【3330】 ◎ ロバート・I・サットン (矢口 誠:訳) 『あなたの職場のイヤな奴 (2008/04 講談社) ★★★★☆

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「クソッタレ撲滅ルール」によって「鑑定書つきのクソッタレ」を追い出そう!

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あなたの職場のイヤな奴』['08年] 『スタンフォードの教授が教える 職場のアホと戦わない技術』['18年]『チーム内の低劣人間をデリートせよ ----クソ野郎撲滅法 (フェニックスシリーズ No. 77)』['18年]

あなたの職場のイヤな奴1.jpg イジメ上司、卑劣な同僚、ムカつく部下...これらをどうするか? 人の神経を逆なでする、いるだけでまわりにダメージを与える、自分より弱い相手をいじめる、ときには取引先にも被害をおよぼす―そんなイヤな奴=クソッタレはあらゆる職場にいて、それは、成果主義・実力主義のアメリカでも同じであるようです。

 本書の原題は「職場のクソッタレは絶対いやだよね!」(No Asshole Rule)という意味で、人間関係術&組織論として反響を呼んだベスト&ロングセラーです。著者はスタンフォード大の人気教授で専門は組織行動論。ビジネス経済誌「ハーバード・ビジネス・レビュー」で「私のイヤな奴実体験」について書いたエッセイに、アメリカ国内外から共感&体験談メールが殺到し、それをきっかけに書かれたのが本書です。

 第1章「どんなやつをクソッタレと呼ぶか?」では、本書の主題であるイヤな奴とは「鑑定書付きのクソッタレ」のことであるとして、クソッタレを、「基準1/その人物がつねに他人を貶め、やる気を喪失させる人間かどうか?」、「基準2/その人物がつねに自分よりも力の弱い(もしくは社会的地位の低い)相手を標的にしているかどうか?」の2つの基準で定義しています。

 第1章「どんなやつをクソッタレと呼ぶか?」では、本書の主題であるイヤな奴とは「鑑定書付きのクソッタレ」のことであるとして、クソッタレを、
 基準1/クソッタレと目されている人物と会話をかわしたあとで、"標的"となった人物が憂鬱になったり、屈辱を感じたり、やる気を失ったりするか? とくに重要なのは、標的となった人物が卑屈な気分になるかどうかである。
 基準2/クソッタレと目されている人物が悪意を向ける対象が、自分より力の弱い者であるか?
の2つの基準で定義しています。

 第2章「被害に苦しむ人々」では、クソッタレがいることで、いじめの標的となった人物や周囲の人間が受ける被害、本人が受ける被害、管理職が受ける被害や、法務部や人事部にかかる経費、クソッタレがはびこった場合の職場の弊害を洗い出しています。

 第3章「クソッタレ撲滅ルールを導入するには」では、グーグルの「クソッタレ撲滅ルール」など紹介しています。グーグルは「悪しきことはするな」というモットーのもと、クソッタレは出世できない環境を整備しているとのことです(そう言えば昨年['18年]末に「グーグルはこの2年間にわたり、セクハラ行為をめぐって社員48人を解雇したが、その中には上級管理職13人が含まれる」というニュースがあった)。その上で、クソッタレ撲滅ルールを実施するための10のステップとして、①クソッタレ撲滅ルールをきちんと文章に書きだし、それを実践すること、②社内のクソッタレを人事採用業務にタッチさせてはならない、③クソッタレはできるかぎり早急に会社から追い出すべきである、④鑑定書つきのクソッタレは"無能な社員"とみなすこと、などを挙げています。

 第4章「あなたのなかにもクソッタレはいる」では、自分自身がクソッタレにならないようにするには、自分自身の内にあるクソッタレを認めることが第一歩であるとし、その上で、①自分の内なるクソッタレを外に出さない、②クソッタレ病をうつされそうな場所や人間に気をつける、③人生を"勝ったやつがみなもらう"式の競争とみなさない、④他人の目に映った自分自身の姿をしっかり把握する、という、クソッタレになることを避けるための4つのポイントを示しています。

