【3371】 ○ 石黒 太郎 『失敗しない定年延長―「残念なシニア」をつくらないために』 (2020/10 光文社新書) ★★★★

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定年延長は「日本型=会社従属型」から「ジョブ型=職務請負型雇用」への一里塚であると。

失敗しない定年延長.jpg 『失敗しない定年延長 「残念なシニア」をつくらないために (光文社新書)』['20年]

 組織人事コンサルタントによる本書では、労働力不足を補う最も手近で有用な人材は、シニアの活用をおいて他にないが、小手先の定年延長をすれば「残念なシニア」が大量に生まれ、企業のみならず日本経済全体の後退をも引き起こすとし、"正しい定年延長"の在り方を提言しています。

 第1章では、日本企業の職に少なからず存在する残念なシニアを、迷惑系・勘違い系・無力系に類型化するとともに、社員が残念なシニア化してしまう大きな理由は、定年再雇用の仕組みによるモチベーションダウンにあること指摘し、日本企業では、中高年社員の半数以上が会社の人材育成施策の対象外であり、約7割の社員が自己学習すらしていないとしています。

 第2章では、少子高齢化の進展で生産年齢人口が大きく減少するなか、若手人材の不足を女性・外国人雇用だけでカバーするのは困難であるため、シニア雇用が人材確保政策として有力な選択肢となり、定年延長は国策として推進される可能性もあるとしています。

 第3章では、シニア雇用のあるべき姿を検討する際の前提となる「雇用ジェロントロジ―(老年学)」という考え方を紹介し、加齢による体力・知力・心の変化、心身機能の低下と、それらが職務にどのような影響を及ぼすかを解説しています。

 第4章では、定年延長のあるべき姿として、
  ①会社がシニアに期待する職務をリスト化し、職務内容・要件を明示する
  ②個々の職務について、その客観的価値に基づく適正な処遇水準を設定する
  ③個々の職務に最適なシニアを配置する
  ④シニア一人ひとりの働きぶり・成果に報いる
という4つのステップを示すとともに、現在の人事制度との乖離が大きい場合の処方箋として、60歳到達前までは従来の人事制度を維持し、60歳到達以降は定年延長のあるべき姿に基づく制度とする、一社二制度とする方法もあるとしています。

 第5章では、日本型雇用システム=会社従属型雇用は世界に類を見ないガラパゴス的な雇用システムであるとして、その成立の経緯と特徴を架空の人物のエピソードに基づいて紹介するとともに、会社従属型雇用の真因は正規社員の長期勤続にあり、「生産性の低い働き方」「職務価値と乖離した報酬水準」「正規・非正規社員間の不平等な処遇」「会社依存のキャリア形成」という4つの弊害を生じさせており、会社従属型雇用を日本企業が継続する限り、企業各社の成長も日本経済の復活もないとしています。

 第6章では、日本企業が今後、どのような人材マネジメントを展開していくべきか、経済産業省主催の研究会による提言が示す「今後目指すべき方向性」と「具体的なアクション」や、経団連による「経営労働政策特別委員会報告」の提言する「Society 5.0時代の働き方」の内容などを紹介しています。そして、そこらから、ジョブ型の人材マネジメントの必要性を確認するとともに、ジョブ型の人材マネジメントへ一足飛びに移行するのではなく、従来からの「日本型=会社従属型」と「ジョブ型=職務請負型」の複数の人材マネジメントを組み合わせることで多様な人材を受け入れるようにすること、そのために「ジョブポートフォリオ」を設計し活用することで最適な労働力を確保をすることを提唱しています。

 会社従属型雇用は数ある労働力確保方法の1つと位置づけ、ジョブ型=職務請負型雇用を中心とした労働力確保のフル活用が求められていることを説き、定年延長は、ジョブポートフォリオ・マネジメントの一環であり、今後の人材マネジメントをジョブ型で行っていくための一里塚となるもので、企業にとって最重要プロジェクトであると説いたものでした。

タイトルからテックカルなことが書かれていると思われがちですが、人事部員だけでなく、自社の人材マネジメントの将来を憂う経営者、これから定年を迎える会社員などを読者層に想定した啓発書でした。最終章がいかにもコンサルティングファームっぽい纏め方になっているのがやや気になりましたが、独自の視点で定年延長の問題を捉えているという点で、人事パーソンにとっても啓発的であるかと思います。

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