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ストーリー良し、テンポ良し。「ジエルソミーナがグラマーに早変りした魅力」の三原葉子。
「黒線地帯 [DVD]」「黒線地帯 [DVD]」 天知茂/三原葉子
秘密売春組織に絡む女(瀬戸麗子)を追っていたトップ屋の町田広二(天知茂①)は、街の女易者(魚住純子②)の手引きでポン引のサブ(鳴門洋二③)と行ったホテルで睡眠薬を飲まされ、目覚めた時には傍らでその踊子の女が町田のネクタイで首を絞められ死んでいた。罠に嵌ったと知った彼は、女易者とポン引の行方を探る。この事件を新聞が報じ、町田のライバル鳥井五郎(細川俊夫④)も動き出す。町田はホテルの女中(城実穂)を街で見かけ、捉まえて話を訊こうとする。女の髪の中からは麻薬が見つかる。車が女を撥ね、彼女は"あの晩の男はサブ"と言い遺す。警察への町田からの匿名通報と同じ頃、事件を知らせる女の電話もあった。鳥井は、男の通報者は町田だと目星をつける。町田は死んだ踊子と親しかったという洗濯屋を探り、街で拾った女の麻薬常用者からポン引のサブの居所を知る。コマ劇場の傍のパチンコ店で町田はサブを追い、マネキン製造所に飛び込み、麻耶(三原葉子⑤)という女と知り合う。彼女は、海軍キャバレーのシンガポール(水上恵子⑥)という女給のことを話してくれ、そのキャバレーに行くと鳥井が来ていた。町田は死んだ女の踊っていた横浜のキャバレーへの途中、美沙子(三ツ矢歌子⑦)という高校生を拾う。彼女はフランス人形運搬のバイトをしていたが、町田は人形に麻薬が隠されている事実を掴み、麻耶に自白を迫る。鳥井が来て町田を犯人と決めつけるが、町田は2日の猶予を鳥井に貰う。麻耶はいつしか町田に惹かれいた。警察は町田を犯人として追い、町田は麻耶と逃れるが、途中で麻耶が負傷し、それを看るうちに時は迫る。麻耶は知っていることを町田に全部話し、町田は女易者を見つけ出し、麻薬団のボス(大友純⑧)が例の横浜のキャバレーを根城にしていることを聞き出すと、そのキャバレーに行く。そこには美沙子が人質になっていた―。
新東宝の地帯(ライン)シリーズの第2弾で、売春禁止法が施行されてから売春組織が地下に潜り、女性たちを麻薬や暴力で拘束しつつ秘かに営業を続けていたのを俗に「白線」「黒線」などといい、同シリーズにはそうした裏社会の組織を舞台とした以下の5作品があります。
■「白線秘密地帯」('58年)監督:石井輝男、主演:宇津井健
■「黒線地帯」('60年)監督:石井輝男、主演:天知茂
■「黄線地帯 イエローライン」('60年・新東宝)監督:石井輝男、主演:吉田輝雄/天知茂
■「セクシー地帯」('61年)監督:石井輝男、主演:吉田輝雄
■「火線地帯」('61年)監督:武部弘道男、主演:吉田輝雄/天知茂
「黄線地帯 イエローライン」('60年)/「セクシー地帯」('61年)
この内、石井輝男(1924-2005/享年81)は「火線地帯」を除く4作を監督し、天知茂(1931-1985/享年54)は「セクシー地帯」を除く4作品に出演していますが、三原葉子(1933-2013/享年79)は5作品"皆勤"です(三原葉子は'58年だけで「女体桟橋」「憲兵と幽霊」「人喰海女」「女王蜂の怒り」「女王蜂」「白線秘密地帯」「ヌードモデル殺人事件」「色競べ五人女」「スター毒殺事件」「消えた私立探偵」の8本の新東宝作品に出演していて、'59年には菅原文太と共演した「海女の化物屋敷」など6本、'60年もこれも石井輝男監督の「女体渦巻島」や、これまた菅原文太と共演した「女奴隷船」など8本に出演している)。
「海女の化物屋敷」('59年)/「女奴隷船」('60年)
無実の主人公が警察に追われながら真犯人を探すのというのは(それに女性が絡むというのも含め)ある種定番ストーリーですが、サスペンスフルでテンポもいいです(音楽は渡辺宙明)。東映プロデューサーの天尾完次は、「石井は同じ東宝出身の黒澤明の対極に位置する」と評していますが、主人公が人伝(づて)に訊いて徐々に真相に近づいていく様は、個人的には、黒澤明の「野良犬」('49年/東宝)における拳銃を盗まれた新米刑事(三船敏郎)の探索に重なるものがあるようにも思いました(黒澤作品を想起させるほどレベルが高いということか)。三船敏郎演じる刑事に鍵となる情報を与えるのも全て女性でした。
街や風俗の描き方も秀逸で、今観るとレトロ感充分。冒頭の夜の歌舞伎町から始まって新宿コマ劇場付近から伊勢丹辺りにかけてとか、或いは昼間ヌード劇場の屋上でステップを練習するダンサーらとか、夜の室内シーンで言えば海軍キャバレーとか(ホステス名が"シンガポール"、ビールの符牒が"魚雷"かあ)、いかにも怪しげだけれど口がきけないため「オシパン」と呼ばれていた女(山村邦子⑨)やゲイボーイ(浅見比呂志⑩)がいる店とか。麻薬団のボス(大友純)は怖そうだったし(あっさり謀殺されてしまうけれど)、終盤の町田と殺し屋ジョー(宗方祐二)の格闘シーンも良かったです。貨物列車の上からはしけの上に飛び移って...。横浜のどの辺りでしょうか。情感を秘めたラストもいいです(ちょっと三原葉子向きではない感じもするが)。
あの淀川長治も、この作品のストーリーや細部の描写を1つ1つ取り上げて褒めていますが、「けれど、そんな筋よりも安っぽいグラマーに扮した三原葉子が出てくると、 もうそれで面自くなる。ジエルソミーナがヌード・グラマーに早変りした魅力である。この映画作者はもっと自信を、もつと本格に取り組むべし」としています(「キネマ旬報」昭和35年2月下旬号第252)。三原葉子は演技力よりも、三原葉子そのものがいいという感じ。淀川長治は石井輝男に黒澤のような作品を期待したのかなあ。石井輝男は5年後にその代表作「網走番外地」('65年/東映)を撮ることになります(三原葉子は「続 網走番外地」('65年/東映)からこのシリーズに出演)。
「黒線地帯」●制作年:1960年●監督:石井輝男●製作:大蔵貢●脚本:石井輝男/宮川一郎●撮影:吉田重業●音楽:渡辺宙明●時間:80分●出演:天知茂/三原葉子/三ツ矢歌子/細川俊夫/吉田昌代/魚住純子/ 守山竜次/鳴門洋二/宗方祐二/瀬戸麗子/南原洋子/菊川大二郎/鮎川浩/城実穂/浅見比呂志/板根正吾/山村邦子/桂京子/小高まさる/大谷友彦/水上恵子/国創典/倉橋宏明/宮浩一/晴海勇三/村山京司/原聖二●公開:1960/01●配給:新東宝(評価:★★★★)