【2160】 ○ バスター・キートン/マル・セント・クレア 「キートンの強盗騒動 (悪太郎/The Goat)」 (21年/米) (1977/04 フランス映画社) ★★★★ (○ バスター・キートン/エドワード・F・クライン 「キートンの警官騒動 (Cops)」 (22年/米) (1973/06 フランス映画社) ★★★★)

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20年代がキートンに"神"が宿った時期だった(その前半部分がこれら短編)と思わせる2作。

キートンの警官騒動 警官たち.jpgキートンの強盗騒動 az.png キートンの強盗騒動 逃亡犯.jpg  キートンの警官騒動 poster.jpg
「キートンの強盗騒動 (悪太郎/The Goat)」輸入版ポスター/「キートンの警官騒動 (Cops)」 輸入版チラシ

キートンの強盗騒動 馬の粘土像.jpg 配給のパンにありつけず、とぼとぼと歩いていたキートン。道端に落ちてた蹄鉄を投げると警官を直撃し、警官に追いかけられるハメに。何とか逃げ切ったとき、ふと警察署の中を鉄格子越しに覗くと、凶悪犯が顔写真の撮影をしようとしているところだった。そこでキートンは、凶悪犯に一杯食わされ、キートンの写真が凶悪犯として撮影されてしまう。その後、凶悪犯は脱走し、キートンの写真が脱走中の凶悪犯として公開される―。(「キートンの強盗騒動」)

 「キートンの強盗騒動」は1921年5月の本国公開作品で、日本では、'77年4月に「キートンの大列車強盗(将軍)」がリバイバル上映された際に併映作品として公開されていますが、「悪太郎」の別邦題から窺えるように、大正末期から昭和にかけての米国の短編映画が大量に輸入された時期に既に日本に入ってきていたのではないでしょうか(原題"The Goat"から「身代りの山羊」という邦題もある)。

キートンの強盗騒動 テーラー.jpgThe Goat 1921.jpg 冒頭、パンの配給の列に割り込もうとしたキートンが、注意され列の一番後ろに回ったところ、テーラーのマネキンの後ろに並んでしまうというコミカルな設定から始まって、以降、ギャグがテンポ良く展開され、小刻みなギャグやアクションが間断なく続いて、終盤のキートンを追いかける警官とのエレベータでの追いかけっこまで、一気に見せます。

キートンの強盗騒動 警官.jpg しかも、キートンが恋心を抱き家に招かれた女性の父親が実はその警官だったという、こうしたシチューションは、後の「荒武者キートン」('23年)や「キートンの蒸気船」('28年)にも通じるものがあります。また、列車を使ったチェイスなど、「キートンの大列車強盗(将軍)」('26年)を想起させられる場面もあります。

 無実の罪で追われる者という設定は、キートンの盟友ロスコー・アーバックルが無実の罪で逮捕されたことへのキートンの批判の気持ちを表しているとも言われますが、アーバックルが強姦殺人容疑で逮捕されたのはこの作品の公開の4か月後であり、むしろ、予言的な作品になってしまったという意味で皮肉ではあります。但し、ナンセンス・ギャグとシュールなアクションだけ観ていていも楽しめる作品です。


キートンの警官騒動 逃げる.jpg 金持ち令嬢を好きになったキートンは、彼女に"立派な事業家になったら結婚してあげる"と言われ追い返される。フラフラと町に出た彼は、タクシーを拾おうとする紳士の落とした財布を拾って彼に返そうとするが、渡し損ねて中身だけ貰ってしまう。その大金に目をつけた詐欺師が、引っ越しで今から運ばれようという家具を、持ち主のいない隙に彼に泣きついて無理矢理買わせる。キートンは近くの洋服露地商の値札を、その前に停めてあった馬車の値段と勘違いして僅か5ドルで手に入れ、家具を満載して出発。やがて、馬車は警官の大パレードに突入。折悪しく、その荷台の上で過激派の爆弾が炸裂したため、キートンは何百という警官に追われるハメになる―(「キートンの警官騒動」)。

キートンの警官騒動 シーソー.jpg 「キートンの警官騒動」は1922年3月の本国公開作品で、日本では、'73年6月に「キートンのセブン・チャンス(栃面棒)」がリバイバル上映された際に併映作品として公開されていますが、これももっと早い時期に日本で公開されているかもしれません(但し、何年ごろの公開なのか記録が見当たらないが)。

