【2210】 ○ 小杉 俊哉 『リーダーシップ3.0―カリスマから支援者へ』 (2013/02 祥伝社新書) ★★★★

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現在必要なのは支援型のリーダーシップ3.0であると。著者なりの理論の体系づけと啓発。
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リーダーシップ3.050.JPG  小杉 俊哉.jpg 小杉 俊哉 氏(経営学者、コンサルタント。慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科准教授、コーポレイト・ユニバーシティ・プラットフォーム代表取締役社長)
リーダーシップ3.0――カリスマから支援者へ(祥伝社新書306)

 企業や国家の運営が不振に陥ると、「カリスマ」リーダーを求める声が起こるのが世の常ですが、本書では、時代とともに企業にとって必要とされるリーダー像は変遷しているとし、中央集権のリーダーシップ1.0、変革型のリーダーシップ2.0を経て、現在必要なのは支援型のリーダーシップ3.0であるとしています。

 リーダーシップ1.0は、中央集権的に組織を支配するナポレオンのようなタイプで、企業リーダーの代表例は、軍隊式中央集権的な仕組みを産業界に持ち込んだフォード・モーターの創立者ヘンリー・フォードであり、これに対し、各事業部に責任者を置き、権限を委譲して責任を持たせることで組織をコントロールするGMのアルフレッド・スローンのようなタイプをリーダーシップ1.1とし、何れも、やがて時代の変化に沿わないものとなっていったとしています。

 一方、戦後急成長を遂げた日本企業におけるリーダーは、権力で率いるのではなく、組織全体に価値観と働く意味を与え、雇用の安定を図るなど協調を促し、一体感を醸成して組織を牽引するタイプであり、これをリーダーシップ1.5としていますが、これもバブル崩壊後は輝きを失った―。

 そこで1990年代以降は、組織の方向性を提示し、大胆に組織改編を行ない、競争や学習を促して組織を変革させる、例えばGEのジャック・ウェルチのような強いタイプのリーダーがもてはやされるようになり、ウェルチ以外にも、IBMのルイス・ガースナーやマイクロ・ソフトのビル・ゲイツ、アップルのスティーブ・ジョブズといったカリスマリーダーもそうであるとして、これをリーダーシップ2.0としていますが、このリーダーシップ2.0も、強さゆえのリスクを伴い、個人の力量に依存するところが大きいため、組織が個人の器を超えられないという難点が露呈した―そこで今求められるのが、支援型のリーダーシップ3.0であると。

図 リーダーシップ3.0.jpg リーダーシップ3.0は、それまでのヒエラルキーを逆転し、逆ピラミッドの最も下にリーダーがいて支える新たなリーダーシップのタイプであり、組織全体に働きかけてミッションやビジョンを共有し、コミュニティ意識を育てるところがポイント。個人とも向き合ってオープンにコミュニケーションを取り、組織や個人の主体性、自立性を引き出すものであり、高度成長期にあった日本企業のリーダーシップ1.5と一見似ているようにもみえるが、リーダーシップ1.5が他の選択肢を許さなかったのに対し、リーダーシップ3.0では「あえて、そこで働くことを選ぶ」という価値観が重視されるとしています。

 また、リーダーシップ3.0の具体例モデルとして、「サーバント・リーダーシップ」や「コラボレイティブ・リーダー」「第五水準のリーダーシップ」などを、リーダーシップ3.0を裏付ける理論として「マネジメント2.0」や「場の理論」「モチベーション3.0」などの諸理論を取り上げて、体系的に解説しています。

 単にリーダーシップ論を整理するだけでなく、リーダーシップ3.0を経営において実践している企業として、インドのIT企業HCLテクノロジーズや、ザ・リッツ・カールトン、SAS、サウスウェスト航空、資生堂など、日本企業を含む何社もの事例を挙げて、その取り組みも紹介しています。更に興味深いのは、「永平寺のリーダーシップ3.0」を禅の思想と絡めながら紹介し、760年続くマネジメント仕組みを解き明かしている点です。

 後半は、「3.0」リーダーに必要とされる要素を、「ビジョンを持ち、語る」「リーダーになる」「ミッションを持つ」など9つ掲げるとともに、日本人が「3.0」リーダーになるために必要なことは何かを考察し、「個人としての謙虚さと職業人としての意志の強さという矛盾した性格の組み合わせによって、偉大さを持続できる企業を作り上げる」という点で、日本人はリーダーシップ3.0に向いているとしています。

