【3317】 ○ 北野 唯我 (編) 『トップ企業の人材育成力―ヒトは「育てる」のか「育つ」のか』 (2019/04 さくら舎) ★★★★

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「一歩先の未来の人事」だが、やがて多くの企業が直面することになるであろうテーマでもある。

トップ企業の人材育成力.jpg 『トップ企業の人材育成力 ―ヒトは「育てる」のか「育つ」のか』['19年]

 「どうすれば優秀な人材を獲得できるか」「どうすれば一流の人材に育てられるか」「どうすれば強い会社組織を開発・構築できるか」「どうすれば人事は経営からの問いに答えられるか」―本書は、人事の総論から始まり、人材育成、採用、組織開発、HRテクノロジー、HRツール・ベンダー・コミュニティの活用までのHR戦略について、それぞれのビジネスシーンで実践しているスペシャリスト8名が、最前線の状況および将来の展望を述べたものです。6名による6章の人材論に2名のコラムを加えた形になっていますが、編者自身「どこから読んでもいい」としている通り、各章とも独立性の高い内容となっています。

 第1章では編者による「総論」として、経営と人事はベストパートナーでなければならないとしています。そして、人事施策を本当に実現させるためには「社内広報(信頼)」の視点が必要不可欠であるとし、エンゲージメントを左右するものは何か、経営レベルに必要な人事の「企画力」とは何かを解説、さらに、経営の右腕となるCHRO(最高人事責任者)の必要性を説くとともに、「HRテクノロジー」の将来を予測しています。

 第2章では実務家による育成論として、人材育成の「暗黙知」を「形式知」に変えるアプローチについて解説しています。本書サブタイトルにもある、ヒトは「育てる」のか「育つ」のかという問いはよく発せられますが、ここでは、ヒトは「育てる」ことで「育つ」という立場に立ち、「HRテクノロジー」を活用することで「育てる」と「育つ」のそれぞれを紐解くとともに、「ヒト×AI」により、人材育成の未来はどうなるかを考察しています。

 第3章では人事担当者がトップ企業の「採用」について述べていて、採用の成功とは「事業の成功」と「従業員の自己実現」を両立させる状態をさすとしています。また、一流の採用担当者が持っている要素とは何かを解説するとともに、人事は、採用したいターゲットのCX(Candidate Experience=「候補者体験」)が良いものとなるよう設計する、プロデューサーであるべきだとしています。

 第4章では「組織開発」の専門家が、組織開発とは何かを解説しています。また、「組織開発は、何からすればいいのか?」と悩む読者に対して、3Pと呼ばれるフレームを使うことを推奨しており、3Pマネジメントとは、Profession(職務)、Performance(評価)、Philosophy(理念)の3つを設計・運用することであるとしています。また、人事部門の再編成も必要であり、ファンクション型(採用チーム、育成チーム、評価チームなどに分かれた機能別組織)から脱し、一気通貫型(戦略人事)を経て、バックキャスト型(あるべき姿からの逆算)への機能変質していくべきであるとしています。

 第5章では「HRテクノロジー」の専門家が、HRテクノロジーを適切に使いこなすための、COBIT(Control Objectives for Ìnformation and Related Technology)というITガバナンスの成熟度を5段階のモデルで測るフレームワークを紹介しています。ここでは、実際にHRテクノロジーを導入した事例で、COBITの成熟度モデルがどのように変化したかを見ています。

 第6章では、ITテクノロジーによる就活支援を行っている会社のPR担当者が、HRツール、ベンダー、コミュニティの今後を展墓しています。ここでは、ツール、ベンダー、勉強会など、何から始めていいのか分からない人事担当者や、人事向けコミュニティを始めることを検討している会社向けの助言もなされています。

 読んでみて、いずれも、「一つ先の未来の人事」について書かれているとの印象を受ける一方で、やがて、多くの企業が直面することになるであろうテーマを扱っているようにも思いました。また、非常にコンセプチュアルな内容である一方で、明日から意識して行動に起こせるような示唆もあったように思います。

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