 冒頭、タイトルに続き、稀代の奇術師フーディーニの"愛は錠前屋をあざける"という言葉が出ますが、キートンによれば、「バスター」という芸名はフーディーニから授かったものだとのことです(キートンの両親はフーディーニの一座のショーに参加していた時期があった)。

キートンの警官騒動 ラスト.jpg 無実の男が警官に追われるという設定は「強盗騒動」と重なりますが、こちらは、アーバックルの事件後の作品であり、ラストが、キートンが逃げるのを諦め、自ら無実の罪で捕まるというコメディらしからぬ終わり方になっていて、エンディングには墓石のようなものが映っていることからも(そこに"THE END"と刻まれ、キートン帽が置かれている)、事件への批判が込められているとみてよいかと思います。

COPS1922.jpg 前半から中盤にかけては馬車に乗って手信号に噛みつく犬をボクシング・グローブで撃退したり、横着してマジック・ハンドで合図していたら、交通整理の巡査を殴り倒していたりという細かいギャグの連続。それが馬車が警官の大パレードに突入してからは、これでもかこれでもかというくらいの数の警官がキートンただ一人を追いかけ、これはこれで、後の「キートンのセブン・チャンス(栃面棒)」('25年)の、キートンが女性の大群に街中を追い掛け回される設定を想起させます。


キートンの強盗騒動 機関車 4.jpg キートンは1920年から23年にかけて自らのプロダクションで20本近い短編を撮っていますが、その中でこの2本は「キートンの文化生活一週間(マイホーム)」('20年)と並んで好きな作品です。キートンがMGMに移ってからの30年代の長編トーキー作品などと比べると、何倍もテンポが良く、ギャグもキレがあって、アクションはシュールということで、しかも、キートンは追われる身でありながら、どこかスマートでカッコ良く(「強盗騒動」で迫りくる機関車の先頭に座りながら、機関車がピタッと止まっても微動だにしないキートンはカッコいい)、こういうのを観てしまうと、逆に後期作品におけるキートンは観ていて痛々しく感じられさえします。

 先にも述べたように、モチーフやアクションにおいて中期作品の原型が見られるのも興味深いですが、これは後から観直してみて気づいたことであり、そうしたものをそれぞれの作品の流れに合った形で作中に取り込んでいるため、"被(かぶ)っている"という印象が殆ど無い(この2作にしても共に警官に追いかけられる展開なのだが)―これも、後期のトーキー作品がギャグの部分だけ"懐かしのギャグ"といった感じで浮いたようになっているのとの大違い―というのはスゴイことだなあと。

 20年代というのがキートンに"創造性の神"が宿った時期であり、その前半部分がこれら短編作品だったと思わせる2作品です(この間の作品が全て傑作とは言い切れないが、「文化生活一週間」とこの2作がそれぞれ1920年、21年、22年に作られているということだけでもスゴイ)。

キートンの強盗騒動 機関車.jpg「キートンの強盗騒動(悪太郎)」●原題:THE GOAT●制作年:1921年●制作国:アメリカ●監督・脚本:バスター・キートン/マル・セント・クレア●製作:ジョセフ・M・シェンク●撮影:エルジン・レスリー●時間:23分●出演:バスター・キートン/ジョー・ロバーツ/ヴァージニア・フォックス/エドワード・F・クライン/マル・セント・クレア●日本公開:1977/04(リバイバル)●配給:フランス映画社●最初に観た場所:渋谷ユーロスペース(84-01-15)(評価:★★★★)●併映:「キートンの文化生活一週間(マイホーム)」「キートンの船出(漂流)」「キートンの警官騒動」「キートンの鍛冶屋」「キートンの空中結婚」

The Goat (1921).jpgキートンの警官騒動 爆弾.jpg「キートンの警官騒動」●原題:COPS●制作年:1922年●制作国:アメリカ●監督・脚本:バスター・キートン/エドワード・F・クライン●製作:ジョセフ・M・シェンク●撮影:エルジン・レスリー●時間:20分●出演:バスター・キートン/ジョー・ロバーツ/ヴァージニア・フォックス/エドワード・F・クライン●日本公開:1973/06(リバイバル)●配給:フランス映画社●最初に観た場所:渋谷ユーロスペース(84-01-15)(評価:★★★★)●併映:「キートンの文化生活一週間(マイホーム)」「キートンの強盗騒動(悪太郎)」「キートンの船出(漂流)」「キートンの鍛冶屋」「キートンの空中結婚」
The Goat (1921)

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