【3048】 ○ ロベール・ブレッソン (原作:ジョルジュ・ベルナノス) 「田舎司祭の日記」 (50年/仏) (2021/06 コピアポア・フィルム) ★★★★

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主人公を苛めまくるブレッソン監督。リアルな映像が観る側の心を突き刺さる。

「田舎司祭の日記」 (50年/仏).jpg田舎司祭の日記2.jpg 田舎司祭の日記3.jpg 田舎司祭の日記4.jpg
田舎司祭の日記 [DVD]

20080116230325.jpg フランスの北端アンブリコート(パ・ド・カレー)に赴任した若い司祭(クロード・レデュ)は、胃の不調を感じながらも、初田舎司祭の日記 2.pngめての司祭としての仕事に純粋な覇気を奮起させ、日記を綴り始める。頑迷で不信心な村民の言動に戸惑いながら、領主である伯爵(ジャン・リヴェール)の協力を取り付け、トルシーの先輩司祭(アンドレ・ギベール)の助言を受けながら奮闘する若い司祭は、次第に村に蔓延している"神の存在への疑問"に対峙することになる。エネルギッシュだが世俗の不道徳に塗れた伯爵、現実の興味に比べて神など遠い存在の利発な若い娘セラシャンタル.pngフィタ(マルティーヌ・ルメール)、父親と家庭教師の女性ルイーズ(ニコル・モーリー)の不倫を知って悪意に心を占められている伯爵令嬢シャンタル(ニコール・ラドミラル)、夫の不倫と愛息の死によって神を呪うようになった伯爵夫人(マリ=モニーク・アルケル)。真摯に神を信仰する司祭をからかうことで不遇な日々の鬱憤晴らしをする村人たち。そうした村人たちとの会話や葛藤においても揺らぎない神への信仰を堅持する司祭だったが、真面目過ぎる信仰活動が村人から疎まれ、彼の健康も悪化の一途を辿っていく―。

 ロベール・ブレッソン監督の1950年の作品で、フランス映画批評家協会賞などを受賞。新宿のシネマカリテで観ましたが、製作から70年を経ての公開だそうです。ただ、本邦でも'06年にDVDが発売されていたりして(レンタルショップに置かれていた)、それ以前にも自主上映で上映されたことがあったのではないかという気がします。と言うことで、付加価値をつけるためか、いきなり4Kデジタル・リマスター版(笑)です。

バルタザールどこへ行く 1966.jpgMouchette(1967).jpg 原作はのちに「少女ムシェット」('67年)でも取り上げるカトリック作家ジョルジュ・ベルナノスによる同名小説。主人公である孤独な司祭役に抜擢されたクロード・レデュは、監督が起用したいわゆる素人俳優であり、以後、「バルタザールどこへ行く」('66年)にしても「少女ムシェット」にしても「白夜」('71年)にしてもそうですが、ブレッソン監督は素人を主役に据え続けるわけです。その奔りとなるのがこの作品であり、スタイリッシュな映像、音楽やカメラの動きなども含めた"演出"を削ぎ落としていく、監督自身が呼ぶところの〝シネマトグラフ〟の手法を確立した作品であると言われています。

タクシードライバー パンフレット.jpg沈黙 遠藤周作 新潮文庫.jpg アンドレイ・タルコフスキー監督は自身が選ぶベスト映画10の第1位にこの作品を挙げており、マーティン・スコセッシ監督の「タクシードライバー」('76年/米)やポール・シュレイダーの「魂のゆくえ」('17年/米)、コーエン兄弟やダルデンヌ兄弟の作品群などに影響与えたとされ、さらには、遠藤周作の『沈黙』にも影響を与えたそうです(テーマ的に重なるかも)。そう言えば、「タクシードライバー」の脚本はポール・シュレイダーでしたが、そのストーリーは、アラバマ州知事ジョージ・ウォレスの暗殺を図ったアーサーブレマーという男が書いた日記を出版した「暗殺者の日記」がヒントになったそうです。遠藤周作の『沈黙』も、物語の前半は、ポルトガル司祭ロドリゴが本国に宛てた書簡形式であり、こちらも純粋な主観で描かれていました(さらに、この『沈黙』をマーティン・スコセッシ監督が映画化している(「沈黙 -サイレンス-」('16年/米)))。