 リーダーシップ理論の多くは、いわば"輸入もの"であるわけですが、それを著者なりに体系づけ、現在の日本及び日本企業が置かれている状況を鑑みながら、今後の企業や社会で求められるリーダー像を明確に示しているという点で良書だと思います(こうした、既存の理論を自分の頭で考えた体系の中で整理して考察を深める手法は、著者の著書に共通する)。

 新書一冊に密度濃く詰め込んだため、若干項目主義になったきらいもありますが(いい意味において単行本で読みたかった本)、「永平寺から学ぶリーダーシップ3.0」などは読み物としても面白く、また、後半部分は大いに啓発的であり、新書であるがゆえに手軽に手に取れて、しかも元気づけられる本でもありました。

《読書MEMO》
●リーダーシップの変遷
リーダーシップ1.0―権力者<中央集権> 1900〜1920年代まで(17p~)
権力者が頂点に立ち、中央集権的に組織を支配するナポレオンのようなタイプ。代表例は、軍隊式中央集権的な仕組みを産業界に持ち込んだフォード・モーターの創立者ヘンリー・フォード。流れ作業を導入し、大量生産の管理手法を導入した。ユーザーが好みの色、形、性能を求めるようになると中央集権的な大量生産では対応できなくなり、リーダーシップ1.0は終演を迎える。
リーダーシップ1.1―権力者<分権> 1970〜1980年代まで(21p~)
各事業部に責任者を置き、権限を委譲して責任を持たせることで組織をコントロールするタイプ。代表例は、1920年にゼネラル・モーターズのCEOに就任したアルフレッド・スローン。最下級のシボレーからその上のポンティアック、中級のオールズモービル、中上級のビュイック、最上級のキャディラックとユーザーのニーズに応じたラインナップを用意し、あらゆるニーズに応えた。しかし、事業部制組織は現場とマネジャーの対立を深めることになり、階層による厳格な管理、賃金のみによる動機づけは社員の独創性を削いでいくことになった。
リーダーシップ1.5―調整者 1930〜1960年代まで(24p~)
権力で率いるのではなく、組織全体に価値観と働く意味を与え、雇用の安定を図るなど強調を促し、一体感を醸成して組織を牽引するタイプ。当時急成長を遂げた日本企業がこれにあたる。結果的に、この手法を取り入れた戦後日本はGNP世界第二位を達成し、産業界においてアメリカをしのぐ急成長を果たした。しかし、当初は有効だった価値観は次第に形骸化し、1991年のバブル崩壊後は急速に輝きを失った。
リーダーシップ2.0―変革者 1990年代(31p~)
組織の方向性を提示し、大胆に組織改編を行ない、競争や学習を促し、組織を変革させるタイプ。それまでのリーダーシップを否定し、毅然と大胆に行動するリーダーとしての存在価値をアピール。工業製品の大量生産・大量販売からいち早く脱却し、製品とサービスをバンドリングさせた新たなビジネスモデルを構築したGEのジャック・ウェルチ他、IBMのルイス・ガースナー、HPのカーリー・フィオリーナ、マイクロソフトのビル・ゲイツ、Appleのスティーブ・ジョブズなどカリスマ的リーダー。デメリットは、強さゆえのリスクを伴い、個人の力量に依存するところが大きいため、組織が個人の器を超えられないことであり、新しいビジネスモデルを創造しにくく、破壊的イノベーションに対応しづらく、社員も受け身に。
リーダーシップ3.0―支援者 2001年〜(73p~)
それまでのヒエラルキーを逆転し、逆ピラミッドの最も下にリーダーがいて支える新たなリーダーシップのタイプ。組織全体に働きかけてミッションやビジョンを共有し、コミュニティ意識を育てるところがポイント。個人とも向き合ってオープンにコミュニケーションを取り、組織や個人の主体性、自立性を引き出す。リーダーシップ1.5が他の選択肢を許さなかったのに対し、リーダーシップ3.0では「あえて、そこで働くことを選ぶ」という価値観が重視されている。
●「3.0」リーダーに必要とされる要素
○要素1「ビジョンを持ち、語る」
○要素2「リーダーになる」
○要素3「ミッションを持つ」
・ミッションを考えあぐねる場合は、自分のギフト(天賦の才能)について考えてもらう
○要素4「他者を支援する」
・「自己承認と自己確立」から「他者支援・感謝」
○要素5「人間力を磨く」
○要素6「仮面をとる」
・①自らの弱点を認める ②直観を信じる ③タフ・エンパシー(厳しい思いやり)を実践する ④他人との違いを隠さない
○要素7「ファシリテーと(促進)する」
○要素8「エンパワーメントを正しく理解し実行する」
○要素9「動機づけを行う」

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