【2763】 ◎ ベン・ホロウィッツ (滑川海彦/高橋信夫:訳) 『HARD THINGS―答えがない難問と困難にきみはどう立ち向かうか』 (2015/04 日経BP社) ★★★★☆

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CEO向けだが、管理職・リーダー、人事パーソンにとっても啓発される箇所の多い本。

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HARD THINGS』(2015/04 日経BP社) べン・ホロウィッツ

 本書は、起業家、CEOを経て、シリコンバレーの最強ベンチャーキャピタルリストとして知られるようになった著者が、これまで自らが直面した困難(HARD THINGS)を語るとともに、それらを切り抜けてきた経験から得られた教訓をまとめた本です。イントロダクションで著者は、経営の自己啓発書は対処法を教えるところに問題があるとし、「ハード・シングス」に決まった対処法はないが、共通したパターンはあるとしています。

 第1章から第3章までは、著者が、起業したIT企業を成長させ、ピンチを切り抜けて会社を売却するまでの経験が述べられています。具体的には、世界初のウェブブラウザ「モザイク」を開発したマーク・アンドリーセンと共に1999年にラウドクラウド社を設立し、世界初のクラウド・コンピューティングのサービス企業として急成長を遂げますが、2000年にITバブルが破裂し、資金調達が困難になった絶望的な状況に陥り、クラウドサービス事業を売却、データセンターの管理ソフトを提供する新会社オプスウェア社として生まれ変わらせ、最終的には16億ドル超(1700億円超)で売却することに成功するまでの間、社員のレイオフや事業の売却など、幾度となく苦渋の決断を迫られてきた経緯が書かれています。そして、以下、第4章から第8章で、ラウドクラウドからオプスウェアまでの8年の道のりで得られたCEOとしての教訓を語っています。
 
 第4章では、物事がうまくいかなくなるときどうするかについて、「ひとりで背負い込んではいけない」など、つらいときに役に立つかもしれない知識を披歴しています。また、CEOは、会社の問題をありのまま伝えることが重要であるとし、隠さない方が良い理由を挙げています。更には、人を正しく解雇(レイオフ)する方法を6つステップで示し(この中では、最後の、逃げ隠れせず「みんなの前にいる」というのが印象的だった)、また、幹部を解雇する際に踏むべき4つのステップを示しています。

 第5章では、人、製品、利益の順番で大事にすることを説いています。人を大切にするのは「自分の会社を働きやすい場所にする」ためであり、そうできなければ「製品」と「利益」は意味を持たないとしています。また、会社は全員が同じ考えを持ち、全員が常に改善していればうまく回っていくとして、そのためには教育プログラムの実施が重要となるとしています。更には、大企業の幹部が小さな会社で活躍できない理由を指摘し、無残な失敗を防ぐにはどうすればよいかを説いています。

 第6章では、会社が成長し人が増えると正しい方針も変化するため、事業を継続するには、社内政治を最小限に抑え、採用や昇進に常に注意を払うべきであるとしています。また、優秀なはずの人材が最悪の社員になるのはどのような場合か、個人面談で役に立つ質問とはどのようなものかなどを例示し、自分自身の企業文化を構築するにはどうすればよいか、会社を急速に拡大させるにはどうすればよいかを説き、一方で、成長への過剰な期待の誤りも説いています。

 第7章では、CEOとして最も困難なスキルは、自分の心理をコントロールすることであるとしています。また、CEOに必要とされる唯一の資質はリーダーシップであり、「ビジョンをいきいきと描写できる能力」「正しい野心」「ビジョンを現実化する能力」の3つの資質が重要であるとしています。更に、自身をCEOとして鍛えるうえで、社員にフィードバックを与えることの重要性を説いています。

 第8章では、困難な問題を解決する法則はないことを改めて強調しながらも、だだし、CEOが困難な決断をしなければならない時に備えて、倫理面、感情面も含めどのような準備をしておくことが役に立つかを説いています。

 最後の第9章では、「苦闘を愛せ」「自分の独特の性格を愛せ。生い立ちを愛せ。直感を愛せ。成功の鍵はそこにしかない」とし、困難に立ち向かう人々に「幸多かれ、夢の実現あれ」という言葉を贈って本書を締め括っています。

 内容的には起業家やCEO向けに書かれた問題解決法が主であり、スタイル的にもCEO向けに書かれていますが、マネジメントに悩む人に共通するテーマも多く扱われていて、経験に基づいた説得力のあるアドバイスの数々は、一般の管理職やリーダーにとって参考になる部分も多いように思います(実際、ベンチャー経営者向けの本と思われているフシもある一方で、「ビジネス書大賞2016」と「ベスト経営書1位」の2冠を達成しているということは、広く読まれたということでもあるだろう)。取り上げられている諸問題の中には人事マネジメントに関するテーマも少なからずあり、と言うより半分以上は人事関係なので、人事パーソンにとっても啓発される箇所の多い本、大いに示唆に富む本ということになるかと思います。

【2794】 ○ 日本経済新聞社 (編) 『プロがすすめるベストセラー経営書』 (2018/06 日経文庫)

《読書MEMO》
●目次
第1章 妻のフェリシア、パートナーのマーク・アンドリーセンと出会う
第2章 生き残ってやる
第3章 直感を信じる
第4章 物事がうまくいかなくなるとき
第5章 人、製品、利益を大切にする―この順番で
第6章 事業継続に必須な要素
第7章 やるべきことに全力で集中する
第8章 起業家のための第一法則
第9章 わが人生の始まりの終わり
●つらいときに役に立つかもしれない知識(98p)
・ひとりで背負い込んではいけない。
・単純なゲームではない。(苦闘は戦略が必要なチェスだ。)
・長く戦っていれば、運をつかめるかもしれない。
・被害者意識を持つな。
・良い手がないときに最善の手を打つ。
●人を正しく解雇する方法(106p)
・ステップ1 自分の頭をしっかりさせる
・ステップ2 実行を先送りしない
・ステップ3 レイオフの理由を自分の中で明確にしておく
・ステップ4 管理職を訓練する
・ステップ5 全員に説明する
・ステップ6 みんなの前にいる
●幹部を解雇する準備(112p)
・ステップ1 根本原因分析
・ステップ2 取締役会に報告する
・ステップ3 解雇通告の準備
・ステップ4 社内コミュニケーションの準備
●なぜ部下を教育するのか(154p)
1.生産性
2.業績管理
3.製品品質
4.社員をつなぎとめる
●「もっとも頭のいい人間が最悪の社員になる」3つの例(232p)
例1.異端者(1 無力感。2 性格が本質的に反乱者。3 未成熟で衝動的。
例2.信頼性のなさ
例3.根性曲がり

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