【1368】 ○ 三島 由紀夫 『近代能楽集 (1968/03 新潮文庫) ★★★☆

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古典と切り離して、三島戯曲として単独で味わってもいいのでは。「邯鄲」と「綾の鼓」がいい。

近代能楽集 sintyou bunnko.jpg近代能楽集.jpg 『近代能楽集 (新潮文庫)

 「邯鄲」「綾の鼓」「卒塔婆小町」「葵上」「班女(はんじょ)」「道成寺」「熊野(ゆや)」「弱法師(よろぼし)」の全8作品を収録。この内、「邯鄲」(昭和25年)から「班女」(昭和30年)までの5作が『近代能楽集』(1956/04 新潮社)として昭和31年に刊行され、「道成寺」以下3作は、昭和31年から昭和35年の間に発表されたものです(三島の年齢は昭和の年数と一致するので、25歳から35歳にかっけての作品であるということが容易に分かる)。

 全て能の原作を翻案したもので、作者が、「能楽の自由な空間と時間の処理方法に着目し、その露わな形而上学的主題を、そのまま現代に生かすために、シチュエーションのほうを現代化した」と後書きで書いていることからも(と言うことは、テーマ乃至モチーフは基本的に変えていないということ)、原作を知っているに越したことは無く、最初に読んだのは高校生の時でしたが、結構楽しめたものもあれば、やはり元の話が分からず、今一つぴんと来なかったものもありました。

 いつか能への知識を得た上で再読しようと思っていたのですが、その後、さほど造詣を深めることのないままの再読になってしまい、でも、「道成寺」や「弱法師」のように、原作をストーリー的にも大きく変形させているものもあるため、これはこれで三島戯曲として単独で味わってもいいのかなあと。

 ドナルド・キーンによれば、8作の中では「卒塔婆小町」と「綾の鼓」が最も成功しているとのことですが、最初に読んだ時は公園(ある意味、現代的なシチェーション)を舞台とした「卒塔婆小町」が印象に残ったのが、今回の再読では、法律事務所(もろに現代的なシチェーション)を舞台にした「綾の鼓」が良かったです(年齢のせいかなあ)。

 蜷川幸雄が'05年に「卒塔婆小町」(主演は壤晴彦)と「弱法師」(主演は藤原竜也・夏木マリ)のニューヨーク公演していますが、最近では美輪明宏が、「葵上」「卒塔婆小町」を演出し、主演も兼ねています(「綾の鼓」の方が良く思えるようになったのは、「卒塔婆小町」に美輪明宏のイメージが固着してしまったからかも)。
 
 一番初期の「邯鄲」という作品も、軽妙な味わいがあって、しかも、三島の死生観のようなものが滲んでいていいです。
 能楽としての「邯鄲」を知らなくとも、「邯鄲の夢」(「黄粱一炊の夢」)という故事はポピュラーであり、そうした意味でも親しみ易い作品。
 現時点での個人的な"お奨め"は、「邯鄲」と「綾の鼓」ということになります。 
 
 【1956年単行本・1990年改版[新潮社]/1968年文庫化[新潮文庫]】 

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This page contains a single entry by wada published on 2010年8月21日 00:13.

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