【3338】 ○ 野口 和裕 『病まない組織のつくり方―他人事を自分事に変えるための処方箋』 (2019/11 技術評論社) ★★★★

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組織の三つの質(関係・思考・行動)を高め、結果の質を向上させる方法を指南。

病まない組織のつくり方.jpg病まない組織のつくり方 ――他人事を自分事に変えるための処方箋』['19年]

 本書では、MIT教授ダニエル・キムの「組織の成功循環モデル」を引いて、病んでいる組織というのは、「結果の質」→「関係の質」→「思考の質」→「行動の質」という4つの質においてバッド・サイクルに陥っているとし、組織の「関係の質」「思考の質」「行動の質」の向上が「結果の質」を向上させるとして、三つの質(関係・思考・行動)について、それぞれを高めるための方法を述べています。

 第1部「関係の質」では、チーム内の風通しを良くする方法を説いています。ここでは、社会心理学者ジャック・ギブ論を引いて、チームの成長の懸念には、①受容の懸念(受容懸念)、②コミュニケーンの懸念(データの流動的表出懸念)、③目標の懸念(目標形成懸念)、④リーダーシップの懸念(社会的統制懸念)の4種類があり、「関係の質」を高めるとは、この四つの懸念を解消させていくことであるとしています。

 第1章「受容-組織を健やかにする方法」では、コミュニケーションで相手に発信していることには、(コミュニケーションについて)①知覚、②感情、③思考、(目に留まる動作・行動について)④態度、⑤行動、(最終的な結果について)⑥結果の六つがあり、相手を受容するには、まず自分を受容する必要があるとし、特に自分の感情に気づいてそれを受け入れることが重要であるとしています。

 第2章「コミュニケーション―誤解なく意思疎通ができる方法」では、伝えたいことが相手に伝わるまでには、①記号化、②送信、③受信、④解読の四つのプロセスがあり、相手にミスなく伝える基本的な方法は、確認しながら聴くことであるとして、その方法を指南しています。

 第3章「ファシリテーション―思ったことを言い合えて関係も悪くならない法」では、会議で大切なのは参加者の納得感であるとし、コンセンサスによる意思決定の方法を解説しています

 第2部「思考の質」では、チームの真の課題を発見する方法を説いています。賢明な思考の前提として全体像が見えていることを挙げ、現実の世界をなるべく正確に見るには、自らの解釈のベースとなっている「メンタルモデル」を検証しなければならないとしています。

 第4章「メンタルモデル―行動を決定づけている固定観念に気づく方法」では、メンタルモデルに気づく方法として、ピーター・センゲが提唱した「推論のはしご」という、自分自身の解釈を、①どこを見て(自分の見た事実)、②どう意味づけし(その事実をどんな言葉にしたか)、③どう解釈したか(その言葉を私はく解釈した)という三つの視点で掘り下げていく手法や、ロバート・キーガンらが提唱した「免疫マップ」という、その目標を阻害する行動をとっている裏の目標(メンタルモデル)に気づく方法を紹介しています。

 第5章「ダイヤログ―物事の本質をみつける」では、対話(ダイアログ)を一般に広めたデヴィッド・ボームの『ダイヤログ』を引いて、本書では、対話とは「お互いの思考プロセスを開示して、新しい見方を創造する行為」と定義し、対話の必要性を説くとともに、対話の方法として、①一人称で語り、②前提を疑い、③判断を留保することを挙げ、また、対話を活用するケースとして、①対話をすることを目的として実施する場合と、②普段の会議の中で実施する場合があるが、①の場合は「問い」が、②の場合は「観察」が大切であるとしています。

 第6章「システム思考―個別最適から全体最適へと意識が変わる方法」では、問題を含む状況の全体像を"見える化"し、全体を見据えて根本的な原因を探る「システム思考」という考え方を紹介し、従来の分析思考とシステム思考の違いを解説するとともに、全全体像を表現するとして「因果ループ図」というものを紹介しています。

 第3部「行動の質」では、チームに自発的な行動を促すにはどうすればよいかを説き、その鍵となるものとして、「モチベーション」「フロー理論」「習慣化」の三つを挙げています。

 第7章「モチベーション―創造的な仕事のモチベーションを高める方法」では、ダニエル・ピンクの『モチベーション3.0』などを引きながら、内発的動機づけをベースとするモチベーション3.0の要素は、自律性、マスタリー、目的の三つに整理され、自律性には、課題、時間、手法、チームという四つの側面があり、マスタリーとは、何か価値のあることを上達させたいという欲求であり、目的とは使命のことであって、ミッションステートメントを書くことで使命はみつけやすくなるとしています。

 第8章「フロー―仕事に集中し、どんなことからも成長していける方法」では、集中しているときの状態を指す、心理学者ミハイ・チクセントミハイの「フロー(最適体験)」という概念を紹介し、仕事をフローになりやすいようにするには何が重要かを解説、内発的な動機に導かれてフロー状態に入ることで、人が本来持っている能力が最大限に活かされる行動が生まれるとしています。

 第9章「目標設定―行動に直結し達成感が得られる目標をつくる方法」では、意識的に行動するとき、どのように行動するかを意思決定することを「セルフコントロール」と呼び、セルフコントロールを使いすぎると心身を消耗させ、集中力や問題解決力を低下させるので、セルフコントロールを消耗させないためには、目標をあらかじめ行動レベルで設定しておくのがよいとしています。また、行動を習慣化するには、小さな成功体験を積み重ねることが自信につながり、体験学習とは、行動の後に振り返り(「体験」の後に「指摘」→「分析」→「仮説を立てる」)を行い、そうした循環を繰り返すとしています。

 第4部「実践のために」では、好循環を作り出す方法を"おさらい"的に説いています。第10章「結果につなげるための実践方法」として、「関係の質」を高めるために、受容懸念やコミュニケーション懸念をどうやって下げるか、「思考の質」を高めるために、気づきの好循環をどう作り出すか、「行動の質」を高めるために、行動に集中する環境をどう整えるか、これまで述べてきたことを再整理しながら解説しています。

 さまざまなマネジメント理論、モチベーション理論が独自に統合・再整理されていますが(それは18ページの「本書全体のレベルマトリックス」に集約されている)、理論を理論で終わらせず、実際に役立つ「方法」として読者がノウハウを得られるよう丁寧に説明しようとしているのが良いと思います(全体としてまだまだ概念的ではあるが)。もっとも影響を受けているのは、ピーター・センゲの「学習する組織」という考え方でしょうか。その中でも「システム思考」というのは理解が難しい概念ですが、本書の中ではわかりやすく説明されていたように思います。関心を持たれた読者は、各章で引用元となっている経営書にあたってみるのもいいかと思います。

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