【1948】 ○ アガサ・クリスティ (乾 信一郎:訳) 『復讐の女神 (1972/12 ハヤカワ・ミステリ) ★★★☆

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"復讐の女神"としての自負心のもと、積極的に事件に飛び込んで行くミス・マープル。

復讐の女神』 (1972.jpg復讐の女神 クリスティ文庫.jpg 復讐の女神 ハヤカワ文庫.jpg  Nemesis.jpg
『復讐の女神』(ハヤカワ・ミステリ)『復讐の女神 (ハヤカワ文庫―クリスティー文庫)』『復讐の女神 (1980年) (ハヤカワ・ミステリ文庫)』 "Nemesis"(Pocket, 1973/Tom Adams)

 ある日ミス・マープルは新聞の死亡欄で、かつて「カリブ海の秘密」において事件に共に関わった大富豪ラフィールの名を見つける。そして後日、ラフィールの弁護士から遺言状を渡され、そこには犯罪の捜査の依頼が書かれていたが具体的な事件の内容や関係者の名前もなく、解決した暁には二万ポンドの遺産を譲りたいとあるのみ。自分が何をして良いのかわからないマープルの元に観光旅行の招待状が届くが、この旅の中にこそラフィールが解決を希望する謎があると考えた彼女は、何もわからぬまま用意された「庭園めぐり」の旅に出かける。その同じ旅行客の中に富豪の名を知る人物が現れるともに、ラフィールの息子にまつわる過去のある事件が浮かび上がる―。

 1971年に刊行されたアガサ・クリスティのミス・マープルシリーズの長編第11作(原題:Nemesis)で、1964年発表の『カリブ海の秘密』の続編乃至後日談であり、本当は「Woman's Realm」という未完の作品と共に3部作を成す予定だったのが、「Woman's Realm」は発表されないままクリスティが亡くなったため、彼女が書いた最後のマープル物になってしまいした。

 自分から積極的に事件に飛び込んでいくというミス・マープル像は、クリスティの新境地? 『カリブ海の秘密』よりページ数も多く、クリスティ81歳の作品と思うとたいしたものだなあと。

 「庭園めぐり」ツアーの客がス・マープルの外に14名。これ全部容疑者になるのかと思うと、『そして誰もいなくなった』よりスゴイことになるのでは―とも思ったりしましたが、この部分においてはやや見当が外れたかも。

 過去の事件において殺された被害者の少女の顔が潰されていたということで、『書斎の死体』の死体入れ替え、虚偽の遺体確認...といったトリックがそのまま類推適用できてしまうのがプロット的にやや弱いか。

復讐の女神 dvd.jpg復讐の女神 主要登場人物.jpg むしろ、憎しみより愛の方が強い―言い換えれば、憎しみより愛の方が怖い―というテーマ性に重きを置いた作品なのでしょう。

 "復讐の女神"としての自負心のもとに積極的に行動し、最後は自らも命の危険に晒されるというこの作品のミス・マープル像は、シリーズの中でもかなり異色であり、若干の違和感のようなものがありましたが、晩年においても創作意欲が衰えず、意気軒昂だったクリスティ自身がそこに反映されていると見ることもできるのかもしれません。
「ミス・マープル(第8話)/復讐の女神」 (87年/英) ★★★

復讐の女神 dvd.jpg第12話/復讐の女神 00.jpg「アガサ・クリスティー ミス・マープル(第12話)/復讐の女神」 (07年/英) ★★★☆

【1972年新書化[ハヤカワ・ポケットミステリ(乾信一郎:訳)]/1980 年再文庫化[ハヤカワ・ミステリ文庫(乾信一郎:訳)]/2004 年再文庫化[ハヤカワ・クリスティー文庫(乾 信一郎:訳)]】

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