死ななかった」とみるのがスジではないか思います。

 それにしても、やっぱりシリア内戦によって大量の難民が欧州になだれ込んだことで、欧州も今まで以上に難民の問題と向き合わなければならなくなっているのでしょう。

 国連の「持続可能開発ソリューションネットワーク」が発表している「世界幸福度ランキング」で2018年版から2021年版まで4年連続で1位を獲得したフィンランドにさえも、やっぱりネオナチみたいなゴロツキはいるというのは、この問題と無関係ではないのでしょう。

「希望のかなた」es.jpg「希望のかなた」●原題:TOIVON TUOLLA PUOLEN●制作年:2017年●制作国:フィンランド・ドイツ●監督・製作・脚本:アキ・カウリスマキ●撮影:ティモ・サルミネン●時間:98分●出演:シェルワン・ハジ/サカリ・クオスマネン/シーモン・フセイン・アル=バズーン/カイヤ・パカリネン/ニロズ・ハジ/イルッカ・コイヴラ/ヤンネ・フーティアイネン/ヌップ・コイヴ/カティ・オウティネン/マリア・ヤンヴェンヘルミ/ミルカ・アフロス/スレヴィ・ペルトラ/マッティ・オンニスマー/ハンヌ=ペッカ・ビョルクマン/タネリ・マケラ/ヴィッレ・ヴィルタネン/トンミ・コルペラ●日本公開:2017/12●配給:ユーロスペース●最初に観た場所:北千住・シネマブルースタジオ(18-12-17)(評価:★★★★)

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