【725】 ◎ 森戸 英幸 『企業年金の法と政策 (2003/03 有斐閣) ★★★★☆

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各種企業年金を法律的な観点から横断的に解説。わかりやすく、しっかりした内容。

企業年金の法と政策.jpg 『企業年金の法と政策』 (2003/03 有斐閣) 森戸 英幸.jpg 森戸 英幸 氏 (上智大学教授)

 2003年に刊行された本書は、適格年金、厚生年金基金、確定給付企業年金、企業型確定拠出年金を中心に、それら企業年金と呼ばれるものを法律的な観点から横断的に解説したもので、中退共、特退共、年金財形、内部留保型退職金(退職一時金)を含め、各制度の仕組みや税制についてわかりやすく解説されているほか、各企業年金の掛金や積立、運用はどうなっているか、加入や受給に関する不利益変更はどのように扱われるかなどが、簡潔かつ丁寧に纏められています。

 例えば、退職事由による給付格差を設けることの可否といったテーマについても、内部留保型、中退共、特退共、適格年金、厚生年金基金、確定給付企業年金、企業型確定拠出年金、年金財形の8種について順番に解説しており、振り返ってみれば、こうした横断的な纏め方をした本はこれまであまりなかったなあ、とその分かりやすい手法に感心させられます。

 著者の狙いもまさにその手法にあるようで、加えて、アメリカ法における401kプランなどの受給権の扱いなどにもよく触れられていて(わが国における新企業年金の制度的未熟さも浮き彫りにしているようにも思えた)、先の退職事由による給付格差の解説でも「バッド・ボーイ条項」といったわかりやすい用語を援用しているのが心憎いです。

 著者は労働法の権威である菅野和夫・東大教授の愛弟子で、本書の中で解説されている企業年金の不利益変更や支払確保の問題は"専門中の専門"ということになるのでしょうが、一方、企業年金の再編や監督・情報開示の問題については、実務的観点から述べられていて、ただし「マニュアル本」を志向するのではなく、専門書と一般書の間に位置する網羅的かつそれなりに突っ込んだ解説書となっています。

 一言で言えば、わかりやすく、しっかりした内容で、法学者が書いたものとしては柔らかいコラム的なページもありますが、それも息抜きにはちょうどいい感じ。
 生保会社で長く年金業務に携わった経験のあるベテランに薦められて読みましたが、さすがプロは、入門書の良し悪しにも目が利くものだと感心。

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