【3500】 ○ 中村 登 (原作:武者小路実篤) 「愛と死 (1971/06 松竹) ★★★☆

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『友情』『愛と死』が原作。『友情』の主体の入れ替えにやや混乱。栗原小巻は魅力全開。

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「愛と死」('71年/松竹)監督:中村登/脚本:山田太一/出演:栗原小巻・新克利・横内正・芦田伸介

「愛と死」02.jpg 水産研究所の研究員・大宮雄二(新克利)は、長かった四国の勤務を終えて横浜に帰ってきた。そして高校時代からの親友・野島進(横内正)の恋人・仲田夏子(栗原小巻)と、テニスを通じて知り合った。ある日、大宮は夏子の誕生パーティーに招待され、無意識のうちに夏子に魅せられている自分に気づき愕然とする。大宮はその時から夏子を避けようと努めたが、野島から満たされないものを感じていた夏子は、積極的に大宮に愛を打ち明けた。大宮は、友情で結ばれた野島を思うと、自然と夏子へ傾きかける自分の気持を許すことができなかった。大宮は、八戸の研究所へ2カ月間勤務することを申し出た。その夜、大宮のアパートに夏子が訪れ、彼女は野島には「愛と死」01.jpg愛情を感じていなかったと言う。二人が歩く姿を野島に目撃されたのを契機に、大宮の心は激しく夏子を求めるようになる。夏子への愛は、野島との友情さえも断ち切ってしまうほど強くなっていった。八戸に出発する日が近づいたある日、大宮は夏子の両親に会い、夏子との結婚の許しを得る。大宮は、その足で野島に会い、自分の不義を詫びた。野島は何も言わず大宮を殴り倒した。出発の日、大宮は、自分の両親に引き会わせるため夏子を連れ秋田へと向かった。2人は大宮家で2カ月間の別れを惜しんだ。独り東京に帰った夏子は、一日も欠かさず大宮に手紙を書き、2カ月間の時間が経つのを祈った。八戸に向った大宮も同じ気持だった。手紙は毎日書くという別れ際の約束も破られる事なく時間は流れていった。そしてあと2日で会えるという日、大宮のもとに夏子の父・修造(芦田伸介)から、ある電報が届く―。

山田太一(1934-2023)
山田太一.jpg武者小路実篤 友情 2.jpg愛と死 (新潮文庫)3.jpg 1971年公開作で、監督は中村登、脚本は山田太一。原作者は武者小路実篤ですが、『愛と死』だけではなく『友情』も原作にしていて、両者を合体させて時代を現代(70年代)にもってきているため、まさに脚本家の腕の見せ所といった感じでしょうか。

 前半部分は『友情』をベースにしているようですが、『友情』では「野島」は脚本家、「大宮」は作家で、ヒロインは「仲田杉子」という令嬢です。それが映画では、横内正が演じる「野島進」はCMディレクターという派手な職種で、新克利が演じる「大宮雄二」は魚類が専門の水産研究所の研究員とこちらは地味、栗原小巻が演じるヒロイン「仲田夏子」は、製薬会社の研究員となっています。ただ、原作と異なるのは、原作の主人公は「野島」であり、彼の視点で(つまり想い人を友人に奪われる側の視点で)物語が進むのに対し、映画では、新克利が演じる「大宮雄二」の視点で(つまり友人の恋人を結果的に奪う側の視点で)話が進んでいき、この辺りの主体の入れ替えが、最初観ていてやや混乱しました。

 後半は主に『愛と死』をベースにしていますが、「大宮」は罪悪感からしばしば「野島」のことを口にするという、夏目漱石の『』みたいな雰囲気も。因みに、『愛と死』の主人公は小説家の端くれである「村岡」で、これは、新克利が演じる「大宮雄二」に引き継がれています(前半部分の"主体の入れ替え"は後半に話を繋ぐためか)。原作の『愛と死』のヒロインは、「村岡」が尊敬する小説家で友人の「野々村」の妹である「夏子」となっており、栗原小巻が演じるヒロイン「仲田夏子」は、苗字の「仲田」を『友情』から、名の「夏子」を『愛と死』からとってきていることになります。

