【2750】 ○ 山本 寛 『なぜ、御社は若手が辞めるのか (2018/06 日経プレミアシリーズ) ★★★☆

「●採用・人材確保」の インデックッスへ Prev|NEXT ⇒ 【3319】 山本 寛 『連鎖退職
「●日経プレミアシリーズ」の インデックッスへ

やや浅いが、リテンション・マネジメントのポイントを概観・再確認するには良い本。

なぜ、御社は若手が辞めるのか5.JPGなぜ、御社は若手が辞めるのか.jpg  山本寛 青山学院大学経営学部.jpg 山本寛・青山学院大学経営学部教授
なぜ、御社は若手が辞めるのか 日経プレミアシリーズ』(2018/06 日経プレミアシリーズ)

本書は、データや退職者の生の声をもとに、若手が辞めていく会社はどこに問題があるのか、社員が定着するためにはどのようなマネジメントが求められるのかを探った本です。

 第1章では、8割の上司が、「辞めてほしくない部下」の離職を経験しているというデータを示し、退職が退職を生むスパイラル「連鎖退職」や、若手がある日突然出社しなくなる「衝動的離職」といった問題を取り上げ、ハイパフォーマー社員が辞めた時の損失の実態を分析し、社員を「辞めさせない」ためのマネジメント(リテンション・マネジメント)の必要を説いています。

 第2章では、データやインタビューから若手・中堅の転職事情(退職を選ぶ理由等)を探り、悩みつつも辞めなかった人の本音も聞いて、辞めた社員との比較から見たリテンションのポイントとして、「働きがい」「会社の姿勢方針」「人間関係の良し悪し」を挙げています。

 第3章では、社員が辞める会社と辞めない会社の違いがどこにあるのかを分析し、「人を大切にする」「風通しが良い」社風では社員は辞めにくいとしています。その上で、「社員が辞めない会社」の組織風土とはどのようなものか、部下が辞めるのは上司の問題なのか、などをインタビューやデータから分析しています。社員の声と企業の声を比較すると、「適切な配置」の重要性について両者の考えは一致する一方、社員が重視するのは「給料」であるのに対し、会社が重視するのは「研修」であるが、社員は「教育は特に求めていない」というのが本音で、給与で大事なのは「納得感」であるとしています。

 第4章では、実際に社員定着のためにできることは何か、リテンション・マネジメントのポイントとして、①採用、②異動と「適性配置」、③報酬、④評価の仕方や方針、⑤労働時間、⑥研修、⑦福利厚生、⑧キャリア形成支援、⑨組織や職場でのコミュニケーション施策、⑩きめ細やかな退職管理、などを掲げ、それぞれについて働く人や人事部の声を拾い、また、テーマごとに企業の取り組み事例を紹介しています。

 第5章では、アンケート調査などを踏まえた上で、働き方改革とリテンションの関係について考察し、「副業OK」で会社の魅力は高まり、会社にもメリットをもたらすとしています。また、働き方改革には、「働きがい」と「働きやすさ」の2つの軸があるとして、ある企業の取り組みをこの2軸に沿って紹介しています。

 統計データやアンケート調査をフルに使い、働く人の生の声も多く取り上げて課題を抽出・整理しているため、分かりやすく説得力もあります。また、リテンション・マネジメントに取り組む会社の事例も数多く紹介されていて、実務上もある程度参考になると思います。一方で、分析がオーソドックスである分、分析結果にさほど目新しさはなく、また、紹介されている事例の数が多い分、1つ1つはやや浅い印象も受けました。

 リテンション・マネジメントのポイントを概観・再確認するには良い本であり、人事パーソンのみでなく、現場の上司(マネジャー)が読んでも啓発効果があると思われる点では、新書の特性を生かしているかと思います。

《読書MEMO》
●目次
第1章 社員に捨てられる会社(期待の若手が去った後...;8割の上司が、「辞めてほしくない部下」の離職を経験? ほか)
第2章 若手はこうして会社を辞める(「本音の見えない退職」が企業を苦しめる?;転職した人の半数以上は新しい会社に満足している? ほか)
第3章 社員が辞める会社・辞めない会社の境界線(辞めやすい会社・辞めにくい会社1 雇用主の魅力度;人材が定着する会社の共通点 ほか)
第4章 社員の定着のためにできること―リテンション・マネジメントのポイント(ポイント1 採用―入社してから対策していては遅い;「入社後のギャップ」は少ない方が良い? ほか)
第5章 働き方改革とリテンション(生産性の前にリテンション!;「副業OK」で会社の魅力は高まる ほか)

Categories

Pages

Powered by Movable Type 6.1.1