【219】 △ 福永 光司/河合 隼雄 『飲食男女―老荘思想入門』 (2002/07 朝日出版社) ★★★

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うんちくのオンパレード。読み物として楽しく読める「老荘本」だが、入門書としては...。

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河合隼雄2.jpg 福永光司.jpg  河合隼雄氏/福永光司氏     混沌からの出発.jpg
飲食男女―老荘思想入門』 朝日出版社 〔'02年〕  福永光司/五木寛之『混沌からの出発』 中公文庫 〔'99年〕
   
 河合隼雄氏が、中国哲学者で道教思想研究の第一人者・福永光司(1918‐2001)に老荘思想について聞くという形式で、老荘思想のエッセンスや後世の文化、われわれの身近な生活に及ぼした影響などを多岐にわたって紹介した本。
 
 本書にもある通り、老子の宇宙生成論を要約した有名な言葉である、「道は一を生じ、一はニを生じ、二は三を生じ、三は万物を生ず」 とういうのは、実は陰陽の交わりをも表していて、それがタイトルの「男女」につながっています。
 いろいろな漢字の由来や、道教が日本に伝わって天皇家の神道になったという話など、うんちくのオンパレードで、湯川秀樹の量子論は荘子の「場の理論」であるとの指摘なども興味深く読めました。

 ただ、話題が思想・哲学論と文明・文化論の間を行き来するので(それが本書のユニークさでもあるが)、「入門」と言っても体系的理解のためのものではありません。
 活字も大きく読み下し文にはカナがふってあり読みやすいのですが、内容的には前提知識が無いとわかりにくいかもしれない部分が多い本かも知れません。
 
 福永氏には本書のほかに、作家の五木寛之氏に講義する形式での道教入門書『混沌からの出発-道教に学ぶ人間学』('97年/致知出版社、'99年/中公文庫)があり、こちらは宗教としての道教を中心に書かれています(五木氏は当時、仏教の方は詳しいが、道教については初学者だった)。

 本書にある「馬の文化=北回り=騎馬民族=儒教」、「船の文化=南回り=漁労・水田稲作農耕民族=道教」という考え方はそこでも述べられていて、もともと巫術性の強かった道教が、老荘の思想を採り入れ神道的な道教に変容していくその過程で、日本の文化や天皇制、仏教などに与えた影響を、本書同様に身近な例を挙げるなどして解説しています。
 ただし、本書のような対談形式ではなく、五木氏と交互に書き分けていて、五木氏の部分は人生論的エッセイになっていて、全体としては本書以上にモヤッとした感じがしました。

《読書MEMO》
●「取」という字は耳を取るという意味、戦争で負けた兵の耳を削ぐことを指す
●宝(寶)、売(賣)、買、財に含まれる貝の字は中国南部の文化に由来(16p)
●老子の哲学「道は一を生じ、一は二を生じ、二は三を生じ、三は万物を生ず」の三は陰気と陽気と和気、老荘の文化は飲食男女(23-24p)
●山東半島・斉(せい)(3C)の道教が日本に伝わって天皇家の神道に(39p)
●学(學)という字のメ2つはムチで叩くことを意味する(121p)

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