【3356】 ○ 尾林 誉史/木下 翔太郎/堤多 可弘 『企業はメンタルヘルスとどう向き合うか―経営戦略としての産業医』 (2020/06 祥伝社新書) ★★★★

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メンタルヘル問題対応を、経営戦略としての健康投資という観点から解説。

企業はメンタルヘルスとどう向き合うか.jpg 『企業はメンタルヘルスとどう向き合うか 経営戦略としての産業医 (祥伝社新書) 』['20年]

 企業におけるメンタルヘルスの問題は深刻化・多様化しており、この問題の放置による被害は、生産性の低下、離職がもたらす風評被害、市場の失望による株価の低下...etc.拡大の一途をたどっていると言われています。本書では、従業員のメンタルヘルスの維持・増進は、今や企業経営の最重要テーマであるとし、専門の産業医の立場から、企業のあるべき姿について、具体例を挙げてアドバイスしています。

 第1章では、メンタルヘルス問題の歴史と変遷をたどるともに、最近の動向として、働き方の変化や世の中の変化がメンタルヘルに与えている影響を紹介しています。この中では、ある企業で「残業時間を半減させたら全員の所定労働時間を8時間から7時間に減らす」という取組を社長が発表したら、見事に残業時間が半減したという例なども紹介されており、また、ITを活用して負荷の少ない働き方を実現する際のコツなども解説されています。

 第2章では、うつ病、パニック障害、ADHDなど症例別に6つのケースを取り上げ、それぞれについて、どんな病気で、症例としてはどのようなもので、産業医がどのような思考で問題にアプローチするのかや、上司や同僚が現場でできるサポートなど、メンタルヘルス問題と向き合う際に参考になる事柄を解説しています。ここでは、かつては自閉症やアスペルガー症候群と呼ばれたASD(自閉スペクトラム症)や、最近現場で注目されているPMDD(月経前不快気分障害)についても取り上げています。

 第3章では、経営戦略の中にメンタルヘルス予防を取り入れ、「健康経営」を実践していくことのメリットを解説しています。「健康経営」とは、経済産業省HPによれば、「従業員の健康獲得・増進の取組が、将来的に収益性等を高めるための投資であるとの考えの下、健康管理を経営的視点から考え、戦略的に実践すること」であると。本書では、健康経営のメリットを、➀健康経営を生産性の向上、②従業員の活力向上、③企業の業績・外部評価の向上、④産業保健の促進、⑤疾病予防と健康寿命の延長、⑥新産業の創出、⑦医療費の抑制、などの側面から解説しています。

 第4章では、メンタルヘルス問題の予防と対応のためのエッセンスを紹介しています。ここでは、産業保健体制をどのように整備するか、さらに、衛生委員会をどう活用すべきかを解説し、例として、メンタル不調者が出た時の対応と、休業開始時・休業中のケア、職場復帰の判断から復帰プランの作成、復帰の決定までの流れを解説しています。

 第5章では、経営戦略としての健康投資について解説しています。健康投資とは、「健康管理に基づいた具体的な取組」(経済産業省HP)を指し、これを進めるメリットとして、外部からの評価の向上に直結し、外部からの投資を引き出せることを挙げています。ここでは、「健康投資管理会計」という考え方や、経産省のヘルスケア産業課が公表している「企業の『健康経営』ガイドブック」などを紹介するとともに、どのような健康投資が有効かということについて、福利厚生を例に解説しています。また、健康投資はやり方次第では投資額以上の即時的なリターンをもたらすという意味で、もっと注目されるべきだとしています。

 メンタルヘル問題対応を、経営戦略としての健康投資という観点から解説した良書だと思います。コンパクトにまとまっていて、各章末にコラムがあり、例えば「レジリエンス」について、メンタルの観点とキャリアの観点から解説されていたりもします。人事パーソンにとって、メンタルヘルス問題に関する〈知識〉をリニューアルし、〈意識〉をブラッシュアップする上で手頃な本であると思います。あとには、どれだけ実践に結びつけるか、経営陣の意識改革はどうするか、といった課題はまだ残るかと思いますが、まずは自身の意識改革から始めるべきかもしれません。

《読書MEMO》
●目次
第1章 メンタルヘルス問題の動向(メンタル疾患は増えているのか/企業におけるメンタルヘルスへの関心の高まり ほか)
第2章 具体的な事例と対応策(うつ病/パニック障害 ほか)
第3章 健康経営の重要性(健康経営とは/健康経営の歴史 ほか)
第4章 メンタルヘルス問題の予防と対応のためのエッセンス(産業保健体制の整備を/コンプライアンス遵守を超えた体制の戦略的整備とは? ほか)
第5章 経営戦略としての健康投資(健康投資とは/内部への健康投資で、外部からの投資を引き出す ほか)
●著者情報
・尾林誉史(オバヤシタカフミ)
1975年、東京都生まれ。東京大学理学部卒業後、(株)リクルート入社。弘前大学医学部学士編入、東京都立松沢病院を経て、東京大学医学部附属病院精神神経科に所属。VISION PARTNERメンタルクリニック四谷院長
・木下翔太郎(キノシタショウタロウ)
1989年、神奈川県生まれ。千葉大学医学部卒業後、内閣府に入府し大臣官房人事課などで勤務。現在、慶應義塾大学医学部助教(精神・神経科学教室)。労働衛生コンサルタント
・堤多可弘(ツツミタカヒロ)
1986年、東京都生まれ。弘前大学医学部卒業後、東京女子医科大学神経精神科で助教、非常勤講師を歴任。現在は複数企業の産業医と臨床業務を兼務。労働衛生コンサルタント。医学博士

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