【3028】 ○ トム・フォード (原作:クリストファー・イシャーウッド) 「シングルマン」 (09年/米) (2010/10 ギャガ) ★★★★

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「恋愛はバスを待っているようなもので、一台のバスを逃しても、また次のバスが来る」。

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シングルマン [DVD]」コリン・ファース/ジュリアン・ムーア  ニコラス・ホルト
「シングルマン」4.jpg 1962年11月30日の朝。LAの大学で英文学を教えている内省的でシニカルなジョージ(コリン・ファース)にとって、この8ヶ月間は苦痛に満ちた日々だった。16年間共に暮らした建築家のジム(マシュー・グード)が交通事故で亡くなって以来、その悲しみは癒えるどころか、日に日に深くなっていた。だが、彼は自らの手でこの悲しみを終わらせようと決意する。大学のデスクを片付け、銀行の貸金庫の中身をカラにし、新しい銃弾を購入。着々と準備「シングルマン」0.jpgを進めるジョージだったが、一方で、今日が最後の日だと思って世界を眺めると、些細なことが少しずつ違って見えてくる。最後の授業ではいつになく自らの信条を熱く語り、講義に触発された教え子ケニー(ニコラス・ホルト)が、学校の「シングルマン」ages.jpg外で話したいと追いかけてくる。彼の誘いを断って銀行に行くと、いつも騒がしい隣家の少女と偶然出会う。ジョージは少女の可憐さに始めて気付き、彼女との正直な会話に喜びさえ感じる。だが、帰宅したジョージは、遺書、保険証書、各種のカギ、「ネクタイはウインザーノットで」のメモを添えた死装束......全てを几帳面にテーブルに並べる。そし「シングルマン」81.jpgて銃、とその時、かつての恋人で今は親友のチャーリー(ジュリアン・ムーア)から電話が入り、ジョージは破るつもりだった約束を守って彼女の家を訪れる。夫と子供に去られ「シングルマン」l.jpgて孤独な彼女の身勝手な言動に振り回されながらも、未熟で奔放だった青春時代を共にロンドンで過ごした彼女と心から笑い合うジョージ。そして、一日の終わりには、彼の決意を見抜いていたケニーの思いがけない行動にジョージは心を揺さぶられる―。

「シングルマン」ヴェネチア3.jpg 原作はクリストファー・イシャーウッドの同名小説で、ファッションデザイナーとして知られるトム・フォードの監督の2009年の監督デビュー作です。この作品でコリン・ファースに第66回Venice filmfest honors.jpgヴェネツィア国際映画祭の男優賞をもたらしたほか、続く「ノクターナル・アニマルズ」('16年)で監督第2作にして、第73回ヴェネツィア国際映画祭で銀獅子賞(審査員グランプリ)に輝いています。
トム・フォード監督、ジュリアン・ムーア、コリン・ファース(第66回ヴェネチア国際映画祭)

「シングルマン」cf.jpg イギリスとイタリアの国籍を持つコリン・ファースは、同性愛者である大学教諭を演じたこの作品で、前述の第66回ヴェネツィア国際映画祭男優賞のほか、英国アカデミー賞主演男優賞受賞など多くの賞を受賞しています(2年後の「裏切りのサーカス」 ('11年/英・仏・独)でも同性愛者のスパイを演じた)。また、この映画の翌年の「英国王のスピーチ」('10年/英・豪・米)で吃音に悩まされたイギリス王ジョージ6世を演じて、第83回アカデミー賞の主演男優賞と第68回ゴールデングローブ賞主演男優賞(ドラマ部門)をダブル受賞しています。

「シングルマン」ew.jpg 一方、ジュリアン・ムーアは、この時すでに「エデンより彼方に」('02年/米)でヴェネツィア国際映画祭女優賞、「めぐりあう時間たち」('03年/米)でベルリン国際映画祭女優賞を受賞していましたが、その後「マップ・トゥ・ザ・スターズ」('14年/米)でカンヌ国際映画祭女優賞を受賞したため、ジュリエット・ビノシュに次いで世界三大国際映画祭すべての女優賞を制覇した二人目の女優となり、さらに「アリスのままで」('14年/米)でゴールデングローブ賞とアカデミー賞の各主演女優賞をダブル受賞と、この二人のその後の活躍には進境著しいものがありました。

「シングルマン」a ges.jpg 映画はというと、ジョ「シングルマン」ニコラス・ホルト.jpgージの元恋人で親友のチャーリーの母の言葉「恋愛はバスを待っているようなもので、一台のバスを逃しても、また次のバスが来る」という、まさにその通りの内容でしたが、その言葉どおりのことががゲイの登場人物に起きるというのがこの映画であり、男同士の恋愛(マイノリティの恋愛)も男女の恋愛(マジョリティの袁愛)と基本的に同じであるということが言いたかったのではないでしょうか。

「シングルマン」la.jpg 冷戦下の緊張が高まる1962年のアメリカが舞台で、キューバ危機への社会不安、経済成長の影で崩壊する中産階級、ヒッピー文化の幕開け(荒廃した若者のモラルと相俟って、主人公はこれを嫌悪する)等々―そうした時代の波が押し寄せる中、主人公のジョージは、学問と孤独な精神性に魂の救いと安息を求める、いわば保守的な人間であるわけですが、そうした保守的な(しかもインテリ)人間がゲイであるという設定も、この作品の注目すべきポイントかもしれません(LGBTは文化人類学上の必然であるという近年の思潮に沿っていると言える)。

 ジョージが死を意識することで、今まで見ていた景色が色づき、自分が思っていたよりずっと愛おしいものだと気づいていく、その彼が改めて世界の素晴らしさを発見する過程が明快に描かれていて、その上で、「次のバスが来る」という結末に繋がっていくのが自然でした。この自然さは、かなりの部分、コリン・ファースとジュリアン・ムーアの演技力に負うのではないかと思われました。

「シングルマン」ges.jpg「シングルマン」●原題:A SINGLE MAN●制作年:2009年●制作国:アメリカ●監督:トム・フォード●製作:トム・フォード/アンドリュー・ミアノ/ロバート・サレルノ/クリス・ワイツ●脚本:トム・フォード/デヴィッド・スケアス●撮影:エドゥアルド・グラウ●音楽:アベエル・コジェニオウスキ/梅林茂●原作:クリストファー・イシャーウッド●時間:128分●出演:コリン・ファース/ジュリアン・ムーア/マシュー・グード/ニコラス・ホルト/ジョン・コルタジャレナ/ジニファー・グッドウィン/テディ・シアーズ/ライアン・シンプキンス/リー・ペイス/エリン・ダニエルズ/アリーン・ウェバー/ジョン・ハム(声のみ)●日本公開:2010/10●配給:ギャガ●最初に観た場所:北千住・シネマブルースタジオ(19-03-12)(評価:★★★★)

「英国王のスピーチ」('10年/英・豪・米)/「裏切りのサーカス」 ('11年/英・仏・独) 
英国王のスピーチ.jpg 裏切りのサーカス02.jpg

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