【2686】 ◎ 大内 伸哉 『雇用社会の25の疑問 [第3版]―労働法再入門』 (2017/11 弘文堂) ★★★★★

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労働法上の重要論点の問題意識を鮮明にして読者に投げかけ、議論を喚起している良書。

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雇用社会の25の疑問 労働法再入門(第3版)』['17年]

 本書は、2007年に初版、2010年に第2版が刊行されており、7年ぶりの改訂新版になります。労働法上の重要論点を取り上げ、著者なりの問題意識を鮮明にして読者に投げかけ、議論を喚起するというスタイルの本です。人事の仕事に携わっている人にとっても理解が曖昧になりがちな労働法の様々な疑問点について、基本理論や判例などについて明快な文体で懇切丁寧に解説しています。専門テキストレベルの突っ込んだ内容でありながら、全体を"学者言葉"で埋めつくすようなことは控えており、深い内容ながら読みやすいものとなっています。

 提示されている25(話)の疑問には労働法学者としての鋭い視点が窺え、それはまた、読む側に新たな気づきや問題意識を与えてくれるものとなっています。例えば、一般に労働者によかれとしてなされている法改正が、果たして労働者のためになるものなのだろうかという見方を示したり、リーディングケースとされている判例にも、今の社会に置き換えた場合どうかといった疑念を挟んだりするなど、常に、社会のあり方、変化を見据えつつ、原点に立ち返って考える姿勢が見られます。

 また、"法律"の視点だけでなく"人事"の視点も入れて様々な考察を行っているのも本書の特徴です。各話の末尾には、冒頭の「疑問」に対する著者なりの「結論」が付されています。「疑問」に対してすっきりした解答を出し切れていないものもありますが、むしろ、そうした様々な要素が複雑に絡み合っているのが、「雇用社会」の実際なのだと改めて感じさせられます。法律は世の中の変化と相互に影響し合っており、世の中の変化に目をやることなく、また、法律の真意を探ることなく、金科玉条のごとく盲信、盲従することの危うさを示唆しているようにも思えました。

 初版、第2版では、第1部が「日頃の疑問を解消しよう」(労働者側、会社側の両側からのそれぞれの疑問を扱っている)、第2部が「基本的なことについて深く考えてみよう」、第3部が「働くことについて真剣に考えてみよう」となっていたのが、今回は第2部の見出しが「政策について考えてみよう」に改まっています。著者によれば、これは、労働法をめぐる議論が、法解釈から立法政策へと重点が移行しつつある状況に対応したものであるとのことです。

 例えば、その第2部では、第12話「ジョブ型社会が到来したら、雇用システムはどうなるか」、第13話「労働法は、なぜ個人自営業者に適用されないのか」、第14話「正社員と非正社員との賃金格差は、あってはならないものか」、第15話「女性活躍の推進は、本当に法律でやるべきことなのだろうか」といった今日的テーマが連なり、さらには、障害者の雇用促進や外国人労働者問題を新たに取り上げています。

 第3部では、第24話「第4次産業革命後の労働法はどうなるのか」で最新のテーマを扱い、第25話「私たちにとって、働くとはどういうことなのか」も、機械が労働を担い「働きたくても働けない」AI時代を想定したうえでの働く意味の問いかけとなっています。

 全体として、第2版と比べても3分の1程度が新規テーマであり、従来とテーマが同じ章でも、法改正への対応はもとより、内容がより昨今の実情に沿った方向に書き改められている箇所もあり、初版、第2版の既読者であっても、読む価値はあるように思いました。お薦めです。

 判例解説は巻末に「判例等索引」があり、ネットでの検索に必要な事件番号が付されているほか、同著者の『最新重要判例200 労働法 第4版』('16年/弘文堂)で取り上げているものは、同書内での番号も付されているので、本書と併せて参考にするとよいかと思います。

《読書MEMO》
●目次
第1部 日頃の疑問を解消しよう
第1章 労働者の疑問
 第1話 労働条件の決定おける「合意原則」とはどのようなものか
 第2話 社員は、会社の転勤命令に、どこまで従わなくてはならないのか
 第3話 社員の副業は、どこまで制限されるのか
 第4話 会社が違法な取引に手を染めていることを知ったとき、社員はどうすべきか
 第5話 労働者には、どうしてストライキ権があるのか
 第6話 公務員は、どこまで特別な労働者なのか
第2章 会社の疑問
 第7話 会社は、美人だけを採用してはダメなのであろうか―採用の自由は、どこまであるか
 第8話 会社は、どのようにすれば社員を解雇することができるか
 第9話 会社は、社外の労働組合とどこまで交渉しなければならないのか
 第10話 会社は、社員のSNSにどこまで規制をかけてよいのか
 第11話 会社は、なぜ社員のメンタルヘルスに配慮しなければならないのか
第2部 政策について考えてみよう
 第12話 ジョブ型社会が到来したら、雇用システムはどうなるか
 第13話 労働法は、なぜ個人自営業者に適用されないのか
 第14話 正社員と非正社員との賃金格差は、あってはならないものか
 第15話 女性活躍の推進は、本当に法律でやるべきことなのだろうか
 第16話 障害者の雇用促進は、どのようにすれば実現できるか
 第17話 高年齢者への雇用政策はどうあるべきか
 第18話 少子化は雇用政策によって対処することができるか
 第19話 日本は外国人労働者にどのように立ち向かうべきか
 第20話 ホワイトカラー・エグゼンプションの導入は、なぜ難しいのか
第3部 働くことについて真剣に考えてみよう
 第21話 キャリア権とはいかなる権利か
 第22話 私たちは、どうして長時間労働で苦しんでいるのか
 第23話 労働者派遣は、なぜたたかれるのか
 第24話 第4次産業革命後の労働法はどうなるのか
 第25話 私たちにとって、働くとはどういうことなのか



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和田泰明ブログ

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This page contains a single entry by wada published on 2018年10月 6日 23:36.

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