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結局のところ"スローキャリア"というものが何なのかよくわからない。
『スローキャリア』 ('04年/PHP研究所) 『スローキャリア (PHP文庫)』
著者の提唱する"スローキャリア"というのは、"上昇志向でない動機によってドライブされる"キャリアのことを指すらしいのですが、この定義がわかりにくい。
キャリアアップや組織で出世することだけに血道を上げ、本来の自分らしいキャリア形成という目的から逸脱してまでも「勝ち組」となることにこだわる考え方に疑問を投げかけるという姿勢はわからないでもないのですが、著者自身が「上昇志向」「勝ち組」「キャリアアップ」などという言葉を使うことで、そうした価値基準の中にどっぷり浸っているようにもとれます。
これは、この本が「THE21」という"キャリアアップ"特集とかをよく組んでいる雑誌に連載したものを単行本化したものであることとも符合します。
基本的には、著者が今まで説いてきた「キャリア自律」、クランボルツの「計画的偶発性理論」などがベースとなっていて、キャリア計画より普段の仕事への取り組み姿勢が大切だという落とし処だと思いますが、"スローキャリア"とは逆の"ファストキャリア"的発想に近いのではないかと思われる記述も多い一方で、"スローキャリア"を"スローフード""スローライフ"になぞらえる記述もあり(少なくとも"スローフード"の"スロー"と"スローキャリア"の"スロー"は別物または異質のものではないだろうか)、読む側としては混乱します。
平易な文体で書かれていてさらっと読めるものの、流行語としては流行らせようしたのではないでしょうが、"スローキャリア"がまずありきで論を進めていてる感じがしました。
「はっきりいおう、スローキャリアをめざす人は、お金という唯一のものさしでその人の価値を決めることができるという、ある種アメリカ的な考え方を否定すべきだ」
―と言われても、結局のところ"スローキャリア"というものが何なのかよくわらないので、結果的には通俗的な人生論にしか聞こえてこないという面がありました。
【2006年文庫化〔PHP文庫〕】