【2672】 ○ 福田 稔 『目標未達でも給料が上がる人 (2015/03 角川新書) ★★★☆

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"目から鱗"とまではいかないが、目標管理や人事考課について振り返ってみるにはいいかも。

目標未達でも給料が上がる人.jpg目標未達でも給料が上がる人 (角川新書)』['15年]

 人事教育コンサルタントによる本書は、第1章で、目標管理や成果主義の問題点を指摘し、目標管理がノルマ管理になってしまっている例も往々にしてあるとしています。逆に目標管理をしなくとも伸びている会社もあることの例を示しながらも、働く側からすれば目標管理の撤廃を訴えるのは現実的ではなく、この制度を利用してサラリーマン生活を生き抜く知恵を絞れとしています。その上で、第2章では、目標とはそもそも何かということを改めて考察しています。

 第3章では、それでは人事部は、社員のどのような面を見てそれを評価や処遇に反映させているのか、人事部がいちばん恐れていることや気にしていることは何なのかといたことを説いています。第4章では、目標管理においては目標"達成"よりも目標"設定"の方が大切であり、「目標管理の評価は"設定"で9割決まる」としています。

 第5章では、目標が未達でも評価される人が実践している上司との面談での交渉術が紹介されており、第6章では、目標未達でも評価を良くするための上司との付き合い方について戦術面から紹介されています。第7章では、周囲の人たちとの良好な関係と自分ブランドの構築術について述べ、最終章では、本当に厳しい状況に置かれた際のサバイバル術を説いています。

 前半部分は、目標管理について逆説的に分析することで、その運用の実態や課題を浮き彫りにしていて、興味深く読めました。何年も連続して100%達成などというのはレアケースであり、ほとんどのサラリーマンにとって未達が普通なのであるというのは確かにそうかも。更には、公平な目標設定などはあり得ず、上司によって評価が違ってくるなどといったことはごく当たり前に起きると―。こうなるとやや悲観論めいて見えますが、では評価される側はどうすればよいかを、モチベーション理論や「SMARTの法則」を逆手にとってユーモラスに解説しています。自分が納得できない目標を押しつけられないようにするにはどうすればよいかといったことは、まさに"サバイバル術"と言えるかも。

 やや気になったのは、著者の中で「目標管理=人事考課」という公式が前提としてあり、そうした状況下でプロセス成果や取り組み姿勢などをどうアピールするかといった論調になっているように感じられたことで、実際には目標管理を入れている企業のうちのかなりは、人事考課においては、目標管理に呼応する業績・成果の評価とは別に、行動プロセス評価や情意評価のようなものを評価要素としてオフィシャルに織り込んでいて、両方を総合的に勘案したものが人事考課結果になっていたりするのではないかという気がしたことです。

 従って、本書で言う「人事部はココを見ている」(第3章)の部分は、目標管理の対象外かもしれませんが、人事考課の考課要素にはオフィシャルに含まれいたりするのではないでしょうか(その後に出てくる「部下を評価するときに上司が使う、もうひとつのモノサシ」(132p)となるとやや恣意的になり、これは「部下が上司を教育する」ことで解決するしかないのかもしれないが)。

 自分の業績や成果を評価者である上司にどうアピールするか、また、そのために普段から上司とどのような付き合い方をしていればよいか、といったことが指南されていますが、そこまで言うならば、会社側の選択肢として、特定の人のアピールに左右されないために、逆に全員にアピールの機会を与える―具体的には、期首において設定した目標と期末での評価のリンクを緩やかなものとし、期末には期首目標に一応は準拠しつつも、改めて期間中にどういった課題に対してどのような成果を出したかをアピールしてもらう「成果申告型」の目標管理もあっていいのではないかと思いました。

 基本的には一般のビジネスパーソンに向けて書かれた本であることもあり、後半にいくにつれて"社内処世術"的な記述が多くなるものの、人事パーソンが読んでも思い当るフシがあるか思われ、特段目新しいことが書かれているわけではないですが("目から鱗"というほどではないが)、目標管理や人事考課についてちょっと振り返ってみるにはいいかもしれません。

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