【2224】 △ 今村 英明 『崩壊する組織にはみな「前兆」がある―気づき、生き延びるための15の知恵』 (2013/05 PHPビジネス新書) ★★★

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手軽に読めるがややインパクトは弱いか。若手ビジネスパーソンへのサバイバルのための指南書?

崩壊する組織にはみな「前兆」がある 1.jpg崩壊する組織にはみな「前兆」がある: 気づき、生き延びるための15の知恵 (PHPビジネス新書)

 三菱商事で10年間海外プロジェクトを担当後、ボストン・コンサルティンググループ(BCG)で19年間内外の一流企業に経営アドバイスを行ってきたという著者(現在は経営大学院教授)が、企業組織が崩壊に向かう「前兆」となる現象を紹介するとともに、その問題点や発生原因を解説したものです。読者ターゲットは、キャリア半ばのビジネスパーソンであるとのことで、そのため、大手コンサルティングファームの出身者が書いた本であるわりには、"田の字"の図説が多用されているようなものに比べ、分かり易く書かれているように思いました。

 本書で取り上げられている15の前兆とは、「沈黙する」「どなり合う」「ブンブン回る」「飾り立てる」「コロコロ変わる」「誇大妄想する」「はしごを外す」「浮かれる」「MBAする」「面従腹背する」「密談する」「ぐちゃぐちゃになる」「からめとられる」「別居する」「マヒする」「落下する」の15です(なぜか16あるね)。

 これらの前兆の発生に大きく影響する要因として、①企業のライフサイクル・ステージ、②企業のDNA、③そのときどきのリーダーのタイプの3つがあり、これらが組み合わさってこうした前兆が生まれるとしています。15の前兆の並べ方は、概ね企業のライフサイクル・ステージに沿ったものであり、「ブンブン回る」あたりから創業期、「浮かれる」あたりから成長期の問題となり、「面従腹背する」「密談する」あたりで成熟期・再生期、「マヒする」「落下する」で衰退期から組織崩壊へ至るとしています。

 15の前兆は、何となく読む前から内容が分かりそうなものもありますが、そうでないものも、各章の冒頭に具体的な事例が紹介されていて、読み始めればすぐにナルホドなあと。例えば「飾り立てる」の章では、経営者が美術品や競走馬にはまった例が紹介されていますが、経営トップ自らが「経営者本」を出したりして、メディアなどで飾り立てられている組織も、顕在的・潜在的両面で問題を内包している可能性が高いとしています。

 「はしごを外す」とは、リスクのある仕事を他人にやらせてその成否を見極め、うまくいけばすかさず自分の手柄にし、うまくいかなければ責任を他人に押し付けて逃げることであり、テレビドラマ「半沢直樹」を思い出してしまいました。ドラマでは、そうした上司に立ち向かう主人公がヒーローとして描かれているのに対し、本書のスタンスは、若いビジネスパーソンの立場に立って、そうしたことが蔓延する組織をどう見切るか、その"見切り"のポイント、ビジネスパーソンとしてのサバイバル方法を指南していると言えるかと思います。

 ただ、個人的に思うに、若いビジネスパーソンの方が意外とこれらの組織崩壊の前兆に敏感であり、むしろ、本書にもあるように、危機感覚が「マヒする」ことになりがちなのは、"組織の中にどっぷりと浸かっている"ベテランだったりするのではないかなあ。

 著者は、15の前兆の中で最も危険なものを一つ選べと言われれば、「沈黙する」(会議などで出席者が口を開かないこと)を選ぶとしており、ベテランの経営コンサルタントが、どのような視点で企業診断を行っているかを知るうえでは興味深い面もありました。ただ、人事パーソンの目線からすれば、全体としてはそれほどインパクトのある本ではないかも(まあ、一応、自らの組織の中で起きていることが、組織崩壊の"前兆"に該当するかどうかを振り返ってみる分には悪くない、と言うか、手軽に読める本ではありますが。

