【2644】 ◎ ラッセ・ハルストレム (原作:ピーター・ヘッジス) 「ギルバート・グレイプ」 (93年/米) (1994/08 シネセゾン) ★★★★☆

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ヒューマンドラマ感動作。カマキリの暗喩と"What's Eating Gilbert Grape"というタイトル。

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ギルバート・グレイプ(字幕スーパー版) [VHS]」「ギルバート・グレイプ [DVD]」ジョニー・デップ/レオナルド・ディカプリオ/ジュリエット・ルイス『ギルバート・グレイプ』二見書房

ギルバート・グレイプ  9.jpg アイオワ州の田舎町。24歳のギルバート・グレイプ(ジョニー・デップ)は、大型スーパーの進出ではやらなくなった食料品店に勤め、日々の生活は退屈だが、彼には町を離れられない理由がある。知的障害を持つ弟アーニー(レオナルド・ディカプリオ)は彼が身の回りの世話を焼き、常に監視していないと給水塔に登るなどの大騒ぎを起こす。母親ボニーギルバート・グレイプages.jpg(ダーレーン・ケイツ)は夫が17年前に突然首吊り自殺を遂げて以来、外出もせず一日中食べ続け、鯨のように太っている。ギルバートはそんな彼らの面倒を、姉のエイミー(ローラ・ハリントン)、妹のエレン(メリー・ケイト・シェルバート)と共に見なければなれなかった。彼は店のお客で、2人の子持ちの人妻のベティ(メアリー・スティーンバージェン)と不倫を重ねていたが、彼ギルバート・グレイプges.jpg女の夫(ケヴィン・タイ)が気づいているかどうかは不明。ある日、ギルバートは、旅の途中でトレーラーが故障したため母親と沿道にキャンプを張っている女性ベッキー(ジュリエット・ルイスギルバート・グレイプes.jpg)と知り合い、2人の仲は急速に深まるも、彼は家族を捨てて彼女と町を出ていくことは出来ない。そんな折、ベティの夫が急死し、人妻は町を出る。一方、アーニーの18歳の誕生パーティの前日、ギルバートは弟を風呂へ入れようとして、苛立ちが爆発し暴力を振るってしまう。居たたまれなくなり家を飛び出した彼の足は、自然にベッキーの元へと向かう。その夜、彼は美しい水辺でベッキーに優しく抱きしめられて眠る。翌日、トレーラーの故障が直ったベッキーは出発する―。

What's Eating Gilbert Grape paperback 0.jpgWhat's Eating Gilbert Grape paperback200_.jpg 「マイ・ライフ・アズ・ア・ドッグ」('85年/スウェーデン)のラッセ・ハルストレム監督の1993年公開作。原作は。劇作家ピーター・ヘッジス初の小説『ギルバート・グレイプ』で、脚本も担当しています。ヒューマンドラマとして感動作に仕上がっているのは、原作の良さに拠ギルバート・グレイプs.jpgる部分も大きいかと思いますが、この監督は家族物を撮るのが上手いと思います。加えて、役者たちも好演しており、公開当時はレオナルド・ディカプリオの演技が話題になりましたが(彼はこの演技で19歳にしてアカデミー助演男優賞にノミネートされた)、主人公ギルバート・グレイプ役のジョニー・デップも、彼と不倫する人妻役のメアギルバート・グレイプ  .jpgギルバート・グレイプ ges.jpgリー・スティーンバージェンも、ベッキー役のジュリエット・ルイスも母親役のダーレン・ケイツ(1947-2017)もみんな良く、更には、この映画が映画初出演だったり、それこそワン・アンド・オンリーの出演者もいるようで、それでいて不自然さを感じさせないのは、監督の演出力の賜物かもしれません。

ベティ(メアリー・スティーンバージェン)/ベッキー(ジュリエット・ルイス)

ギルバート・グレイプ kuruma.jpg ネタバレになりますが、母親ボニーはアーニーが再度給水塔に登り警察に身柄を拘束されたのに怒って、家を出てギルバートの運転するクルマで警察へ出向き息子を奪還するも、その太った姿を人々から奇異の目で見られ、再び引き籠り状態となり、アーニーの誕生パーティが終わった後、自ら歩いて階段を登り、2階のベッドで眠るように息を引き取ります。そして、母親の巨体と葬儀のことを思ったギルバートは(クレーンでも使わないと遺体を2階から運び出せない状況だが、そうすれば多くの野次馬が見に来ることが予想される)、母親を「笑い者にはさせない」と決心し、家に火を放ちます。一年後、姉や妹も自分の人生を歩き出していて、ギルバートはアーニーと、町を訪れたベッキーのトレーラーに乗り込み、アーニーが「僕らはどこへ?」と尋ねると、彼は「どこへでも、どこへでも」と答えます。

 ギルバートがそれまで田舎町から出られなかったのは、知的障害を持つ弟ばかりでなく、母親の面倒も見なければならなかったためであり、その意味では、母親の死はギルバートにとって哀しみでしたが、それによって彼は呪縛から解放されたと言えます。さらに、その前に、人妻ベティとの関係もありました。結局、ギルバートは「人のために」生きるのに精一杯で、自分が本当はどうしたいのか考えるところまで行っていなかったという感じでしょうか。