冬の光 dvd9.jpg 「田舎司祭の日記」という映画そのものは、「ひたすら淡々と穏やかに進行し、辛いことの連続で、そのまま寂しく終わる」映画だと誰かが言ってましたが、まさにその通りです(多くの映画監督に支持されるというのは、映画監督という仕事はそうした状況に直面しやすく、司祭の気持ちが分かるということか)。"神を信じたいのだけれど、不条理で過酷な現実を見ると、存在を疑わざるを得ない"―という―現代のキリスト教徒が抱えている側面も体現していて、その辺りはアンドレイ・タルコフスキー監督が自身が選ぶベスト映画10の第2位に挙げている、イングマール・ベルイマン監督の「冬の光」('63年/スウェーデン)を想起させられますが、「冬の光」の牧師がすっかり神への信仰を失ってしまっていたのに対し、この作品の素人俳優クロード・レデュが演じる若い司祭は、揺らぎながらも信仰は失っておらず、むしろ、彼の苦行と犠牲の人生そのものが、キリストの生涯のメタファーに見えなくもないです。

伯爵夫人(マリ=モニーク・アルケル)
伯爵夫人.png しかしながら、キリストではなく一青年にすぎないこの若い司祭の苦悩と苦闘には一体どういう意味があったのか、本当に無意味だったのか、後に何か残ったのか、考えずにはおれない作品でした。ただ一つの救いは、夫の不倫と息子の死によって神を呪うようになった伯爵夫人(夫人役はサラ・ベルナールの愛弟子であった名女優マリ=モニーク・アルケル。因みにこの伯爵夫人や先輩司祭は本物の俳優が演じている)の告解を聴き、その魂を解き放ったかに見えたこととでしたが、その夫人も自殺してしまって無に帰し、それどころか、夫人が亡くなったのは司祭のせいであるというふうに村人からは見られてしまうという、しかも、自分が胃癌に冒されていることが発覚するし、この監督、「バルタザールどこへ行く」や「少女ムシェット」もそうでしたが、主人公をどこまで苛めれば気が済むのかと思ってしまいます。でも、この徹底ぶりがブレッソン監督であり、「聖」と「俗」のせめぎ合いともいえる重いテーマですが、それを"淡々と穏やか"に描いているところがスゴイと言えばスゴイと思います。

 こうしたリアルな映像こそが観る側の心に突き刺さるのだろうなあ。その意味では経年劣化しない普遍性を有している映画と言えます(この司祭、宗教色を除けば、学級崩壊したクラスの担任になってしまった新任教師のようにも見える)。けっして面白い映画だと言って他人に薦められる作品ではないけれど、観ると、観て良かった、避けては通れない作品だったということになる人も多いのではないでしょうか。

シネマカリテ 2021年6月29日
シネマカリテ(「田舎司祭の日記」).jpg

田舎司祭の日記1.jpg「田舎司祭の日記」●原題:JOURNAL D'UN CURÉ DE CAMPAGNE●制作年:1951年●制作国:フランス●監督・脚本:ロベール・ブレッソン●撮影:オンス=アンリ・ビュレル●原作:ジョルジュ・ベルナノス●時間:115分●出演:クロード・レデュ/アンドレ・ギベール/ジャン・リヴィエール/マリ=モニーク・アルケル/ニコール・ラドミラル/ニコール・モーリー/アントワーヌ・バルペトレ/マルティーヌ・ルメール●日本公開:2021/06●配給:コピアポア・フィルム●最初に観た場所:新宿・シネマカリテ(21-06-29)(評価:★★★★)

 
《読書MEMO》
スアンドレイ・タルコフスキーが選ぶベスト映画10(from 10 Great Filmmakers' Top 10 Favorite Movies)
『田舎司祭の日記』"Diary of a Country Priest"(1950/仏)監督:ロベール・ブレッソン
②『冬の光』"Winter Light"(1962/瑞)監督:イングマール・ベルイマン
③『ナサリン』"Nazarin"(1958/墨)監督:ルイス・ブニュエル
『少女ムシェット』"Mouchette"(1967/仏)監督:ロベール・ブレッソン
⑤『砂の女』"Woman in the Dunes"(1964/米)監督:勅使河原宏
⑥『ペルソナ』"Persona"(1966/瑞)監督:イングマール・ベルイマン
⑦『七人の侍』"Seven Samurai"(1954/日)監督:黒澤明
⑧『雨月物語』"Ugetsu monogatari"(1953/日)監督:溝口健二
⑨『街の灯』"City Lights"(1931/米)監督:チャーリー・チャップリン
⑩『野いちご』"Smultronstället"(1957/瑞)監督:イングマール・ベルイマン

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