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本人責任論ではなく人事マネジメントの問題として取り上げていることには共感するが...。
『ニート世代の人事マネジメント』 (2006/01 中央経済社) 寺崎 文勝 氏 (略歴下記)
本書では、職場の若手社員の中にいる "隠れニート"の問題を取り上げていて、著者によれば、職場の"隠れニート"には、何かのきっかけで働く意欲を失ってしまうリスクのある「ニート予備軍」と、働く意欲や目的を失ったまま働き続ける「仮面ニート」がいるとのことですが、どうして職場の若手社員がこうした擬似ニート化するのかを分析し、ニート化を防ぐ人事マネジメントの在り方をソフト面、制度面から提案しています。
"ニート"という、定義が不明確なまま乱用されている"はやり言葉"(と個人的は感じている)に、タイトル面では便乗している感もありますが、本人責任論ではなく主に人事マネジメントの問題としてこれを取り上げていることに共感しました(社内"ニート"を本人の責に帰してばかりいては、問題は解決しませんから)。
ただし、職場での躓きや自己効力感の喪失が"ニート"化の要因になり、人間関係の悪化から働く意欲を失いメンタルヘルス問題にまで至るという分析は、特に"ニート"という言葉を使わなくても説明できる一般論のレベルではないかと。
課題の解決策として挙げられているものも、インターンシップやトータル・リワードなど既に巷間で言われていたり、また一部企業で採り入れられ始めているものが多く、正攻法と言えば正攻法ですが、あまり目新しさは感じませんでした。
主に心理学の見地からモチベーションの問題を分析し、欲求五段階説や動機付け理論、さらにキャリア理論から心理テストまで絡めて広く取り上げていますが、総花的な解説に終わっていて、1つ1つの突っ込みはやや浅い気がしました。
人材定着というテーマに関するコンサルティングファームの提案メニューを読んでいるような感じもしましたが(著者はトーマツコンサルティングの"気鋭コンサルタント")、肯定的に捉えれば、これからの人材獲得難の時代を迎えるにあたり、現況を"おさらい"し、そうした動機付け理論やキャリア理論をなぞり、具体的な施策に落とし込むにはどうしたらよいかを俯瞰的かつ前向きに考えるうえでは、ヒントにはなる本だと思います。
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寺崎 文勝 (日本総合研究所主席研究員)
早稲田大学第一文学部心理学科卒。事業会社の人事部門、金融系シンクタンク等を経て、2000年にトーマツコンサルティングに入社。幅広い業種において、組織人事戦略および役員報酬コンサルティングを手がける。08年2月より日本総合研究所主席研究員。セミナー講師としても活躍。
著書に『勝てる会社の人材戦略』(総合法令出版)、『人事マネジャーの仕事』(日本能率協会マネジメントセンター)、『役員報酬マネジメント』『ニート世代の人事マネジメント』(以上、中央経済社)がある。その他、共著・人事専門誌等への寄稿多数。