「●あ行の現代日本の作家」の インデックッスへ Prev|NEXT ⇒ 【3166】 石田 夏穂 『我が友、スミス』
秋葉原を舞台にしたオタク少年たちの電脳活劇。コミック調?
秋葉原を舞台に、普通の社会には適応できないオタク少年たちが、持ち前の電脳に関する異能を発揮して活躍する話ですが、秋葉原という街の生き物のようなパワーや不思議さがうまく描かれている一方で、"IWGP"シリーズ同様、著者の若者たちに対する暖かい視線が感じられました。
ただし今回は、ストーリー的にはどうなのでしょうか。読み始めてすぐに、冒頭の語り手が何者なのかもわかってしまうし...。
主人公たちがその表面的な特異性とは逆にすごく素直で、彼ら同士では協調的、雰囲気としては"IWGP"シリーズと同じジュブナイル系みたいで、それにSFが少し入っているため、さらに活劇コミックっぽい感じがしました。
秋葉原は、産官学連携プロジェクト「秋葉原クロスフィールド」で注目を集めていて、ITだけでなく、この街の文化・風俗を多くのメディアが特集したために、例えば「メイド喫茶」などは市民権とまでは行かないまでも、完全に認知されてしまっています。
そうした意味では、'02年1月からこの連載を始めた著者には先見の明があったのかも知れませんが、'04年末に単行本になったときにはもう内容が一部陳腐化しているというか、読者の既知の世界になっている点が多いのが少しツラいかも。
「アキバ」「IT」というものを読者に丁寧に紹介しているような面もあり、AI(人工知能)を扱った話なのに、「ブロガーってなに?」みたいな"時代錯誤"的な会話があり、「ブログ」とは何かという解説が続く...こうしたことが展開のチグハグさを増長しているような気がしました。
秋葉原という街には、産官学連携プロジェクトと「萌え」に表象される文化がどう融合するのかといったことなど多くの注目点がありますが、この作品では部分的にはそれらのことを、「半沢老人」の言葉や「中込威」の嗜好を通して語っていたかもしれませんが、背景としてしか描かれておらず、小説としてはそれでいいのかもしれませんが、個人的にはやや物足りませんでした。
【2006年文庫化[文春文庫]/2011年再文庫化[徳間文庫]】