 原作では、2人は「村岡」の巴里への洋行後に結婚をするまでの仲になり、実質的に婚約へ(ただし、「大宮」が秋田県・角館の自分の実家に夏子を連れていったりする話は映画のオリジナル)。半年間の洋行の間でも互いに手紙を書き、帰国後の夫婦としての生活にお互い希望を抱いていたが...となりますが、映画では洋行ではなく、先にも述べたように八戸への2か月の赴任になっていたものの、手紙で遣り取りするのは原作と同じ(映画では電話を使わないことを「互いに声を封印した」と説明)。しかし、ラストに悲劇が訪れ、原作ではそれが夏子がスペイン風邪=新型インフルエンザによる突然死ということになっていたのが、映画では、仕事場での実験中の同僚のミスによる爆発事故死になっていました。

 原作のヒロインも利発で活発ですが、映画ではキャリアウーマン(仕事する女性)であることをより強調している感じです。一方で、友達の男女を10人ばかり自邸に呼んでゴーゴーダンスとか踊ったりして、(無理に)今風にしようとしているみたいな印象も。栗原小巻が当時流行のミニスカートでゴーゴーを踊る場面など、今観ると逆にレトロっぽいのですが、後半にかけて主人公が人間的に大人っぽっくなっていくため、その成長効果には繋がっていたかも。

 原作では、「村岡」は帰国後に深い悲しみを負いながら野々村と一緒に墓参りし、「死んだものは生きている者に対して、大いなる力を持つが、生きているものは死んでいる者に対して無力である」という人生の無常を悟りますが、映画では夏子の父親(芦田伸介)が語るセリフがそうした哲学的な内容になっています(この中では芦田伸介でないと喋れないセリフかも。本作より先に映画化された1959年の石原裕次郎・浅丘ルリ子の日活版ではどうだったろうか)。

栗原 キネ旬.jpg 全体としてメロドラマ風になるのは仕方がないでしょうか。栗原小巻は当時26歳。原作のような「可愛い」というイメージよりも「キレイ」という感じですが、その魅力は引き出していたと思います(むしろ「全開」と言っていいのでは)。

 新(あたらし)克利と横内正は俳優座養成所の第13期生、栗原小巻は第15期ですが、栗原小巻は在籍中に抜擢されて初舞台を踏んでいます。栗原小巻は、生年月日が1日違いの吉永小百合とアイドル的人気を二分し、吉永小百合が、オファーがあって出演したかったもののヌードシーンがあるために父親か出演を許さなかったという映画「忍ぶ川」('72年)に栗原小巻が出演して、多くの演技賞を獲ったといったこともありました。

「キネマ旬報」 1971年6月下旬号(表紙:愛と死 (栗原小巻) )

 中年以降は吉永小百合が映画を主軸に据えているのに対し、栗原小巻は舞台を主軸としており、現在も活躍中です。そう言えば、「水戸黄門」の初代・格さんで知られた横内正も、シェイクスピア劇の俳優&舞台演出家として活躍中。新克利も演劇界の重鎮として存命しているのは喜ばしいことです(3人とも俳優座出身のため、演劇に回帰していくのか)。

栗原・横内・新.jpg栗原小巻(1949年生まれ)
2015年10月調布CATCH映画「愛と死」上映会/2019年2月舞台「愛の讃歌ーピアフ」/2021年6月「徹子の部屋」

横内 正(1941年生まれ)
1969年-1978年ドラマ「水戸黄門」初代渥美格之進(格さん)/1978年-1997年ドラマ「暴れん坊将軍 吉宗評判記」初代大岡忠相/2019年2月三越劇場「マクベス」(主演)のポスターを前に

(あたらし)克利(1940年生まれ)
1975年-1976年ドラマ「必殺仕置屋稼業」僧・印玄/1977年ドラマ「華麗なる刑事」刑事・田島大作(大作さん)/近影


「愛と死」p2.jpg「愛と死」03.jpg「愛と死」●英題:LOVE AND DEATH●制作年:1971年●監督:中村登●製作:島津清/武藤三郎●脚本:山田太一●撮影:宮島義勇●音楽:服部克久●原作:武者小路実篤●時間:93分●出演::栗原小巻/新克利/横内正/芦田伸介/木村俊恵/野村昭子/伴淳三郎/東山千栄子/執行佐智子/三島雅夫/鶴田忍/中田耕二/江藤孝/加村赴雄/加島潤/河原崎次郎/茅淳子/田中幸四郎/前川哲男/山口博義/ザ・ウィンキーズ●公開:1971/06●配給:松竹●最初に観た場所:神保町シアター(24-03-27)(評価:★★★☆)
ポスター[上]

パンフレット[左・下]
「愛と死」p1.jpg

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