【004】 △ 森永 卓郎 『リストラと能力主義 (2000/02 講談社現代新書) ★★★

「●人事マネジメント全般」の インデックッスへ Prev|NEXT ⇒ 【005】 清家 篤 『定年破壊
「●リストラクチャリング」の インデックッスへ 「●講談社現代新書」の インデックッスへ

「成果主義」の問題点分析は先駆的だったが、提案面では弱かった。

リストラと能力主義%20旧.jpgリストラと能力主義 旧.jpgリストラと能力主義.jpg  森永 卓郎.jpg 森永 卓郎 氏(略歴下記)
リストラと能力主義』 講談社現代新書〔'00年〕

Japanese businessmen.jpg 本書で言う「能力主義」とは、本文中にもある通り「成果主義」のことを指しています。どうしてこういうタイトルにしたかと言うと、出版当時においては「成果主義」という言葉がまだ"市民権"を得ていないという著者の判断だったそうです。

 確かに、経済学者の熊沢誠氏が本書の3年前に書いた『能力主義と企業社会』('97年/岩波新書)などを見ても、「成果主義」という言葉は使われておらず、「能力主義」を、潜在能力を重視する"狭義の能力主義"と、業績に基づく"実力主義的な能力主義"に概念区分して用いていますので、その3年後というのは、まだ「成果主義」という言葉の意味がどういったものを指すのか、一般的概念が不統一だったのかも知れません。

 それでもタイトルにやや納得のいかないものも感じますが、内容的には、人件費削減が目的化する日本型リストラの問題点や、成果主義にまつわる評価や人事部の中央集権的なあり方の問題、目標管理制度の陥りやすい欠点などを早くに指摘したと言えるもので、著者の慧眼はさすがだと思います。

 銀行系シンクタンクの研究員でありながら、親会社の銀行が融資先企業にリストラせよと煽っている時期に、リストラ批判(日本型リストラへの批判)をやってのけているという姿勢もいいし(それも銀行のイメージ戦略の1つかも知れませんが)、成果主義には「自由と自己責任」に基づく人事制度が必要という著者の主張は、すんなり納得できるものです。理念としては...。

年収300万円時代を生き抜く経済学.jpg しかし、本書の中にある、企業に向けた著者の「ワークシェアリング」や「定年制度」に対する提案は、具体面ではさほど実現されていません。ワークシェアリングは同一労働・同一賃金の法規制があるオランダだから出来たと言えますが、日本ではそのままの導入は難しいし、中高年齢層の勤務日を段階的に減らす「まだら定年制」も、発想としては面白いし、今後はどうなるか分かりませんが、今のところ導入企業は無いようです。

  一方、サラリーマンに説く自立・自営の道や副業のススメは、今や著者の十八番となり、年収300万円で生き抜けと言っている...。「空論家」と言われないように頑張ってほしいとは思っていたのですが...。
_________________________________________________
森永 卓郎
1957年生まれ。東京大学経済学部卒業。日本専売公社、日本経済研究センター、経済企画庁総合計画局等を経て、91年から(株)三和総合研究所(現:三菱UFJリサーチ&コンサルティング)にて主席研究員、 現在は客員研究員。獨協大学教授。専門分野はマクロ経済学、計量経済学、労働経済、教育計画。ミニカー他、様々なコレクターとしても有名。

主著:『萌え経済学』(講談社 2005年)、『森永卓郎式ニュースの読み方』(日本証券新聞社 2005年)、『「所得半減」経済学』(徳間書店 2004年)、『「家計破綻」に負けない経済学』(講談社現代新書 2004年)、『辞めるな!キケン!!』(扶桑社 2004年)、 『ミニカーから全てを学んだ-人生から世界経済まで』(枻出版 2004年)、『二極化時代の新サラリーマン幸福術ー年収1億円でも不幸な人生、年収300万円でも楽しい人生』(経済界 2003年)、『続 年収300万円時代を生き抜く経済学 実践編!』(光文社 2003年)、『年収300万円時代を生き抜く経済学』(光文社 2003年)、『日本経済最悪の選択-誰が日本をこんなにだめにしているのか』(実業之日本社 2002年)、『シンプル人生の経済設計』(中公新書 2002年)、『デフレとお金と経済の話』(実業之日本社 2001年)、『日銀不況』(東洋経済 2001年)、『リストラと能力主義』(講談社現代新書 2000年)、『バブルとデフレ』(講談社現代新書 1998年)、『〈非婚〉のすすめ』(講談社現代新書 1997年)

About this Entry

This page contains a single entry by wada published on 2006年8月11日 04:51.

【003】 ○ 牧野 昇/武藤 泰明 『新・雇用革命―人材流動化時代の新しい労働形態とプロ人材の条件』 (1999/11 経済界) ★★★☆ was the previous entry in this blog.

【005】 △ 清家 篤 『定年破壊』 (2000/09 講談社) ★★☆ is the next entry in this blog.

Find recent content on the main index or look in the archives to find all content.

Categories

Pages

Powered by Movable Type 6.1.1