【134】 ○ 沼上 幹 『組織戦略の考え方―企業経営の健全性のために』 (2003/03 ちくま新書) ★★★★

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目新しさは少ないが、組織腐敗のメカニズムを旨く解き明かしている。

組織戦略の考え方.jpg 『組織戦略の考え方―企業経営の健全性のために』 ちくま新書 〔'03年〕 沼上 幹 (ぬまがみ つよし).jpg 沼上 幹 (ぬまがみ つよし)氏 (一橋大教授)

 硬そうなタイトルですが、ビジネス誌「プレジデント」に連載したエッセイがベースになっていて、文章が平易でスラスラ読めます。
 冒頭で「組織設計の基本は官僚制である」と言っているのが、組織はフラットな方がいいという昨今の通説に対峙して一見ユニークですが、読めばある意味至極当然のことに気づきます。
 組織論の入門書としてよく紹介される本で、体系的に整理されているわけではありませんが、書かれていること1つ1つの内容はオーソドックスです(目新しさは少ないとも言えるかも)。
 マズローの欲求階層説について、自己実現欲求もさることながら、承認・尊厳欲求の充足が大切だということなども、かなり以前から一般に指摘されていることです。

image2.jpg むしろ、組織にいる人に働く組織心理の傾向の分析や説明には、誰もが思い当たるものが多くあるのではないかと思われます(まるで企業小説のように書かれていて、しかも現実味がある!)。
 
 組織腐敗のメカニズムをうまく解き明かし、一応はその診断と処方も提示しているので、自分が関わっている組織の問題に引きつけて読むことができれば、問題解決の方向性やヒントが見えてくるかもしれず、それだけ本書を読む価値は出てくるかと思います。

《読書MEMO》
●組織構造自体は何も解決しない(62p)ムチャクチャな組織に問題があるとしても、組織変革すれば全面的に問題が解決するわけではない(62p)
●(マズローの欲求段階説について)自己実現欲求の追求という方向が美しく、安上がりであるゆえに、多くの人がそこに目を奪われ、所属・愛情欲求や承認・尊厳欲求などを忘れてしまう(87p)
●エリートとノン・エリートの間に、当たり前のことを当たり前に黙々と処理してくれる信頼できる中間層がいないとエリート・システムもうまく機能しない(120p)
●全方位全面戦争型の戦略計画などは、何も考えていない、何も決めていない明確な徴候(132p)
●「厄介者の権力」...育ちの良い優等生の「大人」たちが組織内で多数になると、厄介者の言うことがかなり理不尽であっても、組織として通してしまう場合が出てくる(144p)
●「バランス感覚のある宦官」...(スキャンダルで)密告者が権力を握るのではない。根性のない優等生たちが恐怖にとらわれ、その恐怖心を気持ちよく解消する「美しい言い訳」を創り上げる宦官が権力を握る(171p)
●「キツネの権力」...公組織と業者という二つの世界をつなぐ唯一の橋であることを権力基盤とした、トラの威を借る「キツネの権力」が生み出される。天下った人が二つの組織の間をいろいろかき回す。(201p)

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