【2799】 ○ 松山 一紀 『次世代型組織へのフォロワーシップ論―リーダーシップ主義からの脱却』 (2018/09 ミネルヴァ書房) ★★★★

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「日本型フォロワーシップ」の類型を提唱。「日本型」研究の嚆矢となるか。

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次世代型組織へのフォロワーシップ論:リーダーシップ主義からの脱却

 本書は、戦略的人的資源管理論や組織行動論を専門とする著者が、リーダーと比べてこれまでネガティブなレッテルが貼られ続けてきたフォロワーというものに着眼しています。フォロワーが自律的貢献の主体者となり得ることを明らかにし、フォロワーおよびフォロワーシップの概念を改めて定義するとともに、日本的なフォロワーシップとはどのようなものかを探求しています。

 全7章の構成で、第1章では、人事労務管理の歴史を振り返り、今日、日本をはじめとする先進国では、フォロワーたる労働者の地位が向上してきているとしています。一方で、組織においてリーダーは疲弊し、リーダーを目指す若手も減少してきているため、リーダー偏重の組織運営は限界にきており、今こそ、フォロワーに注目し、真摯なフォロワーシップ論を展開すべきであるとしています。

 第2章では、フォロワーとは誰のことなのか、フォロワーは何に従い、また、なぜ従うのかをアンケート調査などを基に考察しています。さらには、社会の見方が歴史的にどのように変化を遂げてきたにかについても検討しています。

 第3章では、フォロワーシップとは何かということを、バーナード、サイモンなどの古典的な研究を踏まえて考察し、さらに、現代のフォロワーシップ論について、役割理論アプローチと構造主義アプローチの観点から、その主要な研究を紹介しています。

 第4章では、日本におけるフォロワーシップについて、海外の研究者らの「忠臣蔵」や「葉隠」を取り上げた研究を紹介し、日本的フォロワーシップと日本人労働者特有の忠誠心について考察、その心理的メカニズムとしての"観我"と"従我"を想定した「観従二我論」という著者なりの理論を提唱しています。

 第5章では、これまでの議論を踏まえて、「受動的忠実型F」「能動的忠実型F」「統合(プロアクティブ)型F」という、わが国における三つのフォロワー・タイプのモデルを抽出し、調査の結果から、統合型のプロアクティブ性が、モチベーションおよびメンタルヘルスにポジティブな影響力を有するとしています。

 第6章では、日本人に最も多いと考えられる能動的忠実型フォロワーに注目し、その特徴ともいえる、メンタルヘルスに対する好ましくないインパクトについて考察しています。

 第7章では、これまでの議論を振り返りながら、日本人特有の心理構造や組織との関係性を検討し、労働者の人格を(例えば"組織人格""家庭人格""趣味人格"といった)多層的な自然人として捉えることを提唱、さらにそこから、フォロワーシップ・マネジメントを日本的HRMに応用すると、採用や配属、異動や人材開発などはどうなるか、また、フォロワーシップ・マネジメントがリーダーや管理者を置かないことを理想とするならば、進化型組織とはどのようなものになるかを展望しています。

 役割理論アプローチのところで紹介されている、ケリーの5つのフォロワ・ータイプ(「模範的」「孤立型」「消極的」「順応型」「実務型」)や、チャレフの4つのフォロワー・タイプ(パートナー・個人主義者・実行者・従属者)などはよく知られているものでもあります。一方で、「忠臣蔵」や「葉隠」を、海外のフォロワーシップ研究者が研究対象としていることは、本書で初めて知りました。

 著者は、学部生の時は臨床心理学が専攻であったようです。「おのずから」の我を「従う我(従我)」、「自ら」の我を「観る我(観我)」とする「観従二我論」は、哲学的な概念との印象も受けますが(実際、本書には西田幾多郎なども登場する)、読んでいくうちに、ある種の日本人論に毛戸なっているように思いました。

 本書の意義は、日本でこれまでほとんど議論されてこなかったフォロワーおよびフォロワーシップについて取り上げ、日本人の精神に適合したマネジメントを探っていることにあるかと思います。その際に、観我と従我という心理的メカニズムをもとに日本型のフォロワー・タイプの類型を提唱している点が特徴的であると言えます。

 思えば、リーダーシップ理論もこれまで"輸入モノ"ばかりだったような気がしなくもないです。今後、こうした「日本型フォロワーシップ」の研究はもっと盛んになっていいのではないかと思われ、その嚆矢であろうとする意気込みが感じられる本でした。

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