【749】 ◎ 三枝 匡 『Ⅴ字回復の経営―2年で会社を変えられますか』 (2001/09 日本経済新聞社) ★★★★☆

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ドラマ仕立てで読みやすく、経営改革の抵抗勢力に対する対応などが重点的に描かれている。

V字回復の経営.gifV字回復の経営』 (2001/09 日本経済新聞社) V字回復の経営2.jpg 日経ビジネス人文庫 〔'06年〕

三枝 匡.jpg 経営コンサル出身で㈱ミスミ代表取締役CEOの三枝匡氏による、実際に行われた組織変革を題材にしたビジネス小説風の話で、『戦略プロフェッショナル』('91年)、『経営パワーの危機』('94年)に続く"企業変革ドラマ3部作"の最終作ですが、この本が出た翌年にミスミの社長になったのだなあと、改めてその華々しさに感じ入ってしまいました。

 ストーリーは、業績不振の事業(BU=ビジネスユニット)をいかに turnaround させる(蘇らせる)かというもので、改革のリーダーとして、スポンサー役の香川社長、力のリーダー黒岩、智のリーダー五十嵐、動のリーダー川端の4人が登場しますが、この中で、関係会社の社長という傍流的立場から、今回の経営改革の社内リーダーに抜擢された黒岩莞太の果たす役割が非常に大きい。

 彼は言わば"熱い"リーダーですが、彼とタッグを組むのが、コンサルタントの五十嵐直記で、こちらは"冷静な"企画立案者。この2人が香川社長の支援を受けながら、BUの業績改善のためのTF(タスクフォース)を立ち上げ、TFのメンバーを上手に巻き込みながら、BU改革のドラフトを作っていく―。

 TFメンバーはそれなりに意識の高い人間が選ばれていて、本書の中でも著者の「経営ノート」としていくつかの経営理論がビジネス・テキスト風に紹介されていますが、むしろ大変なのは、それを実行に移す場面においてであり、同じく「経営ノート」として、改革の〈推進者〉と〈抵抗者〉のパターンが詳細に示されています。

 ドラフトの中身がいくら素晴らしくても、抵抗勢力に潰されてしまったのでは改革は成らず、そうしたことへの対応策が、かなりのウェイトをもってリアルに描かれていて(そうした局面ではヒューマンスキルが求められ、黒岩・五十嵐といったリーダーが30,40代ではなく50歳代前半であることと符号する)、組織内改革やコンサルティングを行う人には大変参考になる(身に滲みる?)本だと思います。

 こんなに上手くいくはずがないという見方もあるかもしれませんが、折々で「失敗に至る状況」が潜在的に示されていて、特に、改革実施当初はその効果がすぐには現れず、業績の落ち込みが続いて、改革派が危機に立たされるところは、実際にありそうな話です。

 本書の経営改革の部分で核となっているコンセプトの1つに"選択と集中"があるかと思いますが、これはミスミの創業社長の田口弘氏がやってきたことに重なるように思われ、田口氏が後継社長として三枝氏を招聘したわけで、何かピッタリという感じ。

 また、分社化も実施されていますが、本書は'01年に出版された本でありながら、リストラも管理職の降職を除いては行っておらず、その後の世の傾向としては、現場主義改革を捨てて、一気にリストラや営業譲渡(M&A)に行ってしまうというケースが多いことを思うと、今一度、組織や業務の見直しを考えてみるうえでも、参考になる本だと思います。

 【2006年文庫化[日経ビジネス人文庫】
 
《読書MEMO》
●黒岩莞太の言葉(178p)
「1、2年で変わることのできない組織は、5年たっても、10年たっても変わりっこないんです。組織のカルチャーを変えるには、ダラダラやってもダメなんです...一気呵成のエネルギーを投入しなければだめなんです」
●改革8つのステップ(294p)
1.成り行きのシナリオを描く。
2.切迫感を抱く。
3.原因を分析する。
4.改革のシナリオを作る。
5.戦略の意思決定する。
6.現場へ落とし込む。
7.改革を実行する。
8.成果を認知する
○ジョン・P・コッターの「成果に導く組織変革の8段階」とやや似ている?
第1段階 危機意識を高める。
第2段階 変に革推進チームを作る。 
第3段階 適切なビジョンを作る。
第4段階 変革のビジョンを周知徹底させる。
第5段階 従業員の自発的な行動を促す。
第6段階 短期的な成果を生む。
第7段階 さらに変革を進める。
第8段階 変革を根付かせる。
●成功の要因とステップ(365p)
1.改革コンセプトへのこだわり
2.存在価値のない事業を捨てる覚悟
3.戦略的手法と経営手法への創意工夫(事業の絞りと集中)
4.実行者による計画作り
5.実行フォローへの緻密な落とし込み
6.経営トップの後押し
7.時間軸の明示(2年間の期間限定)
8.オープンで分かりやすい説明
9.気骨の人事
10.しっかり叱る
11.ハンズオンによる実行(トップ経営陣が現場に目を配る)

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