【005】 △ 清家 篤 『定年破壊』 (2000/09 講談社) ★★☆

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論旨に目的と手段の逆転が見られる。学者が描くユートピア的な発想という印象を受けた。

定年破壊.jpg 『定年破壊』 〔'00年〕  清家篤 (慶応大学教授).gif 清家 篤 氏 (略歴下記)

定年退職.jpg 著者は「生涯現役社会」の提唱者であり、本書でも定年制の非合理性とそれを廃止することのメリットを説いています。では定年制がなぜあるかというと、年功賃金での長期の収支勘定合わせのためにあり、また企業に雇用調整の自由度が少ないのもその理由であると。

  だから、こうした制度を変えて賃金をフラットにし、自らの選択による能力開発を可能にし、1社が雇用保障するのではなく労働市場を通じた雇用保障体制を築き、労働市場そのものを活性化すれば定年制は廃止でき、そのことがプロフェッショナルとしての職業人生を送ったり、早く引退することを選択したりして個人の手に人生設計を取り戻すことにつながると―。

 部分的には鋭い指摘もあると思いました。 しかし確かに著者の言うように、定年制には非合理的な面もあるだろうけれど、同じく著者の言うように、定年制を無くすためにはしなければならないことも随分あるわけです。
 
 定年制を無くすために賃金制度を見直すというのは、現実に即して考えると目的と手段が逆転しているともとれるし、定年を廃止した場合にどうなるか、ということについての考察があまりに楽天的で、学者が描くユートピアのような印象を受けました。

 玄田有史氏も『仕事のなかの曖昧な不安』('01年/中央公論新社)の中で「定年破壊」に批判的でしたが、問題は「それがすでに会社に雇われている人々の雇用機会を確保することにはなっても、新しく採用されようとする人から就業機会を奪うこと」にあると言っています。 企業の人を雇用する力が弱くなっている状況においては、そうしたことも考慮しなければならないでしょう。
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清家 篤
慶應義塾大学商学部教授。博士(商学)。専攻は労働経済学。1978 年、慶應義塾大学経済学部卒業後、同大学大学院商学研究科博士課程修了、同大学商学部助教授を経て、1992 年より現職。
この間、カリフォルニア大学客員研究員、日本労働研究機構特別研究員、経済企画庁経済研究所客員主任研究官等を歴任。
社会保障審議会委員(厚生労働省)、労働政策審議会委員(厚生労働省)、国民生活審議会委員(内閣府)、高齢社会対策の総合的な推進のための政策研究会座長(内閣府)、東京地方労働審議会会長(厚生労働省東京労働局)、日本銀行金融研究所顧問(日本銀行)などを兼務。
近著に『生涯現役社会の条件』中公新書(1998 年)、『人事と組織の経済学』(共訳)日本経済新聞社(1998 年)、『労働経済』東洋経済新報社(2002年)、『勝者の代償』(訳)東洋経済新報社(2002 年)、『生涯現役社会をめざして』日本放送出版協会(2003 年)、『高齢者就業の経済学』(共著)日本経済新聞社(2004年)などがある。

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This page contains a single entry by wada published on 2006年8月11日 05:40.

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【006】 ○ 田中 滋/浅川 港 『まず、日本的人事を変えよ!―「競争」と「評価」が活力を生む』 (2001/06 ダイヤモンド社) ★★★☆ is the next entry in this blog.

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