《読書MEMO》
●出席者が会議で沈黙する
役員会での沈黙、部門会議での沈黙、労使懇談会や職場をよくする会での沈黙。せっかく議論するために集まっているのに、みな口を開かない。(中略) 多くの場合、沈黙の会議は、その組織に何か大きな不具合が生じていることの「兆候」と考えてよい。役員会が静かで、議論が活発化していない企業は、おそらく経営的に問題があると疑ってよい。この例の会社もそれから間もなくして、経営不振に陥り、社長も退任させられてしまった。
●経営者が美術品や馬にはまる
これも有名な話だが、ある成功した技術系新興企業の経営者が、ふとしたはずみで馬主になったらその魅力に取りつかれ、ついには巨額の資金を競馬に投じるようになってしまった。しばらくして彼は、会社の役員会で社長を電撃的に解任されてしまった。一説には、彼が「競走馬育成事業」を会社の中核事業にしようと目論んだため、他の役員がそれを阻止するためだった、とも言われている。そのまま競馬事業に突き進んでいたら、その会社の経営はどうなっていただろうか。
●「はしご外し」が蔓延する
正しいことやチャンスがあることでも、そのリスクが目について、自分ではなかなか先頭を切れなくなる。そこで他の人にやらせて、その成否を見極める。うまくいけばすかさず前に出て、自分の手柄にするし、うまくいかなければ首を引っ込めて、責任をそいつに押し付けて逃げる。(中略)もちろん、こうした「はしご外し」行動が蔓延すれば、その組織には徐々に活力が失われ、もはやかつてのようなダイナミックな成長は期待できない。緩やかに衰退していくしかない。
●幹部社員が不審な行動をとる
会社の社員、特に幹部社員に不審な行動が目立つようになると、危険な兆候であることが多い。ひそひそ話、密談、長時間の離席、非常階段や喫煙コーナーなどでの長い携帯電話、会議の席などで目を伏せる、目を合わせない......。こうした行動がしばしば目撃されるのは、組織崩壊の前兆である。幹部や社員は、さまざまな理由で、会社を逃げ出そうとしている可能性が高い。
●利害関係者が多い
こうした体験を通じて、私が考え出したのは、「ステークホールダーの数と意思決定スピードは二乗に反比例する」という法則である。この意味は、ステークホールダーの数が、たとえば4人から5人へと2倍になると、意思決定のスピードは、2×2=4の逆数で4分の1に落ち、意思決定にかかる時問は逆に4倍に延びるということである。ステークホールダーが多いことは、それだけ組織の足を引っ張り、うすのろの組織にする絶大な効果があるということだ。
●「やつら対われわれ」と言いだすようになる
合弁会社や統合会社は、男女の結婚のようなものである。最初は、相思相愛の熱烈な恋愛感情で結ばれたカップルも、結婚して一緒に暮らすようになると、「こんなはずではなかった」という思いが生じ、両者の間に冷ややかなすきま風が吹くようになる。(中略)会話の中に、「やつら対われわれ」というような表現が出てくるのは、パートナー間に不信感が蔓延していることの表れである。こうなると、組織の崩壊も間近である。
●組織の中に浸かってマヒする
想定外の事故が起きたとき、事故調査委員会などが組織されて、事故原因を調査する。そうすると、経営が緩んでいた兆候や、事故が起きる伏線あるいは予兆がいたるところに出てくる。それに対して、調査委員会もまたメディアも「想定できたじゃないか」とか、「事前になぜ手を打てなかったのか」とか、「経営陣の怠慢だ」と責めることになる。(中略)しかし、実際に事故発生前の組織の中にどっぷりと浸かっていると、そうした兆候がいたるところにあったとしても、気がつかない。あるいは気がついていても手を打とうという行動にはならない。「まあ今まで大丈夫だったし...」とか、「自分の任期中には目をつむろう...」となるわけである。

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