【1388】 △ ジェフリー・ディーヴァー (池田真紀子:訳) 『魔術師(イリュージョニスト) (2004/10 文藝春秋) ★★★

「●て ジェフリー・ディーヴァー」の インデックッスへ Prev|NEXT ⇒ 【2199】 ジェフリー・ディーヴァー 『クリスマス・プレゼント
「○海外サスペンス・読み物 【発表・刊行順】」の インデックッスへ

"シリーズ第5作。犯行の目的と手段の乖離を「ミスディレクション」で説明するにはやや無理が...。
ディーヴァー  『魔術師』.jpg魔術師 単行本.jpg 魔術師 文庫下.jpg 魔術師 文庫 上.jpg
魔術師 (イリュージョニスト)』['04年] 『魔術師(イリュージョニスト)〈上〉 (文春文庫)』『魔術師(イリュージョニスト)〈下〉 (文春文庫)

 2004(平成16)年度「週刊文春ミステリー ベスト10」(海外部門)第3位、2005 (平成17) 年「このミステリーがすごい」(海外編)第2位作品。

 ニューヨーク各所で数時間おきに舞台奇術さながらの連続見立て殺人事件が発生し、犯人はいつも衆人環視の中、鮮やかな脱出パフォーマンスを演じるが如く消え失せてしまう。四肢麻痺の"天才的犯罪学者"リンカーン・ライムは、奇術の才能を持った犯人が繰り出す"手持ち無沙汰の絞首刑執行人"、"美女の胴切り"、"中国の水牢"など、有名な奇術に準えた殺人を阻止するには、そのタネを見破らねばならないとし、イリュージョストを目指す女性カーラに協力を依頼する―。

The Vanished Man.jpg 2003年発表のジェフリー・ディーヴァーの"リンカーン・ライム"シリーズの第5作で(原題は"The Vanished Man")、その前に第3作『エンプティー・チェア』で南部の田舎町に行ったり、第4作『石の猿』でプロットに中国思想を織り込んだりと変化球ぽかったのが、この作品で、"安楽椅子探偵"が猟奇殺人犯を追うという、このシリーズの原初スタイルに戻った感じ。但し、個人的には、文庫化されてから読んだこともあって、ややマンネリ感も。

 解説の法月輪太郎氏が、「よく言われることだが、ライム・シリーズは結末の意外性を重視するあまり、時としてストーリーが破綻してしまう傾向がある。犯人の最終目的と、そこに至るまでの込み入った手段が合理的なバランスを失って、本末転倒の印象を受けることも珍しくない」とし、「しかし、用意周到なイリュージョニストを犯人に据えた本書では、そうしたプロットの泣き所がうまい具合にクリアされている」としています。

 つまり、魔術師による魔術そのものが、観客の目を欺くための"ミスディレクション"をベースに成り立っており、犯人が魔術師である以上、どんなに"回り道"をしても、それは"ミスディレクション"の手法として合理化でき、"目的と手段の不均衡"は解消されるということのようですが、果たしてそうでしょうか。

 個人的には、理屈は理屈、実態は実態というか、今回も大いに楽しませてくれたには違いありませんが、ちょっとやり過ぎたような感じもし(サービス過剰?)、冷静に考えれば、犯人が自らの目的のために、検事補の殺害や極右組織の指導者の脱獄幇助をわざわざ装うというのは、あまりにも目的と手段が乖離しているように思えてなりませんでした。

 冒頭の連続殺人やそのスタイルも、作者の動機との関連が今一つ弱いように感じられ、そうすると、この犯人は、猟奇犯であったと同時に復讐犯であり、但し、犯行の手口は前者と後者でかなりの不統一を呈している―これではハナから、このシリーズお得意の独自プロファイリングが効かないということになってしまう―それでいて、土壇場で犯人を追い詰め、その正体まで暴いてみせるというのは、ライムがいくら天才でも、ややご都合主義的な気がしました。

 まあ、読者としては素直に騙されていればいいのであって、また、それが作品を楽しむ一番のコツなのかも知れませんが、そうした引っ掛かりもあって、読後にやはりスッキリしないものが残りました。

 【2008年文庫化[文春文庫(上・下)]】

Categories

Pages

Powered by Movable Type 6.1.1