 第5章「イヤな奴だらけの職場をサバイバルするには」では、職場がイヤな奴だらけだったとしても会社はなかなか辞められないものであり、そうした場合、イヤな奴だらけの職場をサバイバルするにはどうすればよいか、その方法として、①急流下り戦略(流れに逆らわないことで体力の消耗を避ける)、②リフレーミング(ものの見方を変えてみることで楽天主義に転化する)、③クソッタレが変わるなどと期待しない、④「なにも期待しない」、⑤無関心を心掛け、感情を遮断してみる、⑤距離を置いた関心、⑥"小さな勝利"を積み重ねよう、⑦顔を合わす時間をできるだけ減らそう、⑧安らぎを得られる場所を見つけよう、などいった対応やマインドセットを指南・紹介しています。

 第6章「クソッタレ成功者たちの教訓」では、クソッタレの中にも成功者はいて(その筆頭例としてスティーブ・ジョブズが挙げられている)、ではなぜ彼らはクソッタレでありながら成功するのかを分析、そこには、①攻撃やいじめを戦略的に使う、②威嚇も時には効果的、③恐怖を鞭に、飴も使う、④やる気のない人を動かす、などの成功の理由があるとしています。ただし、著者自身は、「卑劣なクソッタレを職場からシャットアウトすることがたとえ組織の業績アップにつながらなくとも、クソッタレ撲滅ルールはやはり実践すべきだ」との考えを示しています。

 第7章「生きかたとしてのクソッタレ撲滅ルール」では、クソッタレ撲滅ルールのエッセンスとして、以下の7つの教訓を示しています。
 1.良識のある人たちによって生み出された温かい感情の和も、たったひと握りのクソッタレのせいでブチ壊されてしまう。
 2.クソッタレ撲滅ルールの大切さを人に説くのもいいだろう。しかし、ほんとうに重要なのは、それを実行することである。
 3.ルールを生かすも殺すも、当人の意志次第である。
 4.クソッタレが役に立つこともある。
 5.クソッタレ撲滅ルールの実施は、管理職だけの仕事ではない。
 6.クソッタレに恥をかかせろ。
 7.クソッタレとは、わたしたち自身のことである。.

 クソッタレの傾向と対策が軽快かつ真摯に語られていて、例えば,ネガティブな出来事はポジティブな出来事に比べて5倍も影響力があり、良いことが5回あったとしてもたった1回クソッタレを相手にするだけでチャラになってしまうというのは、(打たれ弱い自分としてしては)よく分かる気がしました。

 一時的なクソッタレと「鑑定書つきのクソッタレ」とを区別しているのも本書の特徴で、誰もがクソッタレになる可能性を秘めているのだから、一時的にクソッタレになってしまった人を、何か嫌なことがあったのだろうと気遣いしてやることが必要だが、よく見守った末、たえず嫌なことをする「鑑定書つきのクソッタレ」であることが分かったならば、その時は皆で結託して追い出そうというスタンスのようです。

 池上彰氏が帯の推薦文で「書名に惑わされてはいけない。これはすぐれた経営組織論だ」と言っているように、個人としてだけでなく、組織としてクソッタレにどう対応するかが書かれていて、「パワハラ」「イジメ」を新しい視点から経営組織論として理解できる本。人事パーソンにとっても読んで得るところが少なからずある本ではないかと思います。

《読書MEMO》
●社員を採用する立場の管理職のなかにクソッタレがいると、社内にクソッタレがどんどん増殖していってしまう。(102p)
●リーダーにとって大切なのは、自分と周囲の人間との権力格差を小さくしていく努力をつづけていくことだ。(116p)
●たとえそれが向こうの誤解であろうとも、他人の目にうつった自分の姿をしっかりと把握しろ。(179p)
●目標を小さくすることの長所は、はっきりと目に見える成果を上げられる可能性が高い点にある。(中略)自分がなにかをコントロールしているという感覚は、絶望感や無力感を軽くする効果を持っているのである。(210p)

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