ギルバート・グレイプ 102.jpg 彼に「自分のこと」を考えるように促したのが、母親とトレーラーで旅する生活を送っているベッキーで、彼に何がしたいのか、どういう人になりたいのかを訊き、ギルバートは「いい人に」なりたいと答えますが、これはそれまでのギルバートの犠牲的な生き方を象徴しているとともに、彼が自分というものを見つめ直し、人妻との関係にピリオドを打つ契機にもなったように思います。

ギルバート・グレイプ ages.jpg 一方で、このベッキーという女性は面白くて、自分を訪ねて来たギルバートに、洗濯物なんか干しながらさらっと、「(カマキリが)どう交尾するか知ってる? オスがメスに忍び寄ると、メスはオスの頭を噛みちぎるの。オスの体は交尾を続けるんだけど、交尾が終わるとメスは残りの体も食べちゃうのよ」というようなことを言います。

 この映画の原題は"What's Eating Gilbert Grape"で、この場合の"eat"は「不安や苛立ちを引き起こす」という意味であり。一見すると障害のためトラブルばかり起こすアニーがギルバートを一番苛立たせているように見えますが、ベッキーのカマキリの話をギルバート・グレイプード.jpgギルバートが置かれている状況のメタファーだと解釈すると、"eat"はそのまま「食い尽くす」という意味にもなり、更に、メス=女性とすれば、ギルバートを喰いつす"メスカマキリ"は人妻のベティであると言えます。ベッキーはギルバートが"メスカマキリに喰われるオスカマキリ"のようだと示唆しているわけですが、ベッキーがギルバートから人妻ベティを引き剥すだけのためにこうした暗喩を用いたというのはやや狭い見方のように思われ、ベッキーはギルバートが自分自身の人生を生きるために、自分が置かれている状況を安易に受容したり、あるいは意識的に見ないようにするのではなく、まず危機感を持って自らを見つめ直すよう促したように思います。

ギルバート・グレイプ indou.jpg ただし、この考えで行くと、ギルバートが愛した彼の母親にもメスカマキリの話が当て嵌まるように思われ(自殺した夫は"オスカマキリ"か?)、その辺りがなかなかこの映画の微妙なところです。でも実際、知的障害を持つ弟アーニーは18歳になったからといって何か特別に改善が見られるわけではなく、大人になって今後ますます大変そうな感じがするにも関わらず、人妻が去った代わりにベッキーという恋人が出来、さらにギルバートにとって大きな負担となっていた母親は亡くなったことで、つまり"メス"の呪縛から解放されたことで、ギルバートは自分の人生に対してもアニーに対しても、これまでよりずっと前向きになれたのではないかと思われます(ベッキーはギルバートの母親のことを偉いと思っているが、彼女がギルバートに母親との面会を求めたことは、結果として彼女が母親にある種"最後通牒"を突きつけたのと同じことになったようにも思える)。

 この映画については他にも幾つかのメタフファーが取り沙汰されていて興味深いのですが(例えばアニーがいつも飼っていいる数匹のバッタの意味とか...)、先のベッキーのカマキリの話は一番分かりやすい暗喩ではないかと思います。母親の死についても自殺なのか事故死なのかと人によって見方が分かれ(この映画を観た専門家の話によれば、あの状態でベッドに寝れば気管が脂肪の重みで潰れ、無呼吸症で死に至ってもおかしくないそうだが、それが自分の意思だったかどうかということ)、ベティの夫は妻の不倫を知っていたのか知らなかったのか(その死は心臓発作によるものと思われるが、彼も言わば"オスカマキリ"か?)といった細かいことまで含め、感動した後で同じ映画を観た人と議論もできるという、なかなかスグレモノの映画です。

「ギルバート・グレイプ」●原題:WHAT'S EATING GILBERT GRAPE●制作年:1993年●制作国:アメリカ●監督:ラッセ・ハルストレム●製作:メイア・テペル/バーティル・オールソン/デヴィッド・マタロン●脚本:ピーター・ヘッジス●撮影:スヴェン・ニクヴィスト●音楽:アラン・パーカー/ビギルバート・グレイプ ダーレン・ケイツ.jpgョルン・イスファルト●原作:ピーター・ヘッジス●時間:118分●出演:シネマブルースタジオ ギルバート・グレイプ.jpgジョニー・デップ/レオナルド・ディカプリオ/ジュリエット・ルイス/ダーレン・ケイツ/ローラ・ハリントン/メアリー・ケイト・シェルハート/ジョン・C・ライリー/クリスピン・グローヴァー/メアリー・スティーンバージェン/ケヴィン・タイ/ ペネロープ・ブランニング●日本公開:1994/08●配給:シネセゾン●最初に観た場所:北千住・シネマブルースタジオ(18-07-23)(評価:★★★★☆)
ダーレン・ケイツ(1947-2017)/レオナルド・ディカプリオ

                



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和田泰明

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