【1212】 ○ 日本経団連事務局 『Q&A 改正労基法早わかり (2009/07 日本経団連出版) ★★★★

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まさに「早わかり」。直近通達(基発第0529001号)を反映。本の出来より、改正法そのものに疑問を感じる。

Q&A 改正労基法早わかり88.JPGQ&A 改正労基法早わかり.jpgQ&A改正労基法早わかり』(2009/07 日本経団連出版)

残業60時間超.jpg 日本経団連は日経連の時代から労基法に大きな改正があるごとに、「改正労基法早わかり」というのを刊行していて、前回の'03年の時の主な改正内容は、「有期労働契約の上限見直し」、「解雇法制」、「裁量労働制の見直し」などでしたが(所謂「平成15年改正」)、今回の平成21年4月施行の改正法の核は、「時間外労働が60時間を超えた場合の割増賃金を50%にすること」(併せて、代替休暇制度の創設」、「時間限度を超えた時間外労働の割増賃金率に関する努力義務」)と、「時間単位の年次有給休暇の創設」です。

 本書はQ&A方式になっていて全30問、解り易くコンパクトに纏まっていて、まさに「早わかり」と言え、それなり解説も突っ込んで書かれている上に、後半は資料編になっていて、関連する施行規則や指針などが掲載されており、最後に平成21年5月29日付の厚労省通達(基発第0529001号)が掲載されていて、Q&Aの内容もそれに沿ったものになっているため、21年7月刊行というのはタイムリーと言えばタイムリー、1000円という価格も手頃(難点を言えば、解説図とそれに付された文字がちょっと小さくて見づらいことか)。

 本の出来よりも改正法そのものに対して思うのですが、本書でもQ&A30問のうち後半の約半分が「時間単位の年次有給休暇の創設」についてのものとなっていて、ホントにこんな面倒なことを労使協定結んでわざわざやるのかなあという感じも(小数点単位で繰越し休暇を管理するなんて)。

 もっと言えば、60時間超の時間外労働について割増賃金を50%にすることの代わりとなる「代替休暇制度」で、当初は労使協定で多くの企業がこちらを選ぶのではないかと思いましたが、21年5月29日通達にあるように、労使協定を結んでも本人に代替休暇を取るか取らないかを確認し、2ヵ月後までに実際に取得したかどうかを確認して、取得出来ていなければ翌月の賃金に反映させなければならないという(この2ヵ月間が「全額払いの原則」の適用除外になるというのも解せないが)その管理の面倒くささ(労務コスト)。
 時間単位の年休はシステムの問題で解決される部分も多いかと思われますが、こちらは個々人の意思確認ですから、ヒューマンアクセスが頻繁に求められることになります(中小企業で、担当が1人で総務・経理・人事やっているような会社はどうするのだろうか)。

 中小企業は適用が一定期間猶予されているとしても、その間、大企業に勤める労働者と中小企業に勤める労働者の割増賃金率が異なるのはおかしいし、そもそも、賃金を払えば長時間残業させてもいいというやり方が、本当に労働者(特にホワイトカラー)の生産性向上やワーク・ライフ・バランスに寄与するのでしょうか。

 アメリカでは既に週40時間以上の労働について5割以上の割増賃金を課していますが、その代わり、ホワイトカラー・エグゼンプション等でこの割増賃金の対象外となる労働者が40%もいるのに対し、日本はホワイトカラー・エグゼンプションはやらないで5割増しだけ導入ということで、果たしてどちらが労働者のためになるのか簡単には言い切れないものの、個人的には疑問の多い法改正だと思われます。

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This page contains a single entry by wada published on 2009年8月 8日 23